リブランディング 成功の方程式 第4回

糖質制限ブームに危機感を抱き、2017年に40年ぶりの企業ロゴ変更を含むリブランディングに取り組んだカンロ。成果は出ていたが20~21年に新型コロナウイルス禍に直面した。コロナ禍で起きた環境の変化、価値観の変化を乗り越えて成長するため、ブランド再々構築に踏み切り、中期経営計画2024の策定に合わせてパーパスを導入した。

カンロが製造・販売する主な商品群
カンロが製造・販売する主な商品群

 企業、商品のブランドが時代に適合し、変化する顧客の志向に対して価値を提供できているかどうか。これを抜本的に見直して、ブランド価値を再定義、再構築する「リブランディング」は、業種・規模を問わず必要なものだ。中でもその必要を迫られているのが、ロングセラー商品を抱え、創業から長い歴史を持つ老舗と呼ばれるタイプの企業である。日経BPコンサルティングの調査によれば、創業100年以上の企業数が世界で最も多いのは日本で、3万3000社超。世界の100年企業約8万社の4割以上が日本にあるという。

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 ロングセラー商品や老舗としての名声を持つ企業であっても、そこにあぐらをかいて時代に適応する努力を怠れば、ブランドは陳腐化する。本稿でリブランディングの取り組みを紹介するあめ菓子製造・販売のカンロは、1912年創業の100年企業であり、看板商品の「カンロ飴(あめ)」は1955年発売というロングセラー商品である。創業100周年の2012年には、同社初の直営店舗「ヒトツブカンロ」を東京駅構内のグランスタに出店した。

 そんなカンロでリブランディングの機運が高まったのは2017年。前年に三菱商事出身の三須和泰氏が社長に就任し、17~21年の中期経営方針(中経)「New KANRO2021」を策定。18年に本社移転を控えていたこともあり、商品パッケージに記載する製造者の住所表記の変更は、企業ロゴなども併せて一新するよいタイミングだった。もっともカンロが取り組んだリブランディングの本質は、企業ロゴを今風のデザインに変えることではない。老舗企業が抱える特有の課題を洗い出し、社員が一丸となって進むべき方向性を指し示すことに意義がある。

糖質制限ブームに、糖を正面から訴求した17年のリブランディング

 17~21年の中経をつくった当時、カンロが抱えていた課題は大きく3つあった。1つは、看板商品である「カンロ飴」が属するハードキャンディー市場が長期低落傾向にあり、グミ市場の伸びでカバーする構図になっていること。ロングセラー商品の愛好者が高齢化して若者を取り込めていない、老舗企業が陥りやすい問題だ。 2つ目は、糖質制限がブームになっていて、糖を敬遠したり悪者視したりする風潮が懸念されること。3つ目は、日本ではキャンディーが子供のおやつという位置づけで、食文化やブランドという意識が希薄なこと。

 リブランディングに当たっては、工場も含めて社内のさまざまな部署から集まった30~40人規模のプロジェクトチームを結成し、ワークショップ形式で議論を重ねた。特に、食品・飲料メーカーなど各社が「糖質オフ」や「低糖質」を売りに商品展開している中、糖質制限ブームに対する自社のスタンスについては議論百出。リブランディングをリードした同社デジタルコマース事業本部長兼コーポレートコミュニケーション本部長の内山妙子氏は、「糖を前面に押し出すのはリスクという意見もあった」という。

 糖は、整腸作用や虫歯の予防など多くの可能性を持つ、人に不可欠な栄養素だ。糖を研究し商品化してきた企業として、それを啓発すべく、「糖と歩む企業」を全体方針に掲げ、新デザインの企業ロゴに「糖から未来をつくる。」というスローガンを配置。これが実に40年ぶりのコーポレートアイデンティティー(CI)改定だった。リブランディングに基づく商品リニューアルにも着手し、看板商品であるカンロ飴についても添加物を使わないレシピ変更を実施。パッケージも新CIを配した洗練されたデザインのものに刷新し、ハードキャンディーの売り上げ減少を反転上昇させる原動力になった。

(左)刷新前 (右)刷新後 2017年のリブランディング後、看板商品の「カンロ飴」もレシピからパッケージまで全面刷新
(左)刷新前 (右)刷新後 2017年のリブランディング後、看板商品の「カンロ飴」もレシピからパッケージまで全面刷新

 「リブランディングを実施し、一定の成果を得た」……。通常はここでリブランディング成功事例として記事は終わるのだが、カンロのリブランディングには続きがある。

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