2019年12月に制定されたフランスのモビリティ基本法(LOM法)は、世界初の「MaaS法」というべき衝撃的な内容だった。そのLOM法の制定から約3年。スマートモビリティ先進国、フランスはどう変わったのか。激変した現地の姿を専門家がリポートする。

パリ市内では、168を超える学校前の道路が歩行者専用空間に生まれ変わった(写真/筆者)
パリ市内では、168を超える学校前の道路が歩行者専用空間に生まれ変わった(写真/筆者)

 フランスのモビリティ基本法(LOM法)は、デジタル社会をけん引し、脱炭素化と地域交通のリデザインの両立を全国レベルで推進していく革新的な制度だ。日経クロストレンドでは、『世界初の「MaaS法」の衝撃 フランスが1兆円超えの大型投資』として2020年1月にいち早く紹介。また、全文翻訳のパワポまとめを同年3月に公表した。

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 今や世界で注目のスマートモビリティ先進国、それがフランスだ。筆者(牧村和彦)は運輸総合研究所の“人と多様なモビリティが共生する安全で心ときめくまちづくり”調査の一環として、モビリティ基本法制定後、約3年が経過したフランスの現地調査を2022年9月に行ってきた。その結果を今回、共有したい。なお本リポートは、運輸総合研究所客員研究員の三重野真代氏、研究員の矢内直子氏による研究成果の一部でもある。

 モビリティ基本法は、2050年のカーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)を目標とし、モビリティ革命をけん引する次世代の法制度だ。地域が抱える移動の課題を解決するとともに、新しい移動サービスを積極的に取り入れた交通戦略を推進し、モビリティ分野のデジタル化を同時に進める政策が盛り込まれている。

 国や地方都市圏のモビリティ分野におけるガバナンスを高めるため、日本でも議論が始まっている官民データ連携基盤をいち早く構築。地方行政がデータを基にした都市経営にシフトできるよう、国家がそれを支える仕組みづくり、まさに基盤(プラットフォーム)を整えてきた。

様々なモビリティのイノベーションを起こしていく世界初の“MaaS法”である、フランスのLOM(loi d’orientation des mobilités)法は19年12月に制定された(出典:フランス環境連帯移行省ホームページより)
様々なモビリティのイノベーションを起こしていく世界初の“MaaS法”である、フランスのLOM(loi d’orientation des mobilités)法は19年12月に制定された(出典:フランス環境連帯移行省ホームページより)

 制定されてから3年近くが経過し、フランスのモビリティ事情は激変していた。首都パリだけを見ても、街中を走る多くの路線バスは電気駆動型のバスやハイブリッド車に刷新されている。また、市内主要道路の制限速度は時速30キロメートルとなり、短距離の移動には自転車や電動キックスケーターなどのマイクロモビリティが活躍していた。

 すでに路上だけでも2500カ所以上の充電施設が配備されており、都市間の移動の主役は飛行機から鉄道に交代し始めている。さらに学校前の道路は僅か2年間で168カ所もの区間が歩行者専用空間に生まれ変わり、夕方には親同士の井戸端会議や子供たちの元気な声が街中にあふれていた。「歩車共存」の時速20キロメートル規制エリアも、フランスでは特別なことではなくなりつつある。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)を経て、パリの景色はがらりと変わっていた。

2030年までに移動関連の温暖化ガス排出を半減

 モビリティ基本法では、フランス国内に新たな移動サービス事業者が進出する場合、営業許可の条件として行政機関に対し移動サービスのデータ提供が求められる。そしてフランス政府は、これら移動サービスを一元化した官民データ連携基盤を構築している。路線バスやトラム(路面電車)など既存の公共交通機関だけではなく、カーシェアリングや自転車シェアリング、後述する「相乗り」やEV充電施設など、様々な移動に関するデータを集約する。その結果、MaaSに代表されるような新しい移動支援サービスや都市経営のための基盤が非常に短期間で社会実装されてきた。

 集約されるデータには、シェアリングサービスのデポ(貸出拠点)の位置や、車両の状態(台数、満空情報、充電状況他)に加えて、利用の実態や決済データなども含まれる。パリ市においては、シェアリングサービスに対して1台当たりの道路使用料も徴収しているそうだ。

官民データ連携基盤の可視化例(図は22年1月の相乗り移動需要)
官民データ連携基盤の可視化例(図は22年1月の相乗り移動需要)
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