前回(「SKY-HI、ビジネスフォーラムで語ったBE:FIRSTが支持された理由」)に続き、「日経クロストレンド FORUM 2022」から、7月21日に登壇したSKY-HIの講演を再録する。テーマは「SKY-HIの音楽ビジネス革命 ネット時代のヒットづくりとは?」。9月17日、18日に初の大規模自社興行である「BMSG FES‘22」を大成功で終え、音楽業界で最も勢いがあるBMSGを率いるSKY-HIが、今の時代のヒットに必要不可欠な要件として語ったのは「嘘がないこと」「純度の高いやりたいことを本気で作ること」だった。(聞き手は吾妻拓・日経クロストレンド編集委員)
――本気を伝えていくなかで、SKY-HIさんが意識されていたことは?
圧倒的な性善説であり真理でもあると思うんですけど、本当は本気でやりたくない人なんていないと思うんですよ、みんな。例えば本気で頑張ることは恥ずかしい、照れくさい、かっこ悪いっていう環境にいたらそうなるし、本気で頑張っても失敗したら恥ずかしいっていう環境にいてもそうなると思うんです。
合宿では、俺が一番恥ずかしいことしていたんで。だって会って1週間でみんなと一緒にお風呂に入って恥ずかしい部分を見せている(笑)。冗談はともかく、ちゃんと本気で接してきて、恥ずかしい部分を見せてきました。
今まで表で話していないことで大事にしてきたことがあるとしたら、例えば100人いれば100人、15人だったら15人、BE:FIRSTだったら7人ですが、完全に同じことを考えている人はいないので、自分が持っている強烈な意志とか旗のもとに彼らを引っ張っていく形はあまり適してないんだろうなとは思っていました。
大事なのは、掲げた旗に対して付いてきてくれた方が、なぜ「いいな」と付いてきてくれたのかをちゃんと気にすること。どうしてBMSGやTHE FIRSTに賭けてくれたのかという理由はそれぞれ違うし、向かう先や幸せの形もそれぞれ違う。そこを忘れずに彼らときちんと接することができれば、きっと信頼していただけると考えました。そうした関係の上で、自分がたまたま彼らよりちょっと早く生まれ、アーティストとしても知見や知識があり、アドバイスできるようなことがあるので、それを彼らにお渡ししていくということです。
――先程、「嘘をつかない」というのがヒットの根っこのところにあるという話をされていましたが、コロナ禍を経て「ものの作り方」は変わってきたと感じられますか?
それは、すごく思います。圧倒的に嘘や見せかけがばれるようになったと本当に思います。
昔だったらプロパガンダやハイプ(過剰な宣伝)がいい方向に転がっていたと思いますが、それが通用しなくなった。実(じつ)のない信仰みたいなものも、どんどん(虚像が)めくれていっていると思います。嘘が通用しなくなった一方で、本気が尊ばれるようになったと思うので、自分にとっては本当に20年以降の世の中のほうが生きやすいし、やりがいもあるなあという気はしています。
――ヒットづくりを仮に考えていくとすれば、本気のコンテンツをどんどんぶつけていく以外にないだろうと。
それしかないと思いますね。かつての新自由主義や10年ほど前にハック思考がはやっていた頃って、数字や影響力が「目的」であり、プロダクトそのものは「手段」だったと思うんです。それを否定するわけではありませんし、本気で突き詰めているのであれば1つの美学だし哲学だし美しいことだと思うのですが、今の時代に一番ヒットする確率が高いものが何かと言ったら、1人の人間の中にある、ものすごく純度の高い「本当にやりたいこと」を、本当にやりたい形でフルにやれたときに生まれると思います。きれい事のように聞こえるかもしれませんが、ドライに考えてもそう思いますし、とにかくその「純度の高さ」が大事なんじゃないでしょうか。
――コンテンツを見る側、例えばファンの人たちの心理も変わりましたか?
たぶんそうだと思います。(コロナ禍という)圧倒的なファンタジーが現実に起こってしまったじゃないですか。今まで「現実から逃げるためのファンタジー」としてエンタテインメントが機能していた側面っていうのは確実にあったと思いますし、今後も当然ゼロになることはないと思うけれども、現実から逃げるためのばれない嘘を尊ぶ形から、本当のものをちゃんと見たいという方向に変わってきているように思います。本当のものが一番感動を生むのは昔からですが、もっとカジュアルに本当のものを見たい気持ちは増えているんじゃないかなと思います。僕も「本物」っていう言い方は好きじゃないんですが、でも見せかけでなくて実(じつ)のある「芯のあるエンタテインメント」「芯のあるきれい事」「芯のある関係」を求める傾向は、コロナ以降で加速したように思います。
自分はコロナ前からそういう形でやっていましたが、あつれきをそこここに生んでしまいました。ファンの方からも「なぜあなたは嘘をつかないのだ」「なぜあなたはステージに立つ人間なのにフィクションをしないんだ」などと言われ続けてきて、それは僕自身の大きなトラウマにもなっていたんです。でも、コロナ禍以降およびBMSG設立以降、THE FIRST以降はどんどんとそれが薄くなりました。今はスーツを着てネクタイを締めていても、ステージ上にいても、BE:FIRSTのレコーディングに立ち会っていても、どんなときも自分のままでいられます。スタッフと話すときとアーティストと話すとき、ステージの上からファンの方に話すときのテンションも常に変わらずにいられる。いつでも自分のままでいられるので、生き物としてすごく楽なんです。「びっくりするくらい(B)マジで(M)素のまま(S)頑張っています(G)」で、BMSGなんですよ(笑)。
「新章突入」を機に新規の流入を増やしたい
――これから新しい音楽ビジネスをつくっていくのに、必要なものは何ですか?
ここまで話してきたことに加えるとしたら、他とのユニティのような気がします。
1つの権利や利益を独占することが「成功」だった時代があったと思うんですが、これからは、横のつながりを持って「みんなで頑張る」ことが大事な気がしますね。
韓国ではBTSが世界的な名前の残し方をされています。彼らは急に大ヒットしたかのように思われがちだけれども、K-POPは、(88年にデビューした)SHINHWA(神話)から東方神起、BIGBANG、BTS、NCT、Stray Kidsなどへと切磋琢磨(せっさたくま)し合いながらバトンをつないでいっている。それこそユニティみたいなことがないと。経済も自由競争がなかったら発展しないじゃないですか。だから、ユナイトとフリーダムが重要だと思いますね。
――BMSGは「新章突入」の広告で渋谷の駅前をジャックしました。(編集部注:BMSGは6月8日から14日の1週間、渋谷に全11種のクリエーティブを掲げた。さらには謎解きの要素があり、一連の広告から「新章突入」のメッセージや日付が読み解ける仕掛けになっていた)ここにはどんな意図があったのでしょうか?
結論から言うと、9月18日はBMSGの設立2周年で、9月17日、18日に「BMSG FES ‘22」(フェスの模様は10月31日までHuluストアにて独占配信中/BMSGの理念の解像度が上がる必見の映像だ)という自社最大規模のイベントを開催します。掛けるお金で言ったらTHE FIRSTの何倍もの挑戦で、そこに向けて盛り上げたい。BMSGや所属アーティストを応援してくれている方は、BMSGはすごい勢いがあると感じてくれていると思うんですが、その勢いをさらに世の中に広く伝えていくために大事なのが、こうした宣伝をしていくことだと考えました。単に、「9月17日、18日に富士急ハイランドでBMSG FES ‘22をやります」と書かれていても印象に残らないじゃないですか。ならば何か面白いことをしてみたいなと思ったんです。
この新章突入を機に、新規の方々の流入を増やしたいという狙いもあります。僕、シリーズものの映画が好きなんですけど、『スター・ウォーズ』やマーベル作品でも、新規の方々が入りやすいタイミングって新しい展開が始まる「新章」じゃないですか。また、今後BMSGが明かしていくであろういろいろなことを総称すると、「新章」だろうと。僕の頭の中が『少年ジャンプ』でできているものだから、こんな仕掛けをしました(笑)。
――お時間が来てしまいました。今後のSKY-HIさんの音楽ビジネス革命に、我々も本当に注目したいと思います。本日はありがとうございました。
極力ハードル上げずに褒めていただけると(笑)。ありがとうございます。

『マネジメントのはなし。』 SKY-HI・著
社長・SKY-HIの挑戦をたどれる“ドキュメンタリー本”
課題意識を持つビジネスパーソンへのヒントも満載な1冊
今、音楽業界で最も勢いのあるマネジメント/レーベル「BMSG」。そのCEOであり、アーティストとしても第一線で活躍するSKY-HIの『日経エンタテインメント!』での連載が待望の書籍化!
オーディション「THE FIRST」がムーブメントを起こし、そこから誕生したBE:FIRSTはデビュー1年で紅白歌合戦に出場。2020年9月にたった数人で始まったスタートアップ企業が、なぜここまで急激に成長できたのか。本書は、その時々でSKY-HIが抱える課題や挑戦にフォーカスしたドキュメンタリー的な1冊。「課題解決」「人材育成」「スキルアップ」「コミュニケーション」など、ビジネスのヒントの宝庫ともなっている。
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