2023年3月3日発売の「日経トレンディ2023年4月号」では、記事「世界を熱狂に巻き込むChatGPTの衝撃」を掲載している。ネットの世界を大きく変えると期待されるChatGPTだが、利用者視点に立つと、どんな特徴を持つのか。実際に使って、評価を下した。

※日経トレンディ2023年4月号より。詳しくは本誌参照

ChatGPTの画面はシンプルで、画面下にある横長の入力欄にリクエストを書き込んでやり取りする。いわゆるチャット形式なので、使いやすい
ChatGPTの画面はシンプルで、画面下にある横長の入力欄にリクエストを書き込んでやり取りする。いわゆるチャット形式なので、使いやすい

「“日経トレンディ”は、日本経済新聞社が発行する雑誌のことです。この雑誌は、テクノロジー、ビジネス、エンターテインメントなどのトレンドに関する最新情報を提供することを目的としています」。これは「日経トレンディについて教えてください」と投げた質問に対して、ChatGPTが返してきた答え。一部に誤りはあるものの、情報はほぼ正確だ(日経トレンディの発行元は、日本経済新聞社系列の日経BP)。 

 ChatGPTを使った人の多くがその“実力”の高さに驚き、魅了されている。筆者も触り始めてすぐに、のめり込んでしまった。例えば、筆者は減量を目的とした食事制限で日々の献立づくりに苦労していて、試しにChatGPTに「低糖質高たんぱくのレシピを3つ考えて」と頼んでみると、「トマトとニンジンのオムレツ、肉野菜いため、チキンスープ」とメニューを提案し、必要な食材の分量や作り方を教えてくれた。どれも斬新で感心させられるメニューというわけではないものの、献立をゼロから考える煩わしさから解放されるのは素直にありがたいと感じた。

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 あるいは、クイズやしり取りに付き合ってくれたりするなど、人間のような“振る舞い”は確かに新鮮だ。筆者の妻に贈るプレゼントにふさわしいアクセサリーの提案も、彼女の趣味嗜好を入力したところ難なくこなした。ChatGPTはコンシェルジュのような存在に近いといえるかもしれない。便利な使い方を模索する利用者は多く、SNSでは文章添削や例文作成といった英語学習、観光プランの作成など様々な利用例が報告されている。中には1日の出来事を報告して話し相手として活用したり、議論をふっかけて暇潰しに使ったりするケースもある。

ChatGPTがカバーする範囲は幅広いが、内容が危険だったり、犯罪につながったりする恐れがある問いかけには応じない
ChatGPTがカバーする範囲は幅広いが、内容が危険だったり、犯罪につながったりする恐れがある問いかけには応じない

 ChatGPTを連日使って気付いたのは、デジタル分野のサービスに乏しかった「人間味」という魅力だ。「人生をどう生きるか」といった抽象的な質問にも応じる一方で、答えられない場合にはその理由を説明し、間違いを指摘されたら謝る。回答を返す際は合間合間で若干のタイムラグが発生するのだが、考えながらキーボードを打っているように思え、人間らしさを感じてしまう。ちなみに同じ質問を繰り返しても、同じ答えが返ってくるとは限らない。そして、それを日々の成長と捉えて楽しんでいる利用者も存在する。

【レシピ提案】数秒でオリジナルメニューを作る
筆者 低糖質高たんぱくのレシピを3つ考えて
ChatGPT トマトとニンジンのオムレツ。(省略)【材料】・卵2個 ・トマト1/2個:小さく切る (省略)【作り方】ボウルに卵、トマト、ニンジン、塩、こしょうを入れ、よく混ぜます。(以下続く)

【人生相談】正解がない問いも“真摯”に対応
筆者 今後の人生をどう生きるべきか
ChatGPT 何を達成したいのか、何をしたいのか、どのように生きたいのかを明確にすることが大切です。(省略)新しいスキルを学ぶことは人生を楽しくするだけでなく、仕事やキャリアのアップグレードにも役立ちます

 ChatGPTから有用な答えを引き出そうとして利用者が能動的になる点も、特筆すべきポイントだ。限られた可処分時間を巡ってSNSやYouTubeなどの動画コンテンツ、様々なアプリの競争が激しいが、受け身で楽しむものが多い。それらと一線を画すChatGPTは有力なキラーコンテンツになり得ると感じた。

浦島太郎が妖精と共闘!?

 ChatGPTの実力やポテンシャルの高さに驚かされる一方で、こちらが首をかしげてしまう場面が少なからずあり、注意が必要だろう。例えば、おとぎ話の「浦島太郎」を語らせたところ、妖精と共闘する冒険譚を披露。実際の内容と大きく違う。アクシア社長の米村歩氏は自分の名前を入力してどんな人物かを質問したところ、漫画『進撃の巨人』の作者という回答が返ってきたという。「改めて質問したら回答の誤りをわびたが、こちらが正しい答えを知らない場合、うのみにしてしまうリスクがある点は知っておくべきだ」(米村氏)

画像は、米村氏が自身について質問したときのもの。 有名漫画の作者、と誤った回答を返してきた
画像は、米村氏が自身について質問したときのもの。 有名漫画の作者、と誤った回答を返してきた

 これに関連してChatGPTの情報の鮮度が古い点を指摘するのはベンチャーキャピタル、WiL(ウィル)のパートナーの久保田雅也氏だ。

 「2023年2月中旬時点では、ChatGPTは21年末までの情報を基にしている。例えば『サッカーワールドカップの優勝国は?』と聞くと、『最新の優勝国は分かりません』と前置きして18年大会の優勝国であるフランスを回答する。最新の情報を基にしていないのは、ChatGPTがこなす計算の量が膨大なので、データをアップデートして学習し直すのに数カ月かかってしまうからだろう」(久保田氏)

 これらの弱点を考慮すると、ChatGPTを仕事で使う場合はファクトチェックは欠かせない。手間がかかるので、現状では利用シーンは限定的だろう。ただ、マーケティングディレクターの牧野真氏は「企画などのプランを考える際、初動の方向性のヒントをもらうのはなかなか便利」と評価。米村氏も、「プログラムの開発途中に問題が発生した際に的確な解決策を示してくれるなど、生産性向上に期待できるシーンも多い」と見ている。

 ChatGPTを使う場合はちょっとした工夫をするといい。「英語で質問した方が、回答の精度は高い印象。日本語でのやり取りに満足できない場合は、機械翻訳サービス『DeepL翻訳』などを使いつつ、英語で質問することを勧める」(牧野氏)。また、質問は複数の文章に分割してでも、各文を簡潔にした方がよい。回答時間の短縮や、内容の向上が期待できるという。

注)掲載情報は23年2月中旬時点のもの
注)「“ウソもつく”ChatGPTとのちょうどよい付き合い方」は、「日経トレンディ」2023年4月号に掲載しています。日経クロストレンド有料会員の方は、電子版で最新号をご覧いただけます。
▼関連リンク 「日経トレンディ」(電子版)
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