「ペヤング アパ社長カレー味やきそば」「ペヤング イカトパスやきそば」(いずれも2023年4月発売)、「ペヤング わらじかつ風やきそば」(22年12月発売)……。即席めん「ペヤング」の奇抜な新商品の開発が止まらない。市場への投入は近年ほぼ毎週で、同ブランドを製造するまるか食品(群馬県伊勢崎市)の業績は絶好調。23年3月期の売上高は過去最高となる163億円を記録した。一見、やんちゃに思える商品開発の背景には、綿密な戦略があった。

ペヤングブランドは定番「ペヤング ソースやきそば」(左)で知られるが、小売店の売り場では毎週のように並ぶ新商品の存在感も強い(右はペヤング アパ社長カレー味やきそば)
ペヤングブランドは定番「ペヤング ソースやきそば」(左)で知られるが、小売店の売り場では毎週のように並ぶ新商品の存在感も強い(右はペヤング アパ社長カレー味やきそば)

 ペヤングブランドといえば、「ペヤング ソースやきそば」を思い浮かべる人がほとんどだろう。1975年の発売から今年で48年目を迎え、現在でも人気のロングセラー商品だ。その一方で、コンビニなどの売り場には奇抜に思える新商品も毎週のように並ぶ。直近で一例を挙げれば、ペヤング アパ社長カレー味やきそばは、アパホテルの「アパ社長カレー」を再現したコラボ商品。アパホテルの社長である元谷芙美子氏の顔写真を大きく印刷したパッケージも含め、話題を集めた。

 こうした新商品は、近年ほぼ毎週のように市場へ投入されている。まるか食品製品開発課の小島裕太氏によると、転機は2012年発売の「ペヤング 激辛やきそば」。定番のソースやきそば味と一線を画す“変化球”商品はそれ以前もあったが、激辛やきそばが大ヒットしたため、以降、頻繁に商品化するようになったという。

 「実は、新商品の発案はすべて社長の丸橋(嘉一氏)によるもの。『世間をにぎわすブームは盛り上がった後に冷め、時間を空けて再び盛り上がる』と日ごろから口にしていて、激辛は絶対にブームが再来するから作ってみようと言い出した」と、小島氏は当時を振り返る。実際、一般向けの食品にしてはあまりに辛過ぎるといった試食の感想がSNS(交流サイト)で拡散。多くのメディアでも取り上げられ、同社としては異例の売り上げを記録したという。商品開発は割り切ってあえてやり過ぎるくらいの方が、消費者に強く刺さる。成功方程式の輪郭をおぼろげなからつかんだ同社は、小島氏が「“まじめ”で、ある意味、無難なものばかりだった」と評するそれまでの商品開発路線から、かじを大きく切るようになった。

ペヤング 激辛やきそばは、あまりに辛過ぎる味が話題になった
ペヤング 激辛やきそばは、あまりに辛過ぎる味が話題になった

 現在、商品開発は小島氏を含めて7人で進める。まず、アイデアマンで知られる丸橋氏が、新商品案をLINEや手渡しのメモで開発担当者たちに伝える。小島氏は「内心では『えっ』と驚くものもあるが、『まずは製作に取りかかってみます』と応じるようにしている」と笑う。商品化にかかる期間は、最短で3カ月強。まず試作品を2週間程度で作り、会社の承認が下りれば、そこから3カ月程度で発売を迎えるという。ここ2~3年は毎週のように新商品を発売しているが、多くのめんは75年の発売から支持され続けている定番のソースやきそばと同じものを使っていることもあり、スピーディーに開発できるという。現在は23年秋ごろに発売する新商品の開発が始まったところだ。

ここ2~3年は毎週のように新商品を発売している(写真は、まるか食品の製造工場)
ここ2~3年は毎週のように新商品を発売している(写真は、まるか食品の製造工場)

22年によく売れた新商品は?

 では、どんなものが人気なのか。22年はペヤングブランドから51の新商品が発売された(後述するペヨングブランドなどを含む)。ペヤング ソースやきそば、「ペヤング ソースやきそば超大盛」といったレギュラー商品を含めた売れ行き上位の顔ぶれを見てみよう。

注)まるか食品の提供データを基に作成。対象は22年に発売した新商品(非レギュラー商品)51とレギュラー商品7
注)まるか食品の提供データを基に作成。対象は22年に発売した新商品(非レギュラー商品)51とレギュラー商品7

 ランキングを見ると、一目瞭然で分かるのがレギュラー商品の安定した人気だ。上位の座を、51も発売された新商品にほぼ明け渡していない(注:7位の「味の大関 5食パック 復刻版」は袋タイプのラーメン)。なお、開発路線変更のきっかけとなった12年発売のペヤング 激辛やきそば(6位)のように、新商品発売時によく売れたためレギュラー商品のラインアップに加わった商品もある。「ペヤング 超大盛やきそばハーフ&ハーフ激辛」(4位、13年発売)や「ペヤング ソースやきそば超超超大盛GIGAMAX」(9位、18年発売)などがそれに当たり、中でも「ペヨング ソースやきそば」(3位、16年発売)は誕生の経緯が興味深い。

 商品名が定番のペヤング ソースやきそばと紛らわしいが、それは「メーカーである当社公認の偽物だから」(小島氏)。小売りの現場ではペヤング ソースやきそばを特売商品にしたいという要望が根強かったが、卸値をいったん下げると、その後、営業で元に戻すのが困難なので、廉価版としてペヨング ソースやきそばを新たに開発したのだ。ペヤング ソースやきそばに入っているかやくの「味付け鶏ミンチ」がペヨング ソースやきそばには入っておらず、1食の重さもペヤング ソースやきそばが120グラムあるのに対して、ペヨング ソースやきそばは106グラムと1割以上軽い。なお希望小売価格はペヤング ソースやきそばが193円(税別)で、ペヨング ソースやきそばはオープン価格だ。

ペヨング ソースやきそばは、ペヤング ソースやきそばの偽物として開発された
ペヨング ソースやきそばは、ペヤング ソースやきそばの偽物として開発された

 このように、新商品がレギュラー商品に加わった例はあるものの、12年以降、累計で500を超える新商品全体で見ればごくわずか。しかも、だ。新商品の種類は22年の場合、全体の約88パーセントを占めるが、売り上げは全体の2割にも満たないという。それにもかかわらず、次から次へと新商品を開発するのはなぜか。

 この疑問に対して小島氏は、「ペヤングブランドやペヤング ソースやきそばの認知度をもっと上げたいから」と即答する。ペヤングは50年近い歴史を持つものの、意外にも「名実ともに全国区」とは言えないブランドだ。関東エリアでは人気があるものの、関西エリアより西での本格的な販売展開はここ10数年程度だという。営業所を開設したのは大阪が08年、福岡が12年で、「それぞれのエリアでの認知度はまだまだ低い」(小島氏)。

 そこで新商品の出番だ。その奇抜さで世間の注目を集め、ペヤングブランドを広く知ってもらうという狙いがある。新商品を食べた消費者が、通常のペヤング ソースやきそばの味が気になり、実際に購入する流れにつながりやすいという。似たような動きはペヤングが知られる関東エリアでも見られ、「新商品を食べた消費者は『やっぱりいつものペヤングの方がいい』と感想を抱くケースが多く、レギュラー商品の売り上げを押し上げる効果が確実にある」(小島氏)。廉価版のペヨング系はその代表例だ。

 最後に、とはいえあまりの不発に終わった新商品について触れておこう。前提として“まじめ”過ぎる新商品は売れ行きが芳しくない。22年発売の新商品では、例えば「ペヤング きんぴら風やきそば」がそれに当たる。仕入れる小売店がそもそも少ない傾向にあるのだ。

 商品を個別に見ていくと、「ペヤング アップルパイテイストやきそば」(20年発売)や「ペヤング チョコレートやきそばギリ」(17年発売)は売り切るのに苦労した。「あまりに奇抜なので初速の売れ行きはすごかったが、その後、落ちるのも早かった。特に、チョコレートやきそばギリは発売時期をバレンタインデーにぶつけたので、2月14日を過ぎたら……」と小島氏は苦笑する。

あまりに奇抜過ぎて売れ行きが芳しくなかったペヤング アップルパイテイストやきそば(左)とペヤング チョコレートやきそばギリ(右)
あまりに奇抜過ぎて売れ行きが芳しくなかったペヤング アップルパイテイストやきそば(左)とペヤング チョコレートやきそばギリ(右)

 新商品のアイデアを一手に引き受ける社長の丸橋氏は創業者の孫で、まだ58歳だ。同氏は「常に新商品のことを考えていて、すべてがアイデアのチャンスだと思って生活している。固定概念は捨て、新しい味に挑戦し続けることが大事」と語り、極端に思える攻めの姿勢は今後も続くと見られる。

日経トレンディをAmazonで購入する

▼関連リンク 「日経トレンディ」(電子版)

(写真提供/まるか食品)

14
この記事をいいね!する