※日経エンタテインメント! 2022年6月号の記事を再構成
4月10日、SKY-HIはTwitterでBMSGの求人募集を告知した。4月15日現在、1万2000件以上の「いいね」が付き、3000件以上のRTが付く大きな反響を呼んでいる。SKY-HIが20年9月に設立し、SKY-HIとNovel Coreの2人だったマネジメント/レーベルは、オーディションプロジェクト「THE FIRST」を経て、急拡大した。現在所属アーティストは4人と1組、デビュー前のトレーニーは4人になった。今回の求人募集はそのまま「リソースの確保」でもある一方、スタートアップとしての「成長への意志」も感じる。そこにあるSKY-HIの意図とは?
BMSGの求人への考え
恐らく「経営者が人材募集をする」ことに関しては、特別なことではないですよね。反響の大きさは、自分が経営者のなかでも認知度が高いこと、僕自身がアーティストや芸能人としての側面があるからだけだと思います。その結果、非常に多くの方にエントリーいただいている状況です。
以前、『スッキリ』(日テレ系)で「新社員のオーディションをします!」とお話ししたのですが、それを実現するには、まずは会社の組織形態を整えないと、と考えました。
今、BMSGのスタッフは20名弱です。この人数は、芸能事務所としては少なくないほうなんです。中堅事務所でも社員3~5人というところがざらにあります。そんな中で新興のBMSGが20数人抱えていることに対して、「効率が悪いんじゃないか?」などの意見もいただくのですが、一方でベンチャー企業の経営者に売り上げや経営規模を伝えて話すと、「今がまさに、もっと人的リソースを増やすタイミングだ」と言われることが多いです。
芸能の世界の人的課題
今、働いてくれている人たちは精鋭ぞろい。それにもかかわらず、BMSGとしての成長曲線に比すると、やっぱりリソース的に十分ではない。僕がこれからやりたいことを実現しようとしたら、今の社員をさらに圧迫することになってしまいます。それを考えると、日本の芸能事務所はかなり無理をして運営しているように思います。
僕らBMSGも、現在ですらかなり社員に対して無理強いをしている部分があると思うのですが、やっぱりこのまま人的リソースやそこに伴う人件費をケチって進めるわけにはいかないんです。
――今回、募集がかけられたポジションは、「人事ジェネラリスト/HRジェネラリスト」「アーティストマネジャー職」「クリエイティブ デスク」「運用/広報/HP運営」の経験者。特に興味を引いたのは、アーティストマネジャー職、経験5年以上という条件だった。我々媒体側と接する機会の多いマネジャーだが、一般にはその業務を正確には把握されていないように思われる。一般企業での「マネジャー」の肩書きは、部署やプロジェクトに対し、ある種の権限を持つ一方で、責任も求められる立場だ。しかし、芸能の現場でのマネジャーは、今なお「付き人」に近いイメージを持たれているようにも感じる。しかし、SKY-HIは、芸能のマネジャー職への底上げ、さらには今後の芸能事務所のあり方も変えたいという強い意志を持っていた。
これはBMSGもまだ課題としてあるし、日本の芸能界全体の課題だとも思うんですが、マネジャーを育成する期間も、そのノウハウもないのは、本当に良くないなと。マネジャーとしていきなり現場に入った人が誰かに教わることのないままマネジャーをし、その経験年数が増えたまま、キャリアのある人間として後輩に何かを教えていく。そういうケースが少なくないように思うんです。もちろん、きちんとノウハウを継承している事務所もありますし、それは素晴らしいなと思うんですが、その経験やノウハウを体系化しているケースは少ない気がしています。だからと言って、現在の専門学校で芸能マネジメントを学んで即戦力として通用するものではない。「うぶごえ」の岡田(一男)さん(※1)らとは10年前くらいから「何かそういう仕組みを一緒に作りたいよね」という話はしてるんです。マネジャーを育成する機関を作れば、現場の環境も変わる。その10年前当時、僕は自分に付いてくれたマネジャーに「こういうことをやるといいんだよ」って…まさしく育成をしていました。
外から見た芸能マネジャーの地位は
実際にアーティストとしては、マネジャーに諸々を調整してもらうだけでも助かるんです。他社からの要望とアーティストやプロデューサー、双方の意向を聞いて調整するだけでも大変な役割をお願いしていると思います。でも、それは一般企業でもある程度のキャリアのある方が持つべき、あるいは持ち得るスキルのような気もしているんですよね。
一方で、アーティストのマネジャー職の場合、マネジャーがOKを出せばアーティストとしてもOKを出していると思われるし、逆にマネジャーがNGを出せばアーティストとしてもNGだったと思われると思うんです。アーティストは表に出る仕事だから肉体的にも精神的にも負荷が高い。その人たちの代わりにマネジャーが判断を請け負っている部分が大きいんです。けれども現実的には、アーティストの意志への理解が足りなかったりすることで、アーティスト側との齟齬(そご)が生まれてしまうことが少なくないと感じます。それとは別に、現場より川上では、的外れなアーティストのブランディングが討論されていたりする。結果、勝手なブランディングから現場、アーティストまでの流れがちぐはぐになってしまうことは、経験上感じた部分です。
ただ、繰り返しになりますが、外の方との調整というものは必要でいて、素晴らしいスキルなんです。それなのに、外から見て芸能マネジャーの地位が高く思われていない…そうなった背景というのがあって、例えば創作物で描かれる芸能マネジャーとか。前時代でいう「付き人」=芸能マネジャーみたいな。
だからこそ、僕は「スターマネジャー」の必要性を感じているんです。(次回に続く)

『マネジメントのはなし。』 SKY-HI・著
社長・SKY-HIの挑戦をたどれる“ドキュメンタリー本”
課題意識を持つビジネスパーソンへのヒントも満載な1冊
今、音楽業界で最も勢いのあるマネジメント/レーベル「BMSG」。そのCEOであり、アーティストとしても第一線で活躍するSKY-HIの『日経エンタテインメント!』での連載が待望の書籍化!
オーディション「THE FIRST」がムーブメントを起こし、そこから誕生したBE:FIRSTはデビュー1年で紅白歌合戦に出場。2020年9月にたった数人で始まったスタートアップ企業が、なぜここまで急激に成長できたのか。本書は、その時々でSKY-HIが抱える課題や挑戦にフォーカスしたドキュメンタリー的な1冊。「課題解決」「人材育成」「スキルアップ」「コミュニケーション」など、ビジネスのヒントの宝庫ともなっている。
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