モビリティデザイナーで博士(工学)の牧村和彦氏が、世界のMaaS新潮流をリポートする新連載の第1回。日本では、環境負荷の少ない移動手段ほど多くのマイルを付与する米国発アプリの「Miles(マイルズ)」が人気を博しているが、実は中国はさらに一歩進んでいる。カーボンクレジット(炭素排出枠)の仕組みを取り入れた「グリーンMaaS」の取り組みだ。2021年9月には北京で1440万人分の排出量取引が行われ、22年2月に開幕する北京冬季五輪の期間中も活用が計画されているという。その仕組みとは?
移動サービス革命「MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)」は、日本でも2018年から全国各地で社会実装が始まっており、また、各地でサービス実装に向けた実証実験が続けられている。
しかし、急速にMaaSの概念が広がった影響か、いくつかの「誤解」を耳にする機会も増えた。例えば、MaaSはバスや鉄道など一部の交通手段を統合したナビゲーションアプリをつくれば終わりというわけではない。また、自動運転やシェアリングサービスなど、単体の新しい交通サービスだけを指す概念でもない。ましてや、MaaSの実現だけで地方の交通問題が解決するような、“万能薬”ではない。
MaaSは地域が抱える課題を解決するための一つの手段である。as a Service(アズ・ア・サービス)という略語の通り、交通手段の統合もあれば、運賃や路線の統合もあり、デジタル化を通してあらゆる交通サービスの在り方を見直していくこと。その目的は、カーボンニュートラル(温暖化ガスの排出実質ゼロ)の実現や交通事故の撲滅など、社会課題の解決に貢献していくことにある。
デジタル化に加えて、地域になじむ交通サービス全体の再編を促し、そのために新しい技術(例えば、自動運転技術や決済技術など)を取り入れ、地域社会のトランスフォーメーション(変容)を促進していくことが肝要である。
現状のMaaSの本質に関する認識のズレは、今後、日本の成長や持続可能な社会を実現していくに当たって妨げになる可能性がある。そんな問題意識の下、本連載ではMaaSに果敢に挑戦する世界のプレーヤーに着目し、MaaSの最新動向を紹介しつつ、国内の取り組みに生かせるよう解説していきたい。
第1回は、中国で「グリーンMaaS」と呼ばれ、カーボンニュートラル社会をけん引するMaaSの挑戦を取り上げる。
中国「グリーンMaaS」の全貌とは?
中国は2060年にカーボンニュートラル社会の実現を目指しており、19年に発表された政府の長期交通計画において、MaaSが重要な政策の一つとして位置付けられている。中国で急速に普及している自転車シェアリングや配車サービスなどの新しいモビリティサービスと、既存の鉄道やバスといった公共交通機関との統合が重要な政策課題であり、中国各地でMaaSの取り組みが進められている。
その中の一つが首都・北京の取り組みだ。北京市交通委員会(BMCT)と北京市生態環境局が、Amap(アリババ傘下の高徳地図、Gaode Maps)とBaidu Maps(百度地図)の2社と協力。2020年に開催された第6回世界都市交通開発フォーラムにおいて、「グリーンシティのためのMaaSイニシアチブ」を立ち上げた。
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