マーケツール導入/乗り換えの極意 第6回

会員数550万人超を持つ電子コミック配信サービス「まんが王国」を展開するビーグリーは、2021年8月にレコメンドツールを切り替えた。切り替えは経営戦略の転換に起因する。マーケティングツールは提供会社によって開発方針が異なるため、経営戦略や事業戦略に合わせて、適切なツールへと乗り換えるのも真価を引き出す重要なポイントだ。ビーグリーは候補の中から最も適したツールを選ぶため、約1年にわたる徹底したABテストを実施。ツールの乗り換えによって、顧客の平均購入単価の引き上げに成功した。

会員数550万人超を持つ電子コミック配信サービス「まんが王国」を展開するビーグリーは、経営戦略の転換に合わせてレコメンドツールを乗り換えた
会員数550万人超を持つ電子コミック配信サービス「まんが王国」を展開するビーグリーは、経営戦略の転換に合わせてレコメンドツールを乗り換えた

 マーケティングツールはカテゴリーによって乗り換えや導入のしやすさが大きく異なる。CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)やCRM(顧客関係管理)ツールといった大量のデータを蓄積するようなシステムはデータの移行などが伴うため、おいそれと乗り換えることが難しい。そのため、一定の契約期間が経過し、サポート対象から外れるといった大きな節目で乗り換えるケースが大半だ。

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 一方、レコメンド、Web接客、広告の誘導先のページ構成を最適化するLPO(ランディングページ最適化)、EFO(エントリーフォーム最適化)といった、導入するページにコードを埋め込むだけで動作するタイプのツールは乗り換えが比較的簡単だ。自社の事業戦略や経営戦略に合わせて、適したツールを都度選択することで、目的に沿った成果を上げられる。

 電子コミックの配信サービス「まんが王国」を展開するビーグリーは、経営戦略に合わせて適したツールを選択することで、事業成長につなげてきた一社だ。同社は21年8月に従来利用してきたレコメンドツールから、シルバーエッグ・テクノロジーのツールへと乗り換えた。経営戦略を「新規顧客の獲得重視型」から、顧客1人当たりの収益を高める「LTV(顧客生涯価値)重視型」へとかじを切ったことが乗り換えの理由だ。

新型コロナ禍の特需の長続きは期待薄

 電子コミックは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響による特需を受けた市場の1つ。外出自粛が広がり、自宅で過ごす時間が増える中で電子コミックを購入する層が大幅に増加した。全国出版協会・出版科学研究所(東京・新宿)は22年2月25日、2021年のコミック市場の推定販売金額を発表。紙版と電子版を合わせた金額は前年比10.3%増の6759億円。成長をけん引したのは電子コミックだ。電子コミックの売り上げは同20.3%増の4114億円で、初めて4000億円を突破した。

 ビーグリーもコロナ禍の特需の影響で大きく売り上げを伸ばした。21年12月期の売上高は前期比50.6%増の186億3700万円、営業利益は同21.8%増の13億4500万円と大幅な増収増益となった。ただ、中長期ではその恩恵が徐々に鈍化していくとみられる。

 電子書籍の市場隆盛の真っただ中において、ビーグリーは新規顧客開拓を目的とした広告戦略に軸足を置いてきた。広告からいかに効率よく新規顧客獲得に結び付けるかが、重要なKPI(重要業績評価指標)になる。「低単価の商品でも、まずは作品を読んでもらい、サービスに定着させることが重要。広告のウエートが高い前提で、作品をどう薦めていくかという発想だった」とビーグリーの吉田仁平社長は振り返る。

LTV重視型へ経営戦略を転換

 ビーグリーはこうした広告偏重の経営戦略を2020年に大きく転換した。市場が一定程度広がり、徐々に新規顧客開拓が鈍化していくことを見据え、既存顧客の満足度を高めて囲い込み、ARPPU(アベレージ・レベニュー・パー・ペイド・ユーザー=会員1人当たりの平均課金額)を向上させる、LTV重視戦略へとかじを切ったのだ。この戦略転換において、以前に導入していたレコメンドツールの性能が合致しなくなった。レコメンドツールと経営戦略がなぜそれほど密接に関係するのか。それを理解いただくうえで、まずはビーグリーの事業モデルを説明しよう。

 まんが王国の会員はポイントを購入し、そのポイントを消費して配信されている作品を読むサービス。ポイントの消費率を高めることが、売り上げにつながる事業モデルだ。配信されている作品は大きく2つの種類に分けられる。1つは単行本の電子版を1冊単位で売る商品。閲覧するうえでの消費ポイントが高く、収益性が高い。もう1つは、1話単位で販売する商品だ。電子版コミックスならではの販売方法だろう。消費ポイントが低く、気軽に読んでもらいやすい。

 これらのコンテンツを使い分けることで、新規顧客を獲得したり、会員の満足度を高めたりすることが事業成長につながる。新規顧客獲得を目的とした広告施策では、1話単位の商品に誘導したほうが会員化を期待できるといった具合だ。そのため、数万タイトルの中から、顧客層ごとに適した商品を推奨できるレコメンドツールはまんが王国のマーケティング戦略に不可欠だった。ただし、提供会社によって商品を推奨するロジックに違いがあることを注視しつつツールを選ぶ必要があった。

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