2022年2月4日発売の「日経トレンディ 2022年3月号」では、「得する相続」を特集。故人が残したスマホのパスワードが分からず、遺族がロックを解除できずにスマホにアクセスできない――。そんなデジタル遺品のトラブルが近年急増している。家族のために最低限何をやっておくべきか? 遺族がよく陥りがちなトラブルとともに、トレンディ流「デジタル遺品整理」の作法を紹介する。

※日経トレンディ2022年3月号の記事の一部を掲載。詳しくは本誌を参照

故人のスマホがロックされたまま解除できず様々なデジタル遺品を引き継げないというケースが増えている
故人のスマホがロックされたまま解除できず様々なデジタル遺品を引き継げないというケースが増えている

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 故人が残したスマホやパソコンの中には、膨大なデータが残されている。こうしたデジタル機器は、遺産分割協議完了前には法定相続人の共有財産として扱われることになる。このため、オフラインの形で内部に保存されているデータを保全目的で確認する場合でも、念のため他の法定相続人全員の合意を取ってから実施するようにしたい。

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 「ただ、そもそも家族がスマホのパスワードを知らず、ロックを解除できないためにスマホにアクセスできないというトラブルが近年急増している」。日本デジタル終活協会代表で弁護士の伊勢田篤史氏はこう話す。

 実は自分の死後、家族がすぐにデジタル遺品の特定データを取り出したくなるシーンは多い。「遺影に使う写真を見つけたい」「葬儀に呼ぶべき友人の連絡先を知りたい」「残した財産の手掛かりを探りたい」などが代表的だ。

遺族がよく陥りがちなトラブル

 ところが、スマホのロック解除は一筋縄ではいかない。iPhoneの場合、設定次第ではパスワード入力を10回失敗すると自動的にデータが全消去されるので、デジタル遺品が永遠に失われるリスクもある。ロック解除を請け負う企業はあるものの、「多くは成功報酬型で料金は平均30万円。期間が長期にわたり、結局解除できないこともある」(デジタル遺品整理に詳しいジャーナリストの古田雄介氏)。

 こうしたことから、自分の死後に残すべきデジタル遺品を家族が確実に受け取れる方策を、生前に実行しておくことが肝要になる。いつ訪れるか分からない突然死や認知症になる可能性も踏まえると、今すぐ取りかかるべきだ。

実際に起こりうる大失敗の例
実際に起こりうる大失敗の例

 日経トレンディが推奨するデジタル遺品整理法は、大きく2パターン。パターン1は、財産の分割協議に関連して調べる必要が出てくる金融サービスや、料金がかからないように解約してほしいネットサービスを記す簡易版エンディングノートをつくること。

 簡単なのは、エクセルなどで作って印刷するか、コピー用紙などを使ってリストを手書きして家のどこかに隠しておくやり方。パソコンやクラウドに保存したままではそもそもパスワードが無いと家族は開けないので、アナログに頼るのが手っ取り早い。家族が相続のために必ず捜す預金通帳や財布、生命保険証書にしのばせておけば、亡くなった後に目にしてもらいやすい。

 ただ内容が変わったときに更新する手間を考えると、データのままで家族に渡せた方がスマートだ。例えばメッセージをファイルの形でも送れるデジタル終活サービス「シーユーオール」を併用すれば、特定のタイミングで指定した人物に送ることができる。

 どこまでリストに書き出すべきかの基準を示したのが、以下の「7大デジタル遺品チェックリスト」だ。基本的にはこれらを書き残しておけば、各種手続きを進めるうえで家族が困る場面を減らせる。なお、キャッシュレス決済の残高と企業ポイントについては、マイルやSuicaなどが相続の対象になるので書き出しておきたい。

書き残しておきたいデジタル遺品をまとめた
書き残しておきたいデジタル遺品をまとめた

サブスクの解約には要注意

 見落としがちなのがサブスクサービスだ。登録してあるクレジットカードを死後に家族が解約したからといって、支払いができなくなって、自動的に契約解除になるとは限らない。「一例がエバーノート。支払いが止まると請求書発行に切り替えてこれを払わないと滞納と見なすと利用規約に明記してある。解約しない限り請求が続く可能性が高い」(古田氏)。リスクを回避するためにも、契約しているサブスクはすべて列挙しておく。

 パターン1は手間がかかって面倒だというずぼらな人は、ロック解除のパスワードだけでもしたためておく。これがパターン2だ。ただし、スマホの中身は全部家族に見られてしまうため、秘密にしておきたいアプリや存在を知られると困るメールなどが無いことが前提条件となる。

 体裁は問わないが、前出の古田氏が「スマホのスペアキー」という名称でデザインテンプレートをホームページ上で公開しており、これを印刷して使うのが手っ取り早い。アルファベットや数字が混在して誤認されやすいパスワードを使っている場合、「数字のゼロ」「アルファベットのアイ小文字」「ママの誕生日月」など注記も合わせて書き添えておく。

 こちらもアナログ方式で自宅に隠すか、デジタル終活サービスを使って家族が見つけやすい工夫は欠かせない。

 ちなみに伊勢田弁護士は、自分が遺族としてデジタル遺品を整理する立場になった場合、機内モードにした状態でスマホを操作すべきだとも話す。というのも、多くのクラウドサービスは法律用語で一身専属性と呼ばれる契約者本人のみに利用を認めているからだ。家族など第三者が使ってしまうと利用規約などに抵触する可能性があり、それを回避するための工夫だ。

トレンディ流「デジタル遺品整理」の作法

【きっちりタイプ】スマホを見られたくないならリスト作成

 ネット銀行やネットサービスなどのリストを作っておく。これでスマホはロックしたままでも家族は必要な手続きを進められる。必ずしもIDとパスワードまで書いておく必要はない。例えば財産の分割に必要なネット銀行やネット証券は、どこに口座があるかだけ家族がつかめればよいからだ。逆に知らせたばかりに家族がサービス利用規約に違反し、不正アクセス禁止法に抵触してしまう恐れもある。

■家族が整理する際の手順
■家族が整理する際の手順
契約しているサブスクはすべて列挙しておきたい
■用紙1枚の簡易エンディングノートを作る
■用紙1枚の簡易エンディングノートを作る
紙を使ったアナログな方法に加えて、デジタル終活サービスと連携させれば、亡くなったら自動的に家族にメールでファイル形式で届けられる

【ずぼらタイプ】スマホロック解除パスワードだけを残す

 スマホの中身を家族にさらすことになるが、ロック解除のパスワードだけを書き留めて家の中に隠しておくのが最も手っ取り早い。パスワード部分を修正テープで覆っておくと、生前にパスワードが知られにくく安心だ。修正テープは、消せるボールペンのイレーザー部などで剥れる。万が一生前に見られても、パスワードを変更し作り直せばよいだけだ。

どの金融機関のアプリを使っていたか分かり、家族が財産の調査をしやすくなる
どの金融機関のアプリを使っていたか分かり、家族が財産の調査をしやすくなる
パスワード部分を修正テープで覆っておく方法も有効
パスワード部分を修正テープで覆っておく方法も有効

キャッシュレス決済残高と企業ポイントは相続不可の場合も

注)2022年1月末時点
注)2022年1月末時点
規約で相続できないと明示している場合もあるが、引き継げるものもあるので忘れずに手続きしたい
規約で相続できないと明示している場合もあるが、引き継げるものもあるので忘れずに手続きしたい
注)古田雄介氏のホームページはhttps://www.ysk-furuta.com/

(イラスト/平松 慶)

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