※日経エンタテインメント! 2022年12月号の記事を再構成
設立2周年となる9月17日、18日、BMSGは初の大規模自社興行として「BMSG FES‘22」を開催。所属する15人全員がステージに上がるフェスは、BMSGおよびアーティストの過去・現在・未来へのストーリーを強く感じさせる強烈なメッセージを打ち出し、アーティストもまたその意義に対して全身全霊を込めてステージで表現してみせた。ただ、SKY-HIはBMSG FESを振り返り「野外フェスを初めて自社興行でやるがゆえの苦労も多かった」と語る。
「30人程度の会社でこんな大規模な興行をするのは初めて見た」と言われたのですが、屋内のライブ会場でやるのとは全くわけが違いました。ステージがないだけでなく、入退場の動線はおろか会場への入り口もない。セットの建て込みも、やろうと思えば際限なくできるんです。野外フェスを作るのはこんなに大変なのか、と驚きました。今回、新しいノウハウをたくさん積んだのは自分よりもスタッフだと思います。
自分が難しかったのは、予算配分とその決定。お金を掛ければ掛けるだけ、できることが増えます。しかも、まだ設立2年とはいえ会社全体を応援してくれる人が多いことを考えると、面白い興行であることはマスト。採算度外視で実現しなくてはいけないことは当然あったけれども、終わったあとに関わった全員が「やってよかった」を共有できたほうが今後にとっていい。だから、ものすごい赤字を出すのも違うわけで、そのバランスの取り方が難しかったです。
そういった苦労も多かったですが、遠くからステージを見たときに本当に“一国一城”(編集部注:ステージは城をかたどったデザインだった)みたいなものを実感できたのは、このうえないご褒美でした。最初に建て込みが終わってセットを見たときと終演後のバラシのときは、自分が立ち上げた会社でこれが実現できたんだ、とすごく感動しました。頑張ってきた成果をもので見せてもらえた気がしたので。個人的にも、想像以上に野外でやれて本当に良かったなという思いがあります。
初日終演後に変えたセットリスト
――様々な取捨選択があったなかで、絶対に実現しなくてはいけなかった演出は?
フェスの最後を初披露の『New Chapter』で締め、曲が終わったと思ったら何の説明もなしに終演する、ですね。クリフハンガー(盛り上がったまま幕を引く作劇手法)が好きなので(笑)。そう言えば、本当は2日目のセットリストでは、最初と最後の2曲を1日目と入れ替え、1曲目を『New Chapter』、最後を『Brave Generation Remix』にする予定だったんです。でも、1日目のBE:FIRST『Gifted.』から『New Chapter』への流れが照明も含めてかっこよすぎたので、1日目を終えた段階で順番を入れ替えないことに決めました。
これまで、「『少年ジャンプ』的な世界観・価値観が好き」といろんな場所で話してきましたが、最近はマーベルのほうが近いんじゃないかと思います。一例を挙げれば、(BE:FIRSTのSOTA、MANATOと、Aile The Shotaのユニット)Show Minor Savageの登場の仕方もまさにマーベル的。本人たちの意向もあるのですが、イントロが始まる前にステージ上でラフに挨拶を交わす感じには、ワクワクされたんじゃないでしょうか。
やりたいと思って実現できなかったアイデアもあります。例えば『New Chapter』のMVに出てきた侍だったりが、実際に会場をウロウロしているとか(笑)。
――彼のマーベル好きはファンにとってはよく知られるところだろう。BMSG FESの場合は、キービジュアルでの筆文字によるロゴや和を感じさせる衣装、「新章突入」の広告ビジュアルに始まり、城や不死鳥をかたどったステージ美術、開演前の時代劇の登場人物のような音声アナウンス、衣装やヘアメイク、終演後の帰り道を飾る提灯、展開されるグッズなど1つの世界観を貫いているという意味で、マーベル的だった。
マーベルが世界中で人気があるのも、一貫した世界観が作品を越えて地続きで展開されていて、考察の楽しさがあるところだと思います。BMSG FESでも、ロゴが最初に世に出た時点で、フェスの世界観が伝わるものにしているつもりです。
音楽ライブって舞台や映画に比べると作り込みが浅いものが少なくないと感じることがあるのですが、BMSG FESではそこをしっかり作り込みたかった。ディズニーランドにいるときって待ち時間も割と楽しいし、ディズニーランド以外の話ってしないじゃないですか。それはすごく大事なことだと思うし、ライブの時間・空間もそうあるべきだと考えていました。
――最後にSKY-HI自身の話を聞いてみた。この連載はBMSGの意図や目的、所属アーティストの成長などについて語ってもらうことが軸だが、今回、過去の彼が感じていた出口の見えない苦しみに、BMSG FESを通してある種の区切りをつけられたように強く感じたからだ。
正直、自分自身がこんなに「やってよかった」と思うとは想像してなかったところがあります。ほぼ初めて「これをやるために生きていたのかもしれない」という感覚がありました。この十数年の僕を見てきて、今回もライブ制作で入ってくれているショーデザインの石川淳にも、1日目の終演後にまずこう言われたんです。「ここ十数年の諸々は、全てこの日のためにあったみたいなライブだったね」と。
自分自身も本当に“人生の精算”ができた感覚を得た瞬間でした。

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