
衣料品販売のワークマンは、表計算ソフト「Excel(エクセル)」を使った独自のデータ経営を推進してきた。そんな同社が2022年2月からAI(人工知能)の導入に踏み切った。地道なアンケートなど顧客理解の取り組みは従来通りに進め、精度も追求する新たな「エクセルとAIの共存」体制を目指す。
かつて経験と勘のアナログ経営で勝負し、成長を重ねてきたワークマンは、2012年からデータ経営へと転換した。その主力ツールが表計算ソフトの「Excel(エクセル)」である。IT担当が「このツールを使って下さい」と押しつけるのではなく、多彩な活用のアイデアを生み出せるよう、全社的な研修で、エクセルを使ったPOS(販売時点情報管理)データなどの分析手法を社員が身に付けてきた。
その結果として、社内からは需要予測などさまざまなツールが生み出されるようになった。それらのツールは1つにまとめられ「シートの1枚目は営業部員(店舗のスーパーバイザー)が使うツール、2枚目を開くと店長向けツール、3枚目はエリア長が使うツールといった具合に共有している」とワークマンのデータ戦略部長、長谷川誠氏は話す。
▼関連記事 ワークマンが駆使する「自作エクセル」を初公開 データ経営の要「エクセルがいいのは、自分で考えるようになるからだ」。書籍『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』(日経BP)の中で、当時システム関連の改革を進めた現ワークマン専務、土屋哲雄氏はこう語っている。その上でAIについては「思考のプロセスがブラックボックスになって見えない」「人材がそろい切ったら、AIで自動的にやってもいいかな」「相当自信が付くまではAIは入れない」という言葉も残している。
今やワークマンはデジタル人材がそろったという段階へたどり着いたのか。長谷川氏はその自信も含ませつつ、社内でエクセル活用を高度化する中で「精度を高めていくためには時間がかかる」という課題が見えてきたと話す。
例えば新店の売り上げ予測。周囲の人口がどのくらいか、交通量はどの程度か。立地はインカーブ/アウトカーブか(店舗がカーブの内側に立地している場合はインカーブ、外側の場合はアウトカーブ。アウトカーブの方がドライバーから視認しやすく売り上げを伸ばしやすい)。予測を立てる上では、これらの過去数年間の変数を用意し、統計学の計算式と組み合わせることで分析する。
「この変数を当てはめれば良さそうだ」と推定はできるが、多くの場合それなりの精度になる。精度を高めるには「変数ごとにどれが効いているが、効いていないかを検証し、効いていなければ排除する。ほかに効きそうなものがあれば社内外からデータを探す」(長谷川氏)といった地道な作業が必要となる。
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