乗りたいときにスマートフォンで呼べてタクシーより安く移動できる、乗合型の「オンデマンド交通サービス」が、国内外で第3次ブームを迎えている。都市部での実装は難しいといわれている中で、2019年から取り組むフォルクスワーゲン傘下のMOIA(モイア)はハンブルクなどでのサービス展開で急成長。一体、どんな仕掛けがあるのか。

フォルクスワーゲン傘下でオンデマンド交通サービスを提供するMOIA(モイア)の車両(写真/MOIA)
フォルクスワーゲン傘下でオンデマンド交通サービスを提供するMOIA(モイア)の車両(写真/MOIA)
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 日本でも地域公共交通の救世主として、「オンデマンド交通」に多くの注目が集まっている。オンデマンドとは、「需要に対応する」という意味であり、オンデマンド交通とは複数の利用者の需要(予約)を集約した形で運行する乗り合い交通サービスのことを指す。

 乗りたいときにスマートフォンで呼べて、タクシーより安く移動できる。つまり、路線バスとタクシーのそれぞれのデメリットをうまく補完しつつ、それぞれのいいところ取りを目指した移動サービスだ。時々、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)と称するオンデマンド交通サービスもあるが、海外ではそれ単体でMaaSとは言わない点に留意が必要だ。

 オンデマンド交通は最近のサービスと誤解している読者もいるかもしれない。しかし、国内でも1970年代ごろから取り組まれてきた移動サービスであり、2000年代にはITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)を活用した実証実験が全国各地で行われている。現在は、第3次オンデマンド交通ブームと言っていいだろう。

 ただし、これまでのブームとは大きく異なる点がある。それはデジタル、通信の飛躍的な進展と裏側のアルゴリズムの進歩だ。移動需要が少ない地域で赤字運行されているバスなどの代替サービスとしてだけではなく、都市部でも社会実装が始まっている。

 また、ICT(情報通信技術)の革新により、オンデマンド交通とユーザーとの距離感は大きく変わりつつある。スマートフォンで車両を呼び出すと、自分のために来てくれる感覚は、これまでの路線バスにはない。予約や事前決済手続きの手間を超えた先には、車両が来るまでの楽しさ、移動先でのわくわく感までも演出し、1人の移動ではなく乗り合うことで、自らが気候危機に貢献した喜びも感じることができる。

 これまでオンデマンド交通は、世界中で生まれては消えを繰り返してきた。そんな中で、着実に顧客の心をつかみ、短期間の実証ではなく長期間の社会実装を続けているプレーヤーも増えている。その筆頭が、フォルクスワーゲンだ。同社の取り組みからオンデマンド交通をブームで終わらせないポイントを考えてみたい。

フォルクスワーゲンのオンデマンド交通が大躍進

 自動車会社のフォルクスワーゲンは、バスとタクシーの中間の新しい移動サービスであるオンデマンド交通の需要開拓に積極的な企業の一つだ。これまで交通の専門家らは、時刻表がない、路線図もないオンデマンド交通の都市部での導入は難しいとしてきた。ところが、フォルクスワーゲンは16年に設立したオンデマンド交通の戦略子会社、MOIA(モイア)を通じて、すでに成功を収めつつある。

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