新型コロナウイルス感染症拡大の“出口戦略”として、欧米で脚光を浴びている「グリーンリカバリー」政策。その一環として各国で進められているのが、マイカーから公共交通へのシフトを促す施策だ。公共交通の「運賃ゼロ」を実現することで、環境に配慮しながら移動需要を喚起し、経済の活性化を狙う例も出てきている。
オーストリアでは、「気候チケット(KlimaTicket)」の販売が2021年秋から始まった。気候チケットの初回キャンペーン価格は、年間約949ユーロ(約12万円、通常価格は1095ユーロ)。1日換算にして約340円を支払うと、長距離列車から普通電車、地下鉄、トラム(路面電車)、バスなど、オーストリア国内すべての公共交通機関が乗り放題となるものだ。
この取り組みは、気候変動危機への対策として移動による温暖化ガスの排出を減らすことを目的としている一方で、国民の移動コストの負担軽減と、移動による経済活性化をかなえる「三方良し」の政策として世界から注目されている。新型コロナウイルス感染症の拡大後、“出口戦略”として欧州で進む、環境に配慮しつつ景気を刺激する「グリーンリカバリー」の一環だ。
オーストリアの気候チケットは、販売開始から100日目の22年2月3日時点で、すでに14万人を超える国民が購入したという。なお、26歳未満および65歳以上、障害者は699ユーロ(約8万7000円)と約3割引きになっている。
オーストリアと同じ方向性の取り組みは、日本でも始まっている。富山県はマイカーに依存した生活を見直し、エコや健康づくりにもつながる公共交通などの利用を一層促進することを目的とし、22年2月28日から3月18日までの土日祝日を除く期間で、「とやまノーマイカーウィーク」を実施した。
そこで活用されたのは、トヨタ自動車が開発し、21年から富山を対象エリアとしているMaaSアプリ「my route(マイルート)」だ。具体的には、マイルートで90分間電車やバスが乗り放題となる電子チケットを150円という激安価格で販売。富山地方鉄道(富山市)、あいの風とやま鉄道(同市)、万葉線(富山県高岡市)、加越能バス(同市)などが参加した。
普段マイカーやバイクなどで通勤、通学をしている人の行動変容を促す狙いだが、実は富山でマイルートの展開を担うのは、自動車ディーラーのトヨタモビリティ富山(富山市)だ。自動車ディーラー自らが、エコな通勤・通学スタイルとして公共交通への切り替えを促したという点でも、画期的な取り組みといえる。
世界で始まる「運賃ゼロ革命」という新潮流
さらに一歩進んで、今、世界では公共交通の無料化で街を活性化する取り組みも次々と始まっている。
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