2022年2月4日発売の「日経トレンディ2022年3月号」では、「得する相続」を特集。近年の相次ぐルール改正や団塊世代が70代を迎えたことを背景に、相続についてあらためて考える機運が高まっている。相続税の課税対象者は年々増加し、遺産を巡って近親者がもめる「争続」もひとごとではない。将来の相続をスムーズに進めるため、いますぐ対策が必要だ。

※日経トレンディ2022年3月号の記事の一部を掲載。詳しくは本誌を参照

相続時の節税とトラブル防止に向けた対策が重要に
相続時の節税とトラブル防止に向けた対策が重要に

 生前贈与がダメになる――。2020年末に与党が公表した21年度税制改正大綱を発端に広まったこの言葉。今、相続の常識が大きく変わろうとしている。

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 「19年以降にルール改正が相次ぎ、また団塊世代が70代を迎えたこともあって、相続についてあらためて考える機運が高まっている」。相続コンサルティングを手掛ける夢相続の代表・曽根恵子氏は言う。将来の相続をスムーズに進めるには、「経済面と感情面の両方について、早いうちから対策を取っておくことが重要」(曽根氏)になる。

【1】相続税の課税対象者は毎年着実に増えている

 経済面とは、主に相続税だ。15年に相続税の基礎控除が大幅に縮小された影響で、課税されるケースが確実に増えている(下グラフ)。20年に遺産が相続税の課税対象となった被相続人(亡くなった人)は全国で約12万人。これは、被相続人数全体の11.4人に1人の割合だ。

15年に相続税の基礎控除が「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」に縮小(4割減)したことで課税対象者が急増。その後も着実に増えている。グラフは国税庁「令和2年分 相続税の申告事績の概要」を基に作成
15年に相続税の基礎控除が「5000万円+1000万円×法定相続人の数」から「3000万円+600万円×法定相続人の数」に縮小(4割減)したことで課税対象者が急増。その後も着実に増えている。グラフは国税庁「令和2年分 相続税の申告事績の概要」を基に作成

 大都市圏ではこの割合がさらに高まり、東京国税局管内では7.3人に1人に相続税がかかっている。お金持ちでなくても、生きているうちからの節税対策の重要性は増しているのだ。

相続・贈与関連の主なルール改正の流れ
2015年
 ・相続税の基礎控除が大幅に縮小(従来の4割減に)
 ・相続税の税率を変更

 19年
 ・自筆証書遺言の財産目録の作成が手軽にできるように
 ・故人の預貯金の一部が引き出せるように
 ・遺留分の権利が金銭債権の扱いになる
 ・介護などの特別寄与料の制度を新設
 ・夫婦間での居住用不動産の贈与に優遇措置

 20年
 ・住居について「配偶者居住権」の制度を新設
 ・法務局で自筆証書遺言の保管が可能に

 21年
 ・教育資金の一括贈与について要件を厳格化
 ・結婚・子育て資金の一括贈与について一部要件を厳格化

 22年
 ・住宅取得等資金の贈与について非課税枠が縮小

 23年以降
 ・「相続税と贈与税の一体化」が進む見通し

 この節税術の王道といえるのが、生きているうちに子や孫に財産を渡しておく生前贈与。将来の相続財産がその分減るため、相続税を抑えられる。ただ現在、この生前贈与にも黄色信号がともっている。年間110万円の基礎控除がある「暦年贈与」について、23年以降にルールの見直しが入る可能性が高まっているのだ。

【2】年間110万円の控除を生かした節税術が厳しくなる!?

 21年度および22年度の税制改正大綱で続けて示されたのが、「相続税と贈与税の一体化」の考え方。財産を渡す時期によって税負担の違いがある状況を見直していくという趣旨だ。

 現在の暦年贈与では、相続が発生した際に被相続人が死亡前3年以内に行った贈与分を、相続財産に含めて(持ち戻して)相続税を計算する仕組みになっている。今後見込まれるルールの見直しでは、この3年という持ち戻し期間が10年や15年などに延びるのではないかと予想する専門家が多い。

 もしそうなると、年間110万円の非課税枠を生かし、毎年生前贈与することで相続財産を減らすという節税術が使いにくくなる。持ち戻し期間が長くなった分、相続税の課税対象となる額が増えて税負担は重くなる。

年間110万円の控除がある暦年贈与について、見直しの議論が今後本格化する。数年内にも、相続財産への持ち戻し期間が延ばされる可能性が高い(上図は識者取材や各種資料を基に作成。あくまでも一つの予想ケースであり、実際の改正内容とは異なる可能性がある)
年間110万円の控除がある暦年贈与について、見直しの議論が今後本格化する。数年内にも、相続財産への持ち戻し期間が延ばされる可能性が高い(上図は識者取材や各種資料を基に作成。あくまでも一つの予想ケースであり、実際の改正内容とは異なる可能性がある)

 可能性としては基礎控除額の減額や、「相続時精算課税制度」への一本化という改正もあり得る。相続時精算課税とは、2500万円の特別控除がある生前贈与の制度。贈与時には軽減された贈与税を支払い、その後の相続時に贈与額をすべて相続財産に持ち戻して相続税を計算する仕組みだ(既に支払った贈与税は相続税から差し引く)。相続時精算課税への一本化ともなると、節税術の大部分が封じられかねない。

 書籍『ぶっちゃけ相続』の著者である税理士の橘慶太氏(円満相続税理士法人代表税理士)は、「将来的には相続時精算課税に一本化する方向と見ているが、まずは暦年贈与の持ち戻し期間を5年や10年にするなど段階的に改正が行われるのではないか」と言う。

 また現在は、持ち戻しルールの対象が原則として相続人に対する贈与に限定され、遺産を相続しない孫やひ孫への生前贈与は対象外となっている。しかし、「これも持ち戻しの対象にするという改正が行われる可能性が高いと予想している」(橘氏)。

 仮に22年12月に出される次の税制改正大綱で具体的な改正内容が示された場合、24年初めにも適用が開始される見込み。それまでの「駆け込み贈与」のチャンスは、あと約2年だ。相続税が将来かかりそうな場合は、今のうちにできるだけ生前贈与をしておくのが税金面では得策だ。

 その他、「住宅取得等資金の贈与」や「教育資金の一括贈与」などの特例についても、「いずれは無くなる見通し。贈与には早めに取り組んでおくといい」(曽根氏)。

生前贈与の主な制度
■暦年贈与
年間110万円の基礎控除があり、例えば100万円を贈与した場合は非課税。200万円の贈与なら課税対象額は90万円になる。毎年の贈与における控除分の積み重ねが節税効果を生む

■相続時精算課税制度
2500万円までの贈与が非課税になる一方で、相続時には贈与額をすべて相続財産に持ち戻して相続税を計算する制度。実質的には課税の先送り。暦年贈与の控除との併用はできない

■住宅取得等資金の贈与
子や孫が住宅を取得する際の親や祖父母からの資金援助について、一般住宅は500万円、一定条件を満たした良質な住宅なら1000万円まで贈与税がゼロに。適用期限は23年12月末

■教育資金の一括贈与
子や孫に教育資金を贈与する場合に、1500万円まで非課税になる特例。21年度の税制改正で、贈与者が死亡した場合の残額に対する相続税課税要件を厳格化。適用期限は23年3月末

■結婚・子育て資金の一括贈与
子や孫への結婚・子育て資金の贈与が1000万円まで非課税になる特例。贈与者が死亡した場合の残額は相続税の課税対象で、節税面でのメリットは少ない。適用期限は23年3月末
注)住宅取得等資金の贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与の適用期限は延長される可能性がある

【3】近親者がもめる「争続」は、ひとごとではない

 遺産の分け方を巡って、近親者同士がもめる「争続」も大きな問題だ。遺産分割でもめて裁判所に持ち込まれる案件は年間約1.5万件(下グラフ)。そのうち約7割は遺産額が5000万円以下で、1000万円以下のケースも約3割ある。

 相続は遺産額が多いほどもめるイメージがあるが、実際はそうとは限らない。争続は決して、ひとごとではないのだ。そして遺族がひとたび感情的にぶつかってしまうと、相続手続きが一向に進まなくなる。

裁判所に持ち込まれる遺産分割の争い事(家事審判・調停)は毎年1万5000件程度。ここ25年間に約6割増えている。グラフは裁判所「司法統計」を基に作成
裁判所に持ち込まれる遺産分割の争い事(家事審判・調停)は毎年1万5000件程度。ここ25年間に約6割増えている。グラフは裁判所「司法統計」を基に作成

 そうしたトラブルを減らすため、被相続人が自筆の遺言書で意思を伝えやすくしたり、相続人が最低限受け取れる遺留分について金銭で解決しやすくしたりといった、様々な法改正が近年行われている。最新制度を使いこなすことで、感情面の相続対策もできる。

 「相続対策は、子の世代が動かないと進まない」と曽根氏。親が70代になっているのなら、すぐにでも動き始めたい。それが自分のため、親のため、家族のためになる。

(イラスト/平松 慶)

【得する相続】
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