「春のパンまつり」に「白いお皿」、今年も恒例の“祭り”が始まった。山崎製パンが「ヤマザキ 春のパンまつり」をキャンペーン中だ。2023年で43回目を迎え、白いお皿の交換枚数は22年までの累計が5億5000万枚を突破した。なぜ、ここまで愛されるのか。

春の風物詩になった感のある「ヤマザキ 春のパンまつり」。山崎製パンが1981年から取り組む長寿キャンペーンだ
春の風物詩になった感のある「ヤマザキ 春のパンまつり」。山崎製パンが1981年から取り組む長寿キャンペーンだ

 これほど多くの人が知っているキャンペーンは、そうないだろう。「春のパンまつり」に「白いお皿」。そう、今年も恒例の“祭り”が始まった。山崎製パンの「ヤマザキ 春のパンまつり」のことだ。このキャンペーンは、食パンや菓子パンなどの対象商品に点数シールが付いていて、規定の点数分と白いお皿を同社の商品を扱う店舗で交換できる(点数シールは商品パッケージに印刷されている場合もある)。必要な点数を集めると、白いお皿に交換できる点が受け、1981年に開始してから前回の2022年までで、交換枚数は累計5億5000万枚に達している。43回目となる23年分は2月に始まり、4月末までの開催だ(北海道地区は3月から5月末まで)。

 春のパンまつりは、もともと山崎製パンの商品を日ごろ購入する客への感謝を示すために始まった。そして、現在も「顧客に感謝し、還元する」という目的は変わらない。春のパンまつりの主な想定参加者は、食品スーパーなどで家族や自分のためにパンを購入する客層だ。

 山崎製パンはこの春のパンまつりとは別に、毎年夏や秋に景品が当たるキャンペーンも実施している。グループ会社の菓子を集めたセットや電化製品、レジャー施設のチケットなど、景品はその時々で変わるが、これらはすべて抽選形式。対象商品は春のパンまつりが500~600であるのに対し、夏や秋はその半分程度という違いはあるものの、春のパンまつりへの参加者数はその比率を大きく上回り、断トツの人気を誇る。

 白いお皿の交換に必要な点数を集める必要はあるものの、日ごろ買っているパンにキャンペーン期間は点数シールが付いてきて、毎年デザインが異なる白いお皿を必ず受け取れる。一見、キャンペーンとしての威力は大きいように思えるが、消費者心理はそこまで単純ではない。山崎製パンの顧客は白いお皿を「必ず」「無料で」もらえるのはうれしいが、気に入らないデザインを欲しくない気持ちはもっと強いからだ。白いお皿に対する消費者の期待値は高い。山崎製パンの営業統括本部マーケティング部次長の山口和寿氏が「毎年、お客様に欲しいと思ってもらえるデザインにするために検討を重ねている」と明かす通り、40年以上続けてきたキャンペーンならではの難しさがある。

12年は過去最多を記録、では翌年は?

 山口氏は「ある年に交換枚数がどんなに多くても、翌年、似たようなデザインにすると人気は落ちる傾向にある」と開発の苦労を打ち明ける。つまり、毎年、ゼロベースで考える必要があるのだ。分かりやすいのが、12年と13年での交換枚数の落差。12年の白いお皿「白いモーニングボウル」は交換枚数が当時歴代最多の約2270万枚で、この記録はいまだに破られていない。なお2000万枚の大台に乗ったケースは、現在までにこの12年を含めて2回のみとなっている(歴代2位は約2170万枚を記録した00年の「大きなワンディッシュ」)。12年の白いモーニングボウルは深めで使い勝手が良く、汎用性が高かったため、とても支持された。ところが、その好評ぶりを踏まえて、同じデザイン路線を踏襲した翌13年は約1670万枚と「想定したほどは交換枚数が伸びなかった」(山口氏)

左が12年の白いモーニングボウルで、交換枚数が約2270万枚と歴代最多を記録。一方で、同じデザイン路線を踏襲した13年の「大きなモーニングボウル」(右)は交換枚数が約1670万枚で12年ほどではなかった
左が12年の白いモーニングボウルで、交換枚数が約2270万枚と歴代最多を記録。一方で、同じデザイン路線を踏襲した13年の「大きなモーニングボウル」(右)は交換枚数が約1670万枚で12年ほどではなかった
交換枚数が約2170万枚の大きなワンディッシュ。2000万台はこれと白いモーニングボウルのみだ
交換枚数が約2170万枚の大きなワンディッシュ。2000万台はこれと白いモーニングボウルのみだ

 例年、白いお皿のデザイン策定は、前年のパンまつりの真っ最中に動き出す。前年分が始まってから1カ月近くがたった頃、白いお皿1枚目を交換した社外モニターの意見を聞くことから始める。検討候補に挙がるデザイン案は毎年30種類程度にはなるのが通例で、社内外のモニター調査の結果も踏まえて決めていく。「前回とは違う、新味があるデザインにするのが目標。例えば『前回はサラダボウルだったから、今回は食パンを置くのに合うデザインにしようか』などと、白いお皿が登場する食卓をイメージしながら連続性を持たせることも意識している」(山口氏)

 トレンドも意識していて、23年の白いお皿のデザイン策定の場合は、近年のレトロブームも踏まえた。縁部分にフリルをあしらっていて、確かにクラシックな印象を受ける。また、皿は軽いタイプがはやっていることから、23年の白いお皿も薄くて軽い仕様になっている。デザインが最終的に決まるのは、キャンペーンを始める前年の11月末だという。

配点に隠された“戦略”

 一方、点数シールの配点についてはどうか。実は食パンと食卓ロールからなる食事パンと、菓子パンでは配点の比重が異なり、食事パンの方が高めだ。「1981年の開始当初は、食パンを買っていただけるお客様を対象にしていた。当時の考えを大事にしたいという思いから、現在も食事パンの方が配点の比重を高めに設定している」(山口氏)のだという。

 なお、白いお皿1枚との交換に必要な点数も、毎年変えている。例えば23年は30点だが、22年は28点だった。この違いには、白いお皿にかかるコストが関係している。具体的な金額は非公表だが、白いお皿の交換枚数は毎年平均1300万枚に達すると聞けば、相当なコストがかかっていることは容易に想像できる。「白いお皿の製造コストは大きさや形状、材質によって変わる。ただ、点数シールの集めやすさも念頭に置きながら、全体のバランスを見て設定している」(山口氏)と言う。

デザインはコストや点数シールの集めやすさを考慮しながら決める(左は1987年の楕円形、右は2007年の四角形)
デザインはコストや点数シールの集めやすさを考慮しながら決める(左は1987年の楕円形、右は2007年の四角形)

(写真提供/山崎製パン)

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