「移動手段が脆弱な地方都市では、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)を実現する前にやらなければならないことがある」。日本の専門家からはよく聞く話だが、本当にそうだろうか。その答えは、実は“自動車大国”である米国のフロリダ州にある。新たな都市間鉄道のオープンに伴って電動の移動サービスを多数用意することで、一足飛びに最先端でエコなMaaSをつくり上げた。その常識を超えた挑戦を追う。
米国で都市間の移動といえば飛行機であり、中距離移動にはもっぱら自動車が使われる。これまで都市間鉄道の構想が上がっては消えを繰り返してきたが、風向きが大きく変わりつつある。トランプ政権時代から進められてきた都市間鉄道構想が、バイデン政権への交代と脱炭素社会の潮流を受け、いよいよ現実味を帯びてきたのだ。
その一つの象徴が、フロリダ州のオーランドからマイアミを結ぶ都市間鉄道事業だ。米国では100年ぶりといわれる民間投資による鉄道事業であり、すでに2018年からマイアミとウエストパームビーチ間で「Brightline(ブライトライン)」というブランド名で運行が始まっている。22年内にはオーランド国際空港まで延伸し、約390キロメートルを3時間で結ぶ計画だ。
さらにはディズニーランドを経由して西側のタンパまでを結ぶ構想がある。マイアミからオーランド間の事業により、今後8年間で約7000億円の経済効果を見込んでおり、年間300万台のマイカー利用からの転換を含めて、年間600万人の利用を見込んでいる、巨大プロジェクトだ。
ちなみに、Brightlineの車両はドイツのシーメンス社、黄色がイメージカラーであり、遠くからでも一目でBrightlineと分かる目を引くデザインが特徴だ。ラスベガスや南カリフォルニアでも「Brightline West(ブライトラインウエスト)」事業を計画中で、こちらの車両は緑色をキーカラーとする。
Brightlineには既存の鉄道事業と大きく異なる点がある。当初からMaaSの一つのピースとして鉄道を捉えていることだ。具体的に解説していこう。
MaaSを前提とした鉄道事業の衝撃
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