月9ユーロ(約1300円)で公共交通が乗り放題――。2022年の夏休みシーズン限定ながら、こんな仰天プランがドイツ全土で実施された。移動需要を掘り起こし、経済活性化を狙うとともに、マイカー利用から公共交通へのシフトにより温暖化ガスの排出量削減を目指したものだ。どれだけの効果をもたらしたのか。

ドイツのフランクフルトの主要駅(写真/Shutterstock)
ドイツのフランクフルトの主要駅(写真/Shutterstock)
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 ドイツでは、国民の“移動リハビリ”大作戦として、2022年6月から8月の3カ月間、国内の公共交通全線を1カ月9ユーロ(約1300円)で乗り放題とする、大胆かつ即効性の高い経済政策が実施された。夏休み期間において、過度なマイカー移動を抑制し、ガソリン価格の高騰や気候危機への対応を視野に入れたものだ。

 乗り放題となったのは、新幹線(ICE)や1等列車を除く、在来鉄道や路線バス、トラム(路面電車)など。乗り放題のチケットは月ごとに券売機やサービスセンター、アプリなどを通して販売されるため、事前購入しておくと1カ月間まるまる恩恵を受けられる。すでに定期券を保有している人には差額が払い戻されるという徹底ぶりだった。

ドイツで販売された「9ユーロチケット」のイメージ(画像/ハンブルク運輸連合サイトより)
ドイツで販売された「9ユーロチケット」のイメージ(画像/ハンブルク運輸連合サイトより)
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 3カ月間の経済効果などが、ドイツ交通事業者連合(Die Verkehrs-unternehme)およびドイツ鉄道(Deutsche Bahn、DB)から報告されており、以下のように目覚ましい成果が得られている。

【ドイツ乗り放題チケットの成果】
  1. 乗り放題チケットは計5200万枚を販売
  2. 10人に1人が、週に1回は自動車の代わりに公共交通機関を利用
  3. 5人に1人は、今まで公共交通機関を利用したことがなかった人が利用
  4. 3カ月間でCO2排出量を約180万トン削減

 乗り放題チケットは計5200万枚販売されたというので、単純計算すると僅か3カ月間で約680億円を売り上げたことになる。また、マイカー利用が急増する夏休みシーズンにもかかわらず、自動車による移動は新型コロナウイルス感染症拡大前の19年比で増加していない。

 一方で、地方都市や観光地の鉄道利用は19年比で80~90%増という結果をもたらした。都市部の非観光地においても50%増を記録している。1カ月当たりの移動総量は10億回と推計されており、自動車利用から10%が公共交通にシフトしたという。これらは、驚くべき行動変容の結果といって良いだろう。

 公共交通の乗り放題施策で人流が活発になった結果、大都市部でのマイクロモビリティの利用も急増した。自転車、電動キックスクーター、電動バイクのシェアリングサービスは、ミュンヘンでは実施前の3カ月(22年3~5月)と比較して同6~8月は60%増、フランクフルトやハンブルクでも電動キックスクーターや電動バイクは40%増を上回る利者数を記録した。都市間の移動が活発になった結果、街中の移動も活性化され、それを24時間無人でいつでも利用できるシェアリングサービスが後押しした形だ。

ミュンヘンにおける2022年の3~5月と6~8月のマイクロモビリティ利用者数の変化(画像/fluctuo社)
ミュンヘンにおける2022年の3~5月と6~8月のマイクロモビリティ利用者数の変化(画像/fluctuo社)
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乗り放題を支えたドイツのMaaS

 僅か3カ月間で5200万枚もの乗り放題チケットが売れた背景には、大きく2つの要因があると筆者は考えている。1つ目は、ドイツ鉄道や地方都市が主導するMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)の躍進だ。

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