
タクシーの車内や車窓、オフィスビルに設置された喫煙所などにデジタルサイネージを設置し、それぞれをメディアとして位置づけ、事業化を進める企業がある。PR会社ベクトルの子会社で主に動画マーケティング事業を手がけるニューステクノロジー(東京・港)だ。サイネージを使ったそのメディア事業戦略をひもといた。
ニューステクノロジーが、タクシーアプリ「S.RIDE」を提供するS.RIDE(東京・台東)とともに、タクシーの車窓を屋外向けデジタルサイネージに仕立てて運営するサービス「THE TOKYO MOBILITY GALLERY Canvas」(以下「Canvas」)が、好調に推移している。
国際自動車(東京・港)と大和自動車交通という2つのタクシー運行会社が協力し、都内を走る100台(2022年6月末時点)のタクシーの後部座席左側の車窓をデジタルサイネージに仕立て、空車走行時に広告(カラー静止画)を投影して、主に路上を歩く歩行者などに見てもらうというサービスだ。広告主が希望すれば、ニューステクノロジーが広告の制作も手がける。
タクシー運行会社の協力を得て、ニューステクノロジーがサイネージ設置車両のGPSデータを取得。各車両がいつ、どの辺りを走行していたかが分かるこのデータを、位置情報を基に人流データを解析している企業に預け、どのくらいの視聴者がサイネージに表示された広告を見たのか推計してもらって広告主に提示する。Canvas対応タクシー100台に1週間広告を出稿すると、おおよそ300万人にリーチする推計になるという。この場合、広告主企業が支払う広告出稿料金は、500万円(税別)。ニューステクノロジー社長の三浦純揮氏は、「サービス開始直後からCanvas事業の収支は黒字で推移している」と語る。
複数の仕掛けを組み合わせて「進撃の巨人」を体験させた
2021年5月31日のサービス開始当初は、単にデジタル広告を映す屋外サイネージの1つという位置づけだったが、実際にサービスを展開してみると、「Canvasを軸に複数の仕掛けを組み合わせて、潜在的なユーザーに“体験”を提案できるところが、広告主に受けている」(三浦氏)と言う。
この“体験を提案する”という内容を最も分かりやすく実現したのは、21年の年末(12月27日)から22年の初め(1月9日)にかけて、Canvasなどを使って展開した「進撃の巨人」とのコラボレーション企画だ。
まずタクシーアプリ「S.RIDE」の地図上で、進撃の巨人とのコラボ企画に参加した都内を走るCanvas対応タクシー50台について、通常のタクシーアイコンではなく進撃の巨人のキャラクターアイコンで表示。それら50台のCanvasに、10種類の進撃の巨人キャラクターを広告として配信し、路上を歩行する不特定多数の人々に対して、これらの広告を見せた。同時に、車内に設置したタブレット型デジタルサイネージ「GROWTH」には、20分に編集した進撃の巨人のダイジェスト動画を配信して乗客にアピール。年始限定で「進撃のおみくじ」を車内で配布もした。複数の仕掛けを組み合わせ、進撃の巨人を体感できる“移動体験”をユーザーに提供したのだ。
タクシーアプリの台当たり配車件数が2倍に
その結果、ユーザー=進撃の巨人ファンは、自分のSNS(交流サイト)に、「進撃のタクシー、現在都内を走行中です!」「実際に乗ってみた。サイコー!」といった内容を、タクシーを撮影した画像付きで次々に投稿。このタクシーの話題を拡散させた。さらにユーザーの多くは、普段はそれほど乗らないタクシーに喜んで乗車し、しかも20分のダイジェスト版を見終わるまで乗り続けた。コラボ企画参加タクシーの走行期間中における、タクシーアプリ「S.RIDE」の台当たり配車件数は約2倍に増加したという。このコラボ企画のおかげで、多くのユーザーの「進撃の巨人に対する思い」が強まったと言ってよい。「サイネージを軸に、ユーザーにとって得がたい体験をつくって提示できることが、私たちの強みの1つ」と三浦氏は語る。
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