※日経エンタテインメント! 2023年3月号の記事を再構成
森崎博之、安田顕、戸次重幸、大泉洋、音尾琢真。1996年に北海道で結成して以降、グループはもちろん個人としても大活躍を続ける演劇ユニット・TEAM NACSが『5D2-FIVE DIMENSIONS II-』(以下、『5D2』)を始動する。これは、ユニット結成15周年に当たる2011年に実施したソロプロジェクト公演の第2弾だ。前回はコントライブ、ひとり語り、さらにはバンドを率いての音楽ライブまで、各々が多様な演目を披露した。先陣を務めるのは、リーダーの森崎博之。俳優業のみならず、農業タレントとして農産物や食育に関する活動も行う彼が行うのは、ずばり農業がテーマのワンマンショー「Hiroyuki Morisaki AGRIman SHOW(アグリマンショー)」だ。
前回の『FIVE DIMENSIONS』は、TEAM NACS15周年企画の1つとして11年に行いました。25周年を迎えた21年に『5D2』をやれればよかったんですけれども、25周年は25周年で非常に忙しくて、それはもうやっている余裕がないということで、このタイミングになったんです。
前回、僕は*pnish*(パニッシュ)という、僕よりも若い演劇集団ユニットと一緒に、04年にTEAM NACSが行った舞台『LOOSER』の再演『LOOSER6』に挑戦しました。でも、例えば安田は「ひとり語り」、大泉だったら「ワンマンショー」、音尾君に関しては、架空のロックスターになりきっての音楽ライブっていう訳の分からないことをやっていて。「FIVE DIMENSIONS」は5次元という意味なんですけど、バンドやっちゃうって異次元ですよね(笑)。
自分の個性=農業をショーに
僕はいつもやっている芝居をほかの子たちと一緒にやって、それはそれで面白かったんですけど、「全然違うことをできる機会だったんだよなぁ。それなら次は1人で振り切ってやってみたいな」って自己反省したんです。そこで今回考えたのが、洋ちゃんのワンマンショーをもじって、1人で舞台に立つ「AGRIman SHOW」。そして、私にとっての異次元は「農業」だったんです。
食べ物を作ってくださる方への感謝や応援をいろいろな演目で表現したいと思っています。農業って家族経営が多くて、ジーンと心の奥底に響くような、家族にまつわる話が多々あります。本州での会社勤めに疲れて、北海道で農家になった方、高齢で酪農家を閉じる話…どれも宝物のような話です。そういうものを人生で初めて、一人芝居で表現します。僕、TEAM NACSの舞台では1度も言ったことないんですけど、今回は泣いていただきたいなって思ってます。そういうお話だけじゃなく、農業はすごく楽しくて、面白くて、おいしいんだって伝えたいので、歌や踊り、野菜を使ったイリュージョンみたいなものもあったりして。今の自分のスキルを全部出した、世界一楽しい農業のショーを目指しています。
森崎が、農業との関わりを深めるきっかけとなったのは、08年にスタートした北海道の農業の魅力を発信する番組『森崎博之のあぐり王国北海道』(現・あぐり王国北海道NEXT/以下、あぐり王国)。TEAM NACSの仲間たちが俳優として全国区の活躍を見せるなか、「農業は、自分の居場所になった」と語る。
『あぐり王国』が始まった08年頃は、TEAM NACSのメンバーが全国放送のドラマに出していただくようになっていた時期です。僕も『受験の神様』(07年)で初めて連ドラに出演させてもらいました。このまま俳優として活動していくのかなと思い始めた一方で、昔から「自分はあまりドラマや映画の役柄というものに、そこまでハマり込んでいないのでは」「4人とはちょっと違うんじゃないかな」みたいなことを感じていました。
もうちょっとしっかり地に足をつけるような仕事ができないかなと思っていたところに、(所属事務所である)オフィスキューの社長から「農業の仕事どう思う?」って言われて、「これじゃないかな」って思ったんです。というのも、自分のじいちゃん、ばあちゃんが北海道で農業をしていたので、僕の遊び場って公園でもテレビゲームでもなく、田んぼだったんですよね。他界したじいちゃんからのメッセージかもしれない、みたいに思って飛び込んでみたわけです。
食べることってうれしくて素敵なものなのに、ニュースで流れてくる農業にまつわる話と言えば、牛が病気だとか、キャベツが取れすぎて値段がつかなく捨てられているとか、最近では生乳廃棄問題だとか、暗いものばかり。『あぐり王国』では、とにかく子どもたちが農作物をがぶっと噛んで、おいしいって言ってくれるような番組作りをしています。これが、始まってすぐにピタッとハマり、僕の新たな生きがいになったんです。今は農家さんと一緒に、農業に関する様々な情報を発信する活動もしています。全国放送のバラエティ番組に北海道の野菜のプロみたいな感じで出してもらったり、講演会で真面目に農業応援について語らせていただいたり(笑)。
4人への劣等感が消えた
そのおかげで…あまり言葉にしたくないんですけど、他のメンバーへの劣等感というか、俺だけ俳優業にハマってない気がするんだよなあっていう、もやもやみたいなものが晴れまして。東京へ行かなくても、こうやって地元でライフワークとして打ち込める仕事が僕にはあったんじゃないかと。なので、北海道には感謝していますし、「AGRIman SHOW」も北海道への感謝だったりします。
しかも今は、地方からでも発信できる時代になりましたよね。僕は『森崎博之のジャンジャンジャンプ』(HBCラジオ)というラジオ番組をやってますけど、ローカル局の番組をradikoで全国の方々が聴いてくれて。本州からのメールが北海道の方より多く届くようになりました(笑)。そんなふうに北海道にもアンテナをね、向けてくださるっていうのが、とてもありがたいなと思っています。
劣等感とかもやもやとか、言葉をあまり選ばず言っちゃいましたけど、でもそれってチームにとってすごく大切なステップだったと思うんです。僕らはソロ活動が多いけど、やっぱりチームなんですよね。チームメートでありつつ、どこかでこいつには負けたくないと常に意識していることが、きっと僕たちそれぞれを引き上げてくれてる大きな要素だったんだろうなと。今になって振り返るとそう言えますね。
個性を出してこその5人組
今回の『5D2』で、自身の強みとなった「農業」を存分に発揮しようと考える森崎は、他のメンバーがどんなことをやってくれるのか楽しみにしているという。
他のメンバーも前回からの10年以上の間にキャリアを積んでいます。仲間の自分が言うとおこがましいですけど、今やみんなもう素晴らしい俳優さんたちばかりで、誇りに思ってますよ。大河ドラマだ、日曜劇場だ、朝ドラだ、仮面ライダーだって、すげーなと思う。
でも、みんなステージが上がったはずなのに、いまだに月に1回、北海道に集まってバカバカしい深夜番組(『ハナタレナックス』北海道テレビ)を撮ってるんですよね。本当にバカバカしいし、くだらないし、自分の子どもには見せたくないような番組で(笑)。あいつらはいいんですよ、東京で生活してるから。でも、俺は札幌にいるから、自分の子どもたちも、子どもの同級生も見ちゃうんですよね(笑)。本当にね、それは困っているんですけど、こんなふうに各自のポジションが上がっていこうとも、みんながそろうといつでも(出身大学である)北海学園大学の演劇部の部室で集まって、だらだらしゃべって笑ってたあの頃に戻れるんだっていう。それがTEAM NACSの強みかもしれません。紅白の司会をやっても、やっぱり5人になった時には同じなんですもん。
僕らってね、5人ではあまり新しいことしたくないんですよね。フォーマット通りのことをしたい。例えば、東京ドームで公演しようとか一切思わないですし、「海外進出は?」と言われることもあるんですけど興味なくて。あ、「AGRIman SHOW」はね、ぜひブロードウェイ公演をやりたいですけど(笑)。でも、TEAM NACSがあるからこそ、ソロになった時には各人が尖っていこうと。そうすれば5人で描くレーダーチャートは大きくなっていくはずなので。だから『5D2』でも、みんながどれだけはみ出してくるんだろうという興味があります。まだ中身が決まってないメンバーもいるはずなんですけど、僕がトップバッターですから「リーダー、農業やんのか? 普通じゃつまんねぇもんな」と影響を与えられればいいなと思いますね。
僕がリーダーとして、NACSに対して考えていることはたった1つ、長く5人でいたいということだけです。96年に旗揚げをしてすぐに1回解散を経験しているので、もう解散をすることはないとは思いますが、2056年まで続けるのが目標で。結成60周年、最年少の音尾が80歳を超えた時の公演で、「本日のご来場ありがとうございました」と解散式もせず、NACSを閉じたいんですよね。
その目標がかなうなら、あとは各々が好きにやればいいんじゃないかと思っています。やっぱり僕らは個性を出してなんぼの5人組だし、もともと統一感なんかないですから。今回の『5D2』も、それぞれが面白いと思っていることを自由に出せる場を与えてもらったことに感謝しながら、尖ったものを作っていきたいですね。
「Hiroyuki Morisaki AGRIman SHOW」
(写真/中川容邦 ヘアメイク/岩下倫之[ラインヴァンド] スタイリスト/小林洋次郎[Yolken])