経済再生策の一丁目一番地として移動産業やインフラに焦点を当て、1兆ドル(約130兆円)を超える予算で投資を進める米政府。自動運転の社会実装、街路空間のリ・デザインなど、モビリティ革命が急速に進む現地をモビリティデザイナーの牧村和彦氏が訪ねた。

サンフランシスコのダウンダウンを走行中のZooxの車両(写真中央、写真提供/計量計画研究所・和泉氏)
サンフランシスコのダウンダウンを走行中のZooxの車両(写真中央、写真提供/計量計画研究所・和泉氏)

 2021年11月15日、米バイデン大統領の署名により米国のインフラ投資・雇用法(Bipartisan Infrastructure Law, Infrastructure Investment and Jobs Act)が成立。1兆ドル(約130兆円)を超える予算をインフラ整備や移動産業に投資するという、今世紀最大の経済再生事業が始まって、はや1年が経過した。

 22年11月4日には、1年目として1850億ドル(約24兆円)の調達を完了したことで、米国の移動産業はこの話題で持ちきりだ。すでに米政府は6000を超えるインフラ整備プロジェクトに投資を開始しており、3000人を超える連邦スタッフを新規で雇用したという。

 その中でも注目は、初年度だけでも392億ドル(約5兆1000億円)を新しい公共交通などへ投資する点であり、地域交通のリ・デザインが一気に加速し始めている。

 もちろん、キーワードはグリーンイノベーションによる経済再生だ。バイデン大統領による「ビルド・バック・ベター(より良い再建)」の旗印の下、都市間高速鉄道、都市内の地下鉄、LRT(次世代型路面電車)やBRT(バス高速輸送システム)といった幹線交通への巨大投資は、公共交通復権の時代が欧州だけではなく、米国にも到来したといっていい。さらには、電動化や水素燃料、自動運転やオンデマンド交通など、スマート・モビリティ・サービスに対しても巨額の投資が始まっている。

 米国の経済再建は、移動産業への投資を重要政策の柱としている点が特徴であり、日本の移動産業に漂う暗雲とした空気感とは全く異なる、骨太の政策が本格始動している。筆者(計量計画研究所理事兼研究本部企画戦略部長の牧村和彦)は、23年1月中旬に米国へ飛び、モビリティ革命が進行する現地の姿を目の当たりにしてきた。本稿と次回の2回にわたり、詳しくリポートしていく。

無人の自動運転車両が行き交うサンフランシスコ

 サンフランシスコのダウンタウンに短時間滞在するだけで、GM(ゼネラル・モーターズ)傘下のCruise(クルーズ)、グーグル系のWaymo(ウェイモ、サービス名はWaymo one)など、無人の自動運転車による配車サービスが本格運用されていることを体感できる。

 日本の専門家からは、街中の無人運転サービスの導入には、まだかなりの時間がかかるという話をよく聞く。ところが、歩行者、自転車、路線バスやケーブルカー、さらには路上駐車車両が混在したサンフランシスコのダウンタウンで、すでに「商用サービスとして自動運転車が走行している」。これが現実だ。

GMの無人運転配車サービス「Cruise」のサンフランシスコにおけるサービスエリアは徐々に拡大している(画像/Cruiseホームページから)
GMの無人運転配車サービス「Cruise」のサンフランシスコにおけるサービスエリアは徐々に拡大している(画像/Cruiseホームページから)

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