リブランディング 成功の方程式 第5回

新潟県燕市に本社を構える従業員数300人規模の家電メーカー、ツインバード工業が2021年11月、リブランディングを実施。企業ロゴを刷新した他、「匠(たくみ)プレミアム」と「感動シンプル」の2つのブランドラインを新設した。一般消費者からの知名度および技術力への理解が懸案事項だったが、同社のワクチン冷凍運搬庫が一躍注目されたことで、機が熟した。

2021年11月にリブランディングを実施したツインバード工業
2021年11月にリブランディングを実施したツインバード工業

 「家電メーカー・ブランドと聞いて思い浮かぶのは? いくつでも挙げてください」――。こんな質問を投げかけられたら、何と答えるだろうか? パナソニック、ソニー、日立、東芝、三菱電機、シャープ……。エアコンならダイキン、富士通ゼネラル。掃除機はダイソン、マキタ、アイロボット。体重計はタニタ、オムロン。ポット・炊飯器は象印、タイガー。トースターはバルミューダ……。業務上、家電とは接点がなくても、高くアンテナを張っているマーケターならばこのくらいは挙がるだろう。

 そんなマーケターでも名前が挙がりづらい国内メーカーがある。知らないわけではないし、自宅に商品の1~2点はある人も多いのに、ノーヒントで回答する「純粋想起」ではなかなか挙がってこない。新潟県燕市に本社を構えるツインバード工業はそんな1社である。

前回(第4回)はこちら

 それでも同社が競争の激しい家電業界で生き延びてきたのは理由がある。例えば結婚式の引き出物や出産祝いなどで、特定の品を渡すのではなく、相手に選んでもらう「カタログギフト」市場を同社は主戦場にしてきた。ハンディースチーマーやスティック型クリーナー、オーブントースター、靴乾燥機、加湿器、ハンディーブレンダーなどは、1万円以内で販売できるカタログ向きの商品だ。特に自社で広告宣伝費を投じなくても、カタログに載せた商品は売れていった。

 だが、少子高齢化や結婚式・披露宴のスタイルの変化などでギフト市場は徐々に減少。ギフト卸からはカタログに載せる新しい商品を求められるため、業務効率がよいビジネスとも言えなかった。そこで売り場の主体を家電量販店店頭に移すにつれ、「知名度不足、好感度不足の問題が浮上した」(ツインバード工業マーケティング本部長の浅見孝幸氏)。

長らく日の目を見なかった技術がコロナ禍で開花

 そんな同社の名がメディアで頻繁に取り上げられ、兜町からも注目を集める出来事があった。新型コロナウイルス感染拡大下で、ワクチンの保存・運搬に必要な冷凍運搬庫のメーカーとして同社の技術が取り沙汰されたのだ。

ワクチン運搬庫「ディープフリーザー」
ワクチン運搬庫「ディープフリーザー」

 マイナス70度以下の超低温まで冷却が可能な冷凍ユニット「FPSC(フリーピストン・スターリングクーラー)」を搭載し、精密な温度制御と軽量で持ち運びに優れたワクチン運搬庫「ディープフリーザー」は、一般的な冷蔵庫で使われるコンプレッサー式と異なり、ヘリウムガスを冷媒に使うため環境にも優しい。並み居る大手電機メーカーも持ち合わせない、同社独自技術のたまものだった。FPSCの開発に着手したのは20年以上前のこと。途中、赤字が続いた時期もあったが、研究の旗を降ろすことはなかった。効率性と採算性で判断しがちな大手企業なら打ち切りになりそうな開発案件だ。2011年には国際宇宙ステーションの日本実験棟で使用するために宇宙航空研究開発機構(JAXA)が採用し、種子島宇宙センターから打ち上げられている。

 このディープフリーザーをモデルナ製ワクチン接種会場への輸送・保管に使用するため、武田薬品工業や厚生労働省から注文を受けた。FPSC事業の貢献によって、22年2月期通期の売上高は、前年比10.3%増の137億9000万円を見込む。

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

40
この記事をいいね!する