2月にSKY-HIによるダンス&ボーカルの大型プロジェクト「D.U.N.K.」が始動した。日本テレビで毎週される放送に加え、3月にはアリーナ規模でのライブが3公演、さらには今後各種SNSでの発信も絡めて、立体的に展開する。参加アーティストにはLDHのGENERATIONS、BALLISTIK BOYZ、HYBE JAPANの&TEAM、ソロアーティストのAyumu Imazu、BMSGからSKY-HI、BE:FIRST、Aile The Shota、REIKO、そして大御所のDREAMS COME TRUEなど、ダンス&ボーカルの「今」を象徴する幅広いメンバーが揃った。プロジェクトの軸にあるのはダンスだ。
これまでの日本の音楽番組って、パフォーマンスに身体性があまりないなと思っていたんです。そもそも日本のボーイズグループ市場は、本当にすごく特殊であり閉鎖的だと思うんです。何か開けたものをやりたい感じは本当にありますね。韓国では芸能事務所に関わらず共演やコラボレーションの機会も多いじゃないですか。そうした競争がないと、やっぱり市場として伸びていかないので、「D.U.N.K.」でそれを作りたかったのはありますね。
結局中心にあるのはフェス(D.U.N.K Showcase)であり、それを毎年続けていくことが1番大事だと思っています。その前後に番組があり、パフォーマンスに関してはYouTubeなどで切り抜いて見ることができるという構成です。それが話題になる環境が作れれば、プロジェクトも軌道に乗ると思うんですけど。
「毎週、豪華なスタジオで音楽番組をやる」ことは様々な要因で現在の日本では現実的ではないし、まだ目標としてないんです。それよりはライブを開催して、照明を含めた演出はもちろんのことオンステージカメラも含めて相当なカメラ台数を使ってハイレベルなパフォーマンスを撮影できて放送に載せられれば、こちらでハンドリングできることも増えるし、これ以上の音楽コンテンツはないと思うんです。そういう意味では「D.U.N.K.」の本当の始まりは、ライブ後の3月後半以降です。
いろんな事務所さんと仕事をするので、日本テレビさんにお願いしました。BMSGが主催してビジネスメリットを持ってしまうと、不公平、不誠実に感じる会社も当然出てくると思うんです。また、将来的に参加してくださる方を増やしたいので、日テレさんに入っていただくことでその可能性も広がると考えています。企画して矢面に立つのはウチなので心身共に本当に大変ではあるのですが、そこは頑張ろうと思っています。
アーティスト同士の共演やコラボレーションが実現する前に、所属事務所が「D.U.N.K.」を掲げる理念や未来に共感・共鳴することが必須だ。現段階での出演ラインナップを見る限り、そこはひとまずうまく進んでいるように見える。
今のタイミングだといい空気感が作れるんじゃないかなと思っていましたが、実際にそうなりましたね。ありがたいし、頑張らなくちゃという気持ちはありつつ、調整の大変さも正直ありますね。新しく始めるものに、よその事務所さんを巻き込むわけですから、責任とプレッシャーと不安が大きいです。でも成功させて次につなげなくてはいけないので頑張ります。実は海外の人気アーティストさんも興味を示してくれたんですが、今回は残念ながらビザの関係で間に合わなさそうなんです。今後もそうした問い合わせが増えるプロジェクトに育てていきたいですね。
データや数字に振り回されない「本能的な好き」
そもそも、2023年のBMSGの社是は「日本を踊らせる」だ。
みんなが「踊らないから」じゃないですかね(笑)。躍るにはダンスそのものに加えて「心踊る」も掛けているんですが、一言で説明すると「日本を本能的に楽しませたい」ですね。
本来、ダンスミュージックって、踊っている人を見るためではなくて、リスナーが踊るために存在するもの。音楽に合わせて体を動かすことへの喜びを人間は本能的に備えているはずなんですよ。そこにはうまい下手もなく、単に音楽を本能的に楽しむ行為の表れがダンスだと思うんです。よく小さい子が音楽に合わせてぴょんぴょこ跳ねるじゃないですか。あの感じを取り戻したいところはありますね。
概して、今はデータや数字でアーティストを評価しがちな世の中だと思います。ファンがその数字やデータを見て感じるのが充足感だけならいいですが、実際には逆に無力感で落ち込んだり、ファン同士で殺伐としている感じが少しあります。先ほど韓国のコラボレーションのいい面を上げたけれども、日本では極端に他事務所の方とのコラボレーションが少なかったため、その競争によってファン同士の競争やアレルギーが生まれて殺伐としてはいけない、それが文化を殺してきていると思ってます。
そうした空気を払拭するためにも、こちらはMVや楽曲で純粋に良いもの、バックボーンや深みのあるものを作り続けますが、ファンの方々には「好き」のロジックを埋めるための理由を探すのではなく、ダンスによる身体性に意識を向けることもおすすめしてみたいです。もちろん応援の仕方や楽しみ方は人ぞれぞれではあるけれど、身体的・本能的に「好き=好き」でいられる空間は絶対にもっと広がったほうがいいですよね。「D.U.N.K.」では所属を超えたアーティストが仲良く共演し、一緒にパフォーマンスする姿を見せていきますが、それによってシンプルに「好きイコール好き」「好きビコーズ好き」という楽しみ方を提唱したいと考えています。
ファンの方々の音楽リテラシーを高くするのは簡単なことではないし、僕はその必要は全員にはないと思うんですよ。ファンの人が歌やダンスがうまくなる必要もないし(笑)、専門的な知識がなくてもいい。それらの知見と責任を持ち得たメディアや評論家の正当な批評はその純粋な盛り上がりの先にあると思いますし、その実績の積み重ねでカルチャーが生成されていくと思いますが、日本は本当にまだこれからです。
YouTubeやSNSで誰でも発信ができる時代になりましたが、実績やそれに伴う責任の生じない、何かを生み出した経験のない個人が我欲混じりの批判を繰り広げていても音楽リテラシーの向上にはつながりませんし、その状態での安易な扇動は芸能やエンタテインメントをすごく後退させることにつながり兼ねない。もちろん誰にでも発信する権利はありますが、芸能に限らず陰謀論や分断の促進などの社会問題の多くもそういった個人メディアの発信が寄与していますし、問題視すべきだと思っています。音楽リテラシー以前にインターネットリテラシーが必要です。そういったものに流されないためにもやっぱり、まずはスタートとして、そして最終的にも、「好きビコーズ好き」が大事なんです。

『マネジメントのはなし。』 SKY-HI・著
社長・SKY-HIの挑戦をたどれる“ドキュメンタリー本”
課題意識を持つビジネスパーソンへのヒントも満載な1冊
今、音楽業界で最も勢いのあるマネジメント/レーベル「BMSG」。そのCEOであり、アーティストとしても第一線で活躍するSKY-HIの『日経エンタテインメント!』での連載が待望の書籍化!
オーディション「THE FIRST」がムーブメントを起こし、そこから誕生したBE:FIRSTはデビュー1年で紅白歌合戦に出場。2020年9月にたった数人で始まったスタートアップ企業が、なぜここまで急激に成長できたのか。本書は、その時々でSKY-HIが抱える課題や挑戦にフォーカスしたドキュメンタリー的な1冊。「課題解決」「人材育成」「スキルアップ」「コミュニケーション」など、ビジネスのヒントの宝庫ともなっている。
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