
新スーパードライの価値をどう消費者や流通に伝えるのか。その前段として、アサヒビールの社員全員が意思を統一し、自分の言葉でブランドやフルリニューアルについて伝えられるようになることが不可欠。営業の隅々にまで理解を行き渡らせるために、アサヒが行った本気の「インナーブランディング」を紹介する。新スーパードライが、マーケティングと営業の在り方までも変革した。
策定したブランドパーパスを、どう隅々にまで行き渡らせるのか。極めて重要な役割を担ったのが、7番目の分科会チーム「インナー」だ。
▼分科会などについての関連記事 「SD2.0計画」の全貌 老朽化した“日本最強ブランド”を立て直せインナーブランディングとは、社内に向けて企業ないしは自社ブランドのパーパス、理念、価値などを理解してもらうための活動を指す。外に向けてブランドを訴求する前に、社員一人一人が腹落ちして自分の言葉で語れなければ、どんなアピールも説得力を持たない。
スーパードライのような巨艦ブランドの刷新には特に、アサヒビール全社員の意思統一が不可欠だ。新しいパーパス、コンシューマーインサイト、中味の刷新部分……ブランドで伝えなければいけないことは山ほどある。選んだのは、「2方向からのインナー」という手法だった。アサヒでは、「支店長ワークショップ」「SDエキスパートプログラム」と呼ばれている。
1つ目の方向は支店長ワークショップ、すなわち全国各地の支店を束ねている支店長へのインナーだ。スーパードライのリニューアル前から、量販店の営業スタイルを変革すべきではないか、という声は上がっていた。取引先に1箱でも多くのアサヒ商品を買ってもらう。営業なら当たり前の姿だが、この姿勢が強過ぎるあまり、「ブランドを育てるという意識が希薄だったのではないか、という反省もあった」と、アサヒビール量販統括部地区支援グループ次長の佐々木真氏は言う。
そこで、2021年7月から「量販営業スタイルの変革」プロジェクトを開始。大本となるKGI(重要目標達成指標)を、箱数だけではなく利益やブランドの考え方を持つ方向で変える。対象となるのは、全国の量販業務に携わる支店長46人。「営業の現場も箱数だけ商談成立したら、後の陳列などは店舗スタッフの力量に任せていたのを改め、どう並べればブランドの価値が伝わるのか、営業側の意識変革が必要」(佐々木氏)という考え方からスタートした。
もう一つの課題としてあったのが、コロナ禍による営業部員間のコミュニケーション不足。営業活動が個別化してしまい、かつてあったような仲間同士で会話しながら営業スキルを磨き上げるという考え方が薄れていた。「リアルに集まってというのは難しいが、議論する場を持ち、みんなで考えていきましょうと意識を共有した」(佐々木氏)
ここで同8月、佐々木氏をはじめとした現場にスーパードライリニューアルの話が降りてきた。営業スタイルをブランド主軸に変革するには、これ以上ない“題材”だ。2カ月の準備期間を経て、リニューアルしたスーパードライのブランドをどう伝えていくのかという、支店長ワークショップが同10月からスタートした。
営業とマーケで「お客様」の意味合いが全く異なる
重視したのが「本部商談」だ。本部商談とは、取引先である量販店チェーンの本部との商談を意味する。これまでの商談といえば、どうしても新商品や新ブランドが中心になりがち。必然的に商談もその条件などが本部側の関心事になっていた。
一方で、酒類売り場で一番の売り上げを占めていて、チェーンへの貢献度も一番高いはずのスーパードライは、残念ながら議題に上ることが少なかった。だからこそ毎年のように話題喚起を狙い、20年秋にも、皮肉にもフルリニューアルの契機となった「アサヒスーパードライ 史上最高のうまさ実感キャンペーン」を行ったわけだ。「これまでの本部商談では、既存のブランドについて丁寧に語るということをあまりしてこなかった。支店長ワークショップでは、ブランドのどういう価値を伝えるのかという議論をものすごく行った」(佐々木氏)
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