コストコから商品を仕入れて販売する業態の店が、この数年で存在感を増している。今後も増えると見られ、いわゆる「コストコ再販店」の人気に火が着くのは時間の問題だろう。では、果たしてその実態は? 積極的な多店舗展開を視野に入れる運営会社の1つが、今回初めて日経トレンディの取材に応じた。
米国から上陸して20年余。現在、コストコは週末を中心に、そこでしか買えない商品を求める客で大にぎわいだ。そうした人気商品などをコストコから仕入れて販売する業態の店が、この数年で存在感を増している。消費者サイドの旺盛な需要を受けて、今後の積極的な多店舗展開を視野に入れるところもあり、「コストコ再販店」ブームに火が付くのは時間の問題だろう。急成長を遂げるコストコ再販店の1つ、「E-COST(イーコスト)」を神奈川県と静岡県に計4店運営するココドット(神奈川県中井町)はこれまでメディアの取材を断り続けてきたが、沈黙を破り、今回初めて日経トレンディの取材に応じた。
新宿から電車に乗ること約1時間。小田急線秦野駅からタクシーを十数分ほど走らせた郊外に、その店はある。近隣エリアのコストコで売られている商品を販売するE-COST 中井店(神奈川県中井町)だ。週末になると、店の駐車場に来店客のクルマがひっきりなしに入っていく。
2023年3月中旬に開店した4店目の沼津店(静岡県沼津市)は、オープン初日に駐車場がフル稼働。店の前の道路に発生した渋滞を見て、クルマで訪れた客の約半分は買い物をあきらめて帰ったという。これら中井店、沼津店のほかに、同じ神奈川県と静岡県に1店ずつ展開。どの店舗も交通の便がいいとは言えない立地だが、週末を中心に多くの客で混雑し、人気が過熱している様子がうかがえる。
取材に応じたのは、E-COSTを運営するココドットの社長、佐藤正明氏。「コストコの商品を仕入れて販売する店」と聞くとある種のいかがわしさを若干感じるが、10年代半ばに創業した同社はもともと発送代行業の分野で成長してきた実績のある会社だ(コストコホールセールジャパンも「事業者の再販は認めており、当社として問題はない」という見解)。そんなココドットがE-COST事業を始めたのは22年6月。実は、最初はアマゾンで販売をスタートし、手応えを感じて実店舗にも進出したという。
「ものがあればどこよりも早く安く送れる強みを生かしたいと、当時、日ごろから考えていた。そんな中、コストコ商品を再販するビジネスモデルがネットの世界ではやっていると知ったのが、22年春。個人で営むなどかなり小規模なところが多く、その販売価格はコストコの2倍と乖離(かいり)が激しい。これは当社にとってビジネスチャンスと判断した」と佐藤氏は振り返る。その確信は当たり、1年もたたずに4店を出店するに至ったという。
記者が訪れた中井店は約200坪あるが、ほか3店舗は50~60坪とコンビニと同程度の規模だ。毎朝9時、コストコ座間倉庫店に大型の冷凍・冷蔵車で向かい、店舗の裏でデリやパンを積む。このようにデリやパンを毎日大量に入荷して4店舗に届けられるのは、ココドットが発送代行でノウハウや経験を培ってきたおかげだ。仕入れる量が多いため、毎日、事前に発注しているという。デリやパン以外については週1回、10トン車に満載になるまで仕入れる。なお、例えば中井店の場合、周囲にはこの座間倉庫店以外に、多摩境倉庫店や川崎倉庫店もあるが、「当社の分析では、顧客はかぶっていない」(佐藤氏)と言う。
コストコ再販店の損得度
品ぞろえはどうか。中井店を見ると食品まわりが充実していて、洗剤をはじめとする日用品も目につく。デリやパンは、コストコの品ぞろえの8割程度をカバーするという。一方で、家電や医薬品など扱っていない商品ジャンルも多い。気になる価格はコストコに比べると総じて1.4倍前後高いものが多い印象を受ける。例えば、こんな具合だ。
- ディナーロール 712円(498円/1.43倍)
- ロティサリーチキン 1284円(798円/1.61倍)
- クラシックシーザーサラダ 1686円(1380円/1.22倍)
- オイコス 1584円(1098円/1.44倍)
- RICO 赤ちゃん用 おしりふき 720枚 3355円(2368円/1.42倍)
- カークランドシグネチャー フードラップ 30cm×231m 2本 3715円(2498円/1.49倍)
佐藤氏によれば、「コストコで毎月仕入れに使う金額はトータルで数千万円に上るが、大量購入による値引きはない。仕入れに適用される価格は、一般消費者に提示されている値札通りだ。それにコストや利益を乗せるため、商品の安さだけで考えれば、当然ながらコストコに分がある」。E-COSTの競合は、周囲にある食品スーパーだ。競合店で販売されている類似商品よりも、安い価格になるように意識しているという。
興味深いのはここからだ。あえてコストコを念頭に置いたE-COSTの損得度を計算した場合、買い物に発生する“諸経費”も考慮すると結果は変わる。まずコストコは、年会費と引き換えに割安な買い物を楽しめるのはよく知られている(個人会員の場合、税込み4840円。同9900円を支払えば、2パーセント還元の特典が付く)。一方、E-COSTは年会費がかからない。
またE-COSTの近隣に住む人がコストコにクルマで行けば、ガソリン代に加えて高速道路料金もそれなりに必要だ。例えばE-COST 中井店がある秦野エリアの中心部からコストコ座間倉庫店に行く場合は、「往復で2000円前後かかる」(佐藤氏)。1回当たりの買い物金額を仮に1万円とすると、「店を訪れる頻度が年間約4.2回以上ならコストコの方が得。逆に、それを下回るようなら当店の方が得になるケースが多い」と佐藤氏は試算する。家とコストコの往復に相応の時間がかかることも踏まえると、E-COSTが近所にあるなら買い物先として選択肢に入る人はいるはず。コストコ商品を1回お試しで買うなど、買い物を気軽に楽しみたい人にも重宝しそうだ。
年内に10店体制へ
E-COSTでは食品関係が人気だ。全体の売り上げに占める金額の割合はデリが30パーセント弱、パンが約20パーセント、お菓子類が約15パーセントと、食品関係が65パーセント近くを占める。消費期限が短い肉や魚などはこれまで扱ってこなかったが、客の要望が多いため、テスト販売を下大井店(神奈川県小田原市)で実施中。注文を事前に受け付けて、翌日14時以降に店頭で引き渡す仕組みを検証している。
小分け販売も使い勝手がいい。例えばコストコで定番のパン「ディナーロール」(36個入り)を18個入りでも販売。どの商品を小分けするかはテストを繰り返して決めており、各店舗の地域特性に合わせているという。
コストコ商品を再販するE-COSTは、消費者ニーズをうまくすくいとることに成功している。佐藤氏は詳細な数字を明かさないが、売り上げや利益はかなり好調だという。今後も出店攻勢をかける考えで、年内にトータル10店舗展開を目指す。現在の郊外展開をさらに2店舗続け、その後は都内の住宅エリアへの出店を視野に入れているという。「都内なら桜新町や中野、神奈川エリアなら宮前平、向ヶ丘あたりを検討中。これまでは品ぞろえに力を入れてきたが、都心型店舗では室内空間に注力する。まずはアメリカンテイストをふんだんに取り入れたデザインにチャレンジしたい」(佐藤氏)
E-COSTに先行する形で都心に出店するのが、「stockmart(ストックマート)」だ。21年5月に東京・下北沢に1号店をオープンさせ、22年8月には同じ都内の府中に2号店を構えた。いずれも駅近の立地だ。
コンセプトは「コストコのコンビニ版」で、立地によるアクセスのしやすさに加えて、パンやデリ、日用品など、コストコの大定番商品やはやっているものをセレクトして販売。小分け販売する商品もある。これらはコストコの川崎倉庫店、多摩境倉庫店、新三郷倉庫店で毎日仕入れているという。仕入れ価格がコストコの値札通りなのはE-COSTと同様で、当然、価格はコストコに比べて割高だ。それでも約40坪の下北沢店と約50坪の府中店は、週末になると2店舗で1日に3000人の客が押し寄せる。
「都心型コストコ再販店」というビジネスモデルに対する関心は高く、stockmartによると「女性の買い物客で混み合う店内に、視察とおぼしきスーツ姿の集団が毎日のようにやってくる」という。
今後も現在の出店戦略を続ける予定で、「大手商業施設からはテナント誘致の声もかかっている。それも視野に入れつつ、今後5年以内に10店舗の新規出店を目指す」(stockmart)。
(写真/尾関祐治、写真提供/ココドット、stockmart)