
事業モデルや商品を根底から組み立て直すリブランディングは、新たな価値や魅力を生み出し、これからの未来を生き抜くための一大プロジェクトといえる。2021年9月の発売直後から想定を上回る注文で商品供給が追い付かないほどの人気となった「アサヒ生ビール(通称 マルエフ)」は、過去の商品を現代によみがえらせ、華々しいヒットを飛ばしたリブランディングの成功例の一つだ。約30年前に缶と瓶を終売し、樽生だけの存続となっていた商品をいかにして復活に導いたのか。
まるで家紋のような六角形のコーポレートロゴを新たに掲げ「プライドポテト」を大ヒットさせた湖池屋や、約30年続いた主力商品を生活様式の変化に合わせてリニューアルした花王の「アタックZERO」。こうした事例を出すまでもなく、企業や商品の価値を再構築・再定義するリブランディングはいたるところで行われている。
リブランディングに当たり、最近注目されているのが「パーパスブランディング」という考えだ。企業や商品の社会的な存在意義を見つめ直し、そこから時代に沿った新たな価値を生み出す。
パーパスに立ち返り、リブランディングで衰退期から抜け出した企業の1つが、特集3回目で紹介する化粧品大手のオルビス(東京・品川)だ。「肌が持っている力を引き出していく」という創業当初の思想を基に、ばらばらだったブランドの世界観を統一。通販事業からブランドビジネスへと事業ドメインを転換し、アプリの新規開発などで価値を高めて生まれ変わった。リニューアルした基幹商品は記録的なヒットを飛ばすなど、リブランディングで華々しい成果を上げている。
リブランディングで課題になるのはパーパスだけではない。大改革には社内の理解や意思統一も必要になる。特集第2回で紹介する東京ヴェルディは創立50周年を記念してロゴデザインを刷新。サッカーだけでなく野球、バスケットボールなども加えた総合クラブ化を目指すブランドビジネスに着手した。
その際に最も気をつけたのが、合意形成だ。そこでリブランディングの目的やビジョン、達成の道筋などを詳細に説明した100枚超の資料を用意し、社内での説明を徹底。その意識を基にファンにも発信した。結果、「良い未来を描ききった上で説明できたからこそ、ファンにも納得してもらえた」と東京ヴェルディクリエイティブセンター ブランドマネージャーの伏見大祐氏は明かす。
リブランディングは単なる「リデザイン」ではない。一歩間違えればこれまで積み上げてきた信頼を失う危険性もある。成功と失敗の境界線はどこにあるのか。この特集ではリブランディングの成功事例を通して、未来の商品や企業の価値を高めるための方程式を探る。
86年に発売された「コクキレ」ビール
21年9月14日の発売からたった3日で商品供給が追い付かなくなり、一時休売を発表するほどの人気になったアサヒビールの「アサヒ生ビール(通称 マルエフ)」(以下、マルエフ)。生産体制を整え11月に販売を再開し、21年の累計販売数量は当初の目標である150万ケースを大きく上回る201万ケースを出荷する大ヒットとなった。
パッケージに「復活の生」と書かれているように、マルエフは新商品ではなく、1986年に発売されたビールだ。シェアを大きく低迷させていた当時のアサヒビールが起死回生を懸け、5000人規模の嗜好調査を実施し、「コクがあるのに、キレがある」という新たな方向性を見いだして大ブレーク。同社をどん底から救うきっかけをつくった存在だ。しかし、翌年に登場し、ビール市場の歴史を塗り替えるほどの絶大な旋風を巻き起こした「アサヒスーパードライ」(以下、スーパードライ)に生産体制を集中するため93年にひっそりと缶と瓶商品を終売。その後は飲食店向けの樽生のみが出荷されることになった。開発記号であった「F」から「マルエフ」の通称で呼ばれ、一部のファンに愛される“知る人ぞ知るビール”となっていた。
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