※日経エンタテインメント! 2022年8月号の記事を再構成
BE:FIRSTは8月31日にリリースする1stアルバム『BE:1』を引っ提げて、9月23日から初の全国ホールツアー『BE:FIRST 1st One Man Tour “BE:1”2022‐2023(仮)』(17都市25公演)をスタートする。夏には「ROCK IN JAPAN FESTIVAL2022」(8月12日)、「SUMMER SONIC 2022」(8月20・21日)などのフェスに出演し、さらに「BMSG FES ’22」(9月17日・18日)も控え、ツアーの際には多くの経験を積んで一皮むけたBE:FIRSTに会えるに違いない。彼らの次なるステップとなる1stアルバムと1stツアーを、SKY‐HIはどう位置づけているのだろうか。
僕にはBE:FIRSTがドームツアーを実現するまでの導線が明確にあって、そのために「やりたいこと」と「やらなくてはならないこと」があると考えています。今の段階で「やらなくてはならないこと」となる1つがホールツアー。具体的には、2000人から3000人規模での公演を同じ内容でたくさん繰り返すことです。
ツアーをビジネスマターで捉えればアリーナ規模以上の公演は利益率が高いし、応援してくれるたくさんのファンのために大きな箱を用意することもWIN-WINに見えるけれど、そこにはアーティストの成長という視点が抜け落ちている。今それをやってしまうと、人間的なキャパシティーを含めた彼らの足元が固まらないまま、アーティストとして大きくなってしまう。図形で例えるなら、フラフラとアンバランスな逆四角すいのような形になりかねない。僕らマネジメントやプロデュース側の人間が努力すべきことは、極力縦長の直方体で成長させることだと思っています。
ホール規模のメリットの1つは、繰り返しになりますが、お客さんの1人ひとりを「人」として認識できるから。また、日本全国を周る経験もとても大事なことなんです。各地のBESTY(BE:FIRSTのファンネーム)のもとに足を運んで、どんな土地でどんな方々が応援してくれているのかをきちんと実感してほしい。
演出に頼らない技術力を
演出面で言えば、ホール規模では彼ら自身のフィジカルが必要になるのも大きなメリットです。純粋に歌やダンスの技術が必要になる。アリーナやドーム規模の公演になると、派手な演出も入るし、お客さんがビジョンを見ている時間も長くなりますよね。そういった環境下では、パフォーマンスに多少粗があっても成り立ってしまう。経験値が浅く技術が伴っていなくても、外的要因でお化粧できてしまって、公演としては成功しちゃうんです。アーティストとして最初の段階でそれをやってしまうと、自分が足りない部分を伸ばすことに意識が及ばなくなってしまうのは良くないです。
何千人もに肉眼で常に見られていると意識することで、パフォーマンスやMCなど全てにおいて大きく変わると思います。それをしっかり経たうえでアリーナ、さらにはドームへと進めれば数万人規模でも人に届けられるようになる。次に「VIVA LA ROCK」のような大きな場に出たときも、慣れた光景として見せ方も変わってくる。そうやってアーティストとしての規模感を大きくしていくべきだと自分は思います。
さらに、同じ公演を20回以上繰り返すから、毎公演を検証して次につなげることもできる。うまくできなかったことを改善するだけでなく、慣れてきたら「ここをこういうふうにやってみよう」「今日はここを意識してみよう」にトライしてほしい。自分の経験からも、そんな2~3カ月があるのは本当に成長につながると感じます。
例えば、普段のレッスンでもコマ数をやるだけではなく、何ができなかったか、何ができるようになったか、こういう方法で効果があった、などを意識しながら反復することが成長につながるなという実感があります。最近自分ができているかというと反省しなくちゃかもですが。ほら、RHYMESTERも言ってるじゃないですか。「常に研究 常に練習 知恵を結集し 君をレスキュー」(RHYMESTER『K.U.F.U.』が続くが以下略)。まさにそれです。
人生の喜びを増してくれたホールツアー
――続けて、SKY-HIは「全国どこにでも2000人程度収容の、音楽が鳴らせるホールがあるのは、本当に日本のいいところ」と語る。BE:FIRSTが数カ月間各地を周り、各地を知る経験をすることで、結束力を強め、人間的なキャパシティーを育てることにも期待する。
僕もここ十数年、日本全国のライブハウスやホールを年2回くらい周るようなツアーを続けていますが、そこで感じることは今なおものすごく多いんです。いまだに「日本にはこんな所があったのか!」と驚くことが絶えませんし、概念としての日本ではなく、土地としての日本を好きになることがたくさんあります。彼らもそういった「想像の余地」を作る経験をいっぱいしてほしい。興行というのは、本来そうでなくてはいけないと思っています。
それに加えて、僕にとっては人生に対する喜びも格段に増やしてくれた。僕はソロではありますが、それでもバンドやダンサーだけでなくツアースタッフといった一緒にツアーを周る仲間たちと、中日に東尋坊に足を伸ばしてみたり、森に行ったり海に行ったり橋に行ったり温泉に入ったり…そういった喜びを仲間と共有する経験が内側の結束力を強くするし、BE:FIRSTもそういう集団であってほしい。仲間ともっといい景色が見たいという夢が膨らむし、ちょっとしんどいなと感じた時期にそれがなかったら、僕は多分ここまでやれてなかった気がするんです。
彼らもこの段階でホールツアーを数カ月間みんなで周れば、アーティストとしても人間としても大きく成長する。それができれば、向こう5年間安泰じゃないかな。そう信じられるくらい大事なものだと思っています。

『マネジメントのはなし。』 SKY-HI・著
社長・SKY-HIの挑戦をたどれる“ドキュメンタリー本”
課題意識を持つビジネスパーソンへのヒントも満載な1冊
今、音楽業界で最も勢いのあるマネジメント/レーベル「BMSG」。そのCEOであり、アーティストとしても第一線で活躍するSKY-HIの『日経エンタテインメント!』での連載が待望の書籍化!
オーディション「THE FIRST」がムーブメントを起こし、そこから誕生したBE:FIRSTはデビュー1年で紅白歌合戦に出場。2020年9月にたった数人で始まったスタートアップ企業が、なぜここまで急激に成長できたのか。本書は、その時々でSKY-HIが抱える課題や挑戦にフォーカスしたドキュメンタリー的な1冊。「課題解決」「人材育成」「スキルアップ」「コミュニケーション」など、ビジネスのヒントの宝庫ともなっている。
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