リブランディング 成功の方程式 第3回

ブランドの「存在意義」とは何か。パーパスに立ち返り、リブランディングで停滞期から抜け出した企業がある。化粧品大手のオルビス(東京・品川)だ。通販事業だった事業ドメインをブランドビジネスへと転換して生まれ変わった。「創業時の思いを見つめ直すことができれば新しい挑戦ができる。判断に迷うことも原点に戻れば決断できる」と同社の執行役員である西野英美氏は語る。

 ポーラ・オルビスホールディングス傘下の化粧品メーカーであるオルビスは、今年で35周年目を迎える通販化粧品の先駆けとも言える企業。創業した1987年の日本はまさにバブル最盛期。当時は化粧品に限らずあらゆるものが豪華で、“盛る”ことが美徳とされていた時代だ。「そうした時代に『女性の肌に本当に必要なものは何か』という思想を持って創業したのがオルビス。華美な包装により化粧品自体に化粧をさせたいのではなく、女性をきれいにしたいという信念を持って化粧品開発に取り組んだ」(オルビス執行役員 ブランドデザイン・QCD担当の西野英美氏)

創業当時に扱っていた化粧品と紙のカタログ
創業当時に扱っていた化粧品と紙のカタログ

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 オルビスは、肌にもともと備わっている皮脂だけで健やかな肌を保てるようにするコンセプトで、無油分、無香料、無着色をうたう「オイルカット」の化粧品をカタログによる通信販売で展開。当時はまだ通信販売に対して不安を感じる人が多かった時代だが、送料無料や返品・交換OK、無料サンプルなどのサービスを武器に事業を拡大していった。

 99年には「オルビス・ザ・ネット」を立ち上げネット販売(EC)も展開。さらに2000年に店舗「オルビス・ザ・ショップ」1号店を池袋マルイにオープン。マルイを中心に店舗販売も拡大させ、事業を広げていった。肌によい化粧品を手ごろな価格で買えることで人気になり、大手通販企業の地位を築き上げた。

99年にオープンしたECサイト(左)。2000年には店舗販売も始めた
1999年にオープンしたECサイト(左)。2000年には店舗販売も始めた

 だが、ピークを迎えた2000年半ばごろからこれまでの勢いに陰りが見え始める。売り上げが停滞し、市場での存在感が希薄になってしまっていた。

 要因の一つがブランドイメージの乖離(かいり)だ。「香料や着色料は肌にとって必要のない成分。技術力を生かせば、それらがなくても肌にいいものは作れるということが創業当時としては革新的だった。ただ、オイルカットのインパクトが独り歩きし、良くも悪くも“オルビス=オイルカットの化粧品”といったイメージが広がってしまっていた」と西野氏は話す。

 また、商品やブランドの世界観もばらばらになっていた。カタログ中心の通販事業だったこともあり、キャンペーンや「○○円以上は配送料無料」などの施策でいかにもう1商品買ってもらうかに注力していた。「そうすると新しい商品を次々に開発し、それらを購入してもらうために、個々の商品の存在をいかに主張するかを担当者が競い合うような状態になる。結果的にパッケージの色味やデザインなど、ブランドの世界観がばらばらになってしまっていた」(西野氏)

 こうした状況に陥ってしまった要因を西野氏は「社全体が“内向き”の状態になってしまっていた」と分析する。「通販事業で蓄積された膨大な顧客データベースで要望もクレームも質問も感想も、お客様の状況は手に取るように分かるようになっていた。そのデータを活用すればキャンペーンなどの販促を高精度かつ効率的に回せる。でも、実はそこに足を取られてしまっていた。会社の内側に答えを探すような状態で、裏を返せば外の世界を全く見ておらず、時代に置いていかれていることに気づいていなかった」(西野氏)

 「オルビスは衰退期にある」。18年1月に社長に就任した小林琢磨氏は「時代の空気感をまとっておらず、選ばれる土俵にすら立っていない」と現状を鋭く指摘。第二創業として抜本的なリブランディングに取り組むこととなった。

オルビス執行役員の西野英美氏。「オルビスユー」の初代ブランドマネージャーも務めた
オルビス執行役員の西野英美氏。「オルビスユー」の初代ブランドマネジャーも務めた

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