リサイクル&アップサイクルへの挑戦 第9回

アップサイクルの重要性が認識されるに従い、アップサイクルをビジネスにするスタートアップも登場してきた。ファーメンステーション(東京・墨田)も、その一つ。地域に眠る未利用資源を、発酵技術でアップサイクルする研究開発型スタートアップだ。JR東日本スタートアップ(東京・港)やカンロ、アサヒグループホールディングスなどとのコラボレーションも進めている。

菓子メーカーのカンロと協業して製造した「アロマスプレー」(左)と「マスクスプレー」。アロマスプレーはヒバ&カルダモンの香りで、マスクスプレーはラベンダー&ティーツリーの香り。一般販売はせずカンロのイベントでのみ配布したが、現在は一般消費者向けの日用品も開発中だ
菓子メーカーのカンロと協業して製造した「アロマスプレー」(左)と「マスクスプレー」。アロマスプレーはヒバ&カルダモンの香りで、マスクスプレーはラベンダー&ティーツリーの香り。一般販売はせずカンロのイベントでのみ配布したが、現在は一般消費者向けの日用品も開発中だ

 2009年に設立したファーメンステーションは、「Fermenting a Renewable Society」をパーパスに、未利用資源を発酵技術でアップサイクルする研究開発型スタートアップ。中心事業はアルコール(エタノール)の原料開発と販売、自社オーガニックブランド事業、化粧品・日用品などのOEM開発、未利用資源を活用した事業共創の4つだ。

 代表取締役の酒井里奈氏は、金融業界で長年働いてきたという経歴の持ち主。同社を設立した理由は、「環境や地域に良い影響を与えるような事業活動をしたかった」からだという。「同時に、今で言うアップサイクルである『ごみが何かに変身する』といったことにも興味があり、『発酵技術を使うことで、未利用資源を価値あるものに転換できるのではないか?』と思いついた。東京農業大学に入学し、発酵技術を一から学んだ」(酒井氏)

 会社設立後は、岩手県奥州市の農家と協力し、地元の休耕田を活用して、エタノールの原料にするための非可食の有機JAS米を栽培することからスタートした。休耕田とは一時的に耕作をやめている水田のことで、病害虫の発生源となり、周囲の田畑に悪影響を与えるなどの問題があった。休耕田を活用することで虫害をなくし、さらに地域の雇用も生み出すことに成功した。この奥州市産の米から作ったオーガニックライス・エタノールが、同社の主力商品だ。

 19年からは企業とのコラボレーションも積極的に受けるようになった。企業コラボでは、同社のライスエタノールを利用して商品開発した例もあれば、各企業の未利用資源を原料にエタノールや発酵エキスを精製し、それを利用して商品開発した例もある。

 例えば、JR東日本スタートアップと協業して作ったルームスプレーとアロマディフューザー(19年発売)については、JR東日本青森商業開発(青森市)が運営する青森駅隣接のシードル工房「A-FACTORY(エーファクトリー)」で発生するりんごの搾りかすを原料にエタノールを製造した。シードル工房では、それまでりんごの搾りかすは廃棄していたという。さらに、エタノール抽出後に残った「発酵残さ」も家畜の餌に利用することで、ごみゼロのサーキュラーエコノミーを実現した。

「A-FACTORY」のシードル工房で発生するりんごの搾りかすから作ったエタノールを使用した「MUSUBI」ブランドのアロマディフューザー(2365円、税込み、以下同)とルームスプレー(2145円)。商品の成り立ちを知ってもらうため、「青森りんごで作ったエタノール」という文字を大きく表示している
「A-FACTORY」のシードル工房で発生するりんごの搾りかすから作ったエタノールを使用した「MUSUBI」ブランドのアロマディフューザー(2365円、税込み、以下同)とルームスプレー(2145円)。商品の成り立ちを知ってもらうため、「青森りんごで作ったエタノール」という文字を大きく表示している

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