2023年3月1日から放送中のドラマ『とりあえずカンパイしませんか?』(テレビ東京系/毎週水曜25時)にて主演を務めている白石聖。同作は「恋人の三股相手」という不思議な縁で出会った、人見知りの花火(白石)と、姉御肌のあけび(朝倉あき)、社交的な若葉(北野日奈子)が、合コンという“出会い”を通じて成長するハートフルコメディで、毎週異なるキャストが合コン相手として登場することでも話題だ。

白石聖(しらいし・せい)
1998年8月10日生まれ。神奈川県出身。2016年に女優デビューを果たし、『絶対正義』(19年)にて第15回「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」新人賞を受賞。おもな近作に『胸が鳴るのは君のせい』『しもべえ』(いずれもヒロイン)、『カナカナ』など。特技はドラム

 今作に限らず、演じる際には「役のコンプレックスを探す」という白石。「見る方にとっていとおしいキャラクターになれば」という思いが、共感性の高い芝居につながっている。1月スタートのドラマ『大奥』(NHK総合/毎週火曜21時)「八代将軍吉宗・水野祐之進編」にも登場し、重要なパートを担った。21年の映画『胸が鳴るのは君のせい』や、22年のドラマ『しもべえ』でヒロインを務めるなど、主役級の俳優として成長しつつある彼女は今、独自の透明感を放つ実力派としてめきめきと頭角を現わしている。

 合コンって品定めをし合うイメージがあったのですが、今回の作品には全くそういうものはなく、経験のない私にとっても優しい合コンでした(笑)。監督がもともとご一緒させていただきたいと思っていたふくだ(ももこ)さんということで、お話をいただいた時には「ふくださんが演出してくださるなら」という思いが強かったです。それにワンシチュエーションでの作品だったので、自由度が高くお芝居を楽しめるんじゃないかな、と。というのも、話の流れを損ないさえしなければ、誰かが話している時に何をしていてもいいと言われて。私がメガネを触る動作を演じてみたら、監督の指示でその動きが増えましたし、キャラクターを着色しやすい魅力がありました。加えて毎話、ゲストの男性陣が来てくださるので、同じ空気感が二度はないというのが新鮮でしたし、普段やっているドラマよりも生っぽい、その場で作りあげていく感覚が強かった気がします。

水ドラ25『とりあえずカンパイしませんか?』はテレビ東京系で毎週水曜25時から放送中のほか、TVerにて放送終了後より見逃し配信中
水ドラ25『とりあえずカンパイしませんか?』はテレビ東京系で毎週水曜25時から放送中のほか、TVerにて放送終了後より見逃し配信中

 最近は本読みする機会がなく現場に入ることも多いのですが、今回は事前に朝倉さん、北野さんと本読みをして、3人の関係性を感じ取った上で撮影に入りました。最初に撮影したのは、3人に三股をかけていた元カレの山田の部屋で、3人で暴れるシーンでした。私はクリスマスツリーを破壊したのですが、ツリーに申し訳ない気持ちでした……(笑)。だけどそんなふうに家を荒らす経験ってないじゃないですか。してはいけないことをしていると思いつつ、発散される部分もあって、不思議な気持ちでしたね(笑)。

 朝倉さんとは以前、共演させていただいたことがあったのですが、しっかりお芝居をさせていただくのは今回が初めて。朝倉さんはあけびさんみたいに頼れる存在で、優しくて朗らかな方でした。北野さんは本当に明るい方。タイトなスケジュールの中、合コンという場面展開のないシーンをずっと撮り続けていると、だんだん皆さんの口数が減ってくるのですが、北野さんがいつもキラキラの笑顔で現場の空気を明るくしてくださったんです。その天性の明るさに救われました。

 そんなふうにスケジュールは大変だったのですが(笑)、毎話、男性陣が変わるという撮影は、合コンというシチュエーションに合っていました。最初は探り探りだったけど、撮影が終わるころには打ち解けて。個性豊かな方ばかりなので、1人ひとりのお芝居を感じることができたのも楽しかったです。なかでも印象深いのは、1話に出てくださった(空気階段の水川)かたまりさん。パッと短いせりふも面白くて、空気がガラッと変わるんです。

白石が演じるのは自己紹介が苦手で人見知りな主人公・香山花火。「合コン」というワンシチュエーションを舞台に、これまでの作品とは一味違うハートフルでコミカルな演技を披露している
白石が演じるのは自己紹介が苦手で人見知りな主人公・香山花火。「合コン」というワンシチュエーションを舞台に、これまでの作品とは一味違うハートフルでコミカルな演技を披露している

役柄を考えて細部まで工夫する

 花火の好きなところは「いっぱいある」と白石。合コンを通じて開花していく花火元来の良さを表現したいと、細部まで芝居を工夫した。

 私が演じる花火は自己紹介が苦手な子なのですが、私もそうなんです。オーディションだと決まった定型文がありますけど、例えば「趣味は何ですか?」と改めて聞かれた時に、うまく答えられなくって。自分と向き合うって難しいなと感じる機会が私自身も多いので、しっかり役を作るよりは「こういう悩みってあるよね」と、見る方に共感してもらいたいと思いました。ですから最初は、人の目を見られなかったり、変なところで急に声が大きくなったりと、花火のコミュニケーションのうまくいかなさを強めに演じていたんです。でも回を重ねて花火の個性が開花するなかで、「人の目を見られない」という要素を残していると、ストーリーが成立しなくなってきたんです。その分、好きなものをめちゃくちゃ語ったり、目を輝かせてみたりすることで、花火の変化が伝わればうれしいです。

 花火は自分のやりたいこと、好きだと思えるものを見つけたい思いが主軸にある人で、私はその真っすぐな考え方が好きです。逃げようと思えば逃げられる、なんとなくやり過ごして生活していくこともできるのに、それをせずにちゃんと自分と向き合っている。強い人だと思いますし、知れば知るほど面白いし、もっと知りたくなる人です。私は他の役でもそうなんですが「このキャラクターがコンプレックスに思っている部分って何だろう?」と考えることが多いんです。コンプレックスだと思っている部分が、見ている人にとっていとおしさになればいいなって。花火にも生きづらさみたいなところがありますけど、きっと共感しやすいキャラクターだと思うし、いとおしいと思ってもらえたらいいなと心がけて演じました。

1月放送の『大奥』「八代将軍吉宗・水野祐之進編」(NHK総合)では薬種問屋・田嶋屋の跡取り娘・お信を演じた
1月放送の『大奥』「八代将軍吉宗・水野祐之進編」(NHK総合)では薬種問屋・田嶋屋の跡取り娘・お信を演じた

 18年、大人気漫画を原作とするドラマ『I”s』のヒロイン・葦月伊織役に700人の中から抜てきされたことで注目を浴び、幅広い作品で経験を積んできた白石。近年は『胸が鳴るのは君のせい』、『しもべえ』などヒロインを務める機会も増え、主演作も少なくない。ステップアップの実感はまだないとしながらも、反響が自信につながっていると話す。

多くの反響が届いた『大奥』への出演

 主演でないときと主演のときと、私はあまり、気持ちとしては変わりません。今回も皆さんに本当に支えてもらったし、引っ張ってもらったなという印象の方が強いので……座長みたいなことは全くできてないです(笑)。だけど「ちょっと経験してみようかな」という気持ちで飛び込んだお芝居の世界で、こんなにもいろんな作品に出させていただいて、主演にもお声がけをいただいてという状況はすごくありがたく思っています。ただ、ここ数年間はコロナ禍でしたし、自分がどこにいるのか、女優としてステップアップしているのか、正直なところよく分わからないまま進んできているんです。それでも、まだ世には出ていない作品も控えていますし、それが皆さんのところに届いたときには実感すると思います。見ていただいて、感想をもらえると、やっぱり自信になりますから。

 最近ではいろんな現場で『大奥』の反響をいただきます。私も放送を見ているのですが、改めて「こんなにすごい作品に出られたんだ」と、ありがたい気持ちです。ファンの方がたくさんいらっしゃる作品の実写化をやらせていただくときは緊張しますが、監督がOKを出してくれたものに関してはもう、迷わない。「OKなんだからOKなんだ」と思って演じているので、撮影に入ってからは気負うことはなかった、放送前はちょっとドキドキしました。

 『I”s』も、原作が超人気の作品だったので、美少女であるヒロインの伊織ちゃんを演じることは本当に怖かったんです。だけど皆さんのもとに作品が届いたときに、「すごく良かった」と言ってもらえて、しっかり役と向き合って良かったなって思いました。初めて新人賞をいただいたドラマ『絶対正義』(19年)も、私にとって大きな作品。「ちゃんと見てくれてる人っているんだな」と実感できて、自信につながったんです。

本文中で触れた『I”s』『絶対正義』に加えてドラマ『だから私は推しました』(19年)も転機になった作品だと言う
本文中で触れた『I”s』『絶対正義』に加えてドラマ『だから私は推しました』(19年)も転機になった作品だと言う

 「ちょっと芝居を経験してみようかな」という気持ちが変化したのは、ある吹奏楽がテーマの作品のオーディションに受かったとき。役名もなかったのですが、同世代の方たちが撮影している姿を目の当たりにした経験は大きかったですね。初めてドラマの裏側を見て、こんなにたくさんの人が関わりながら1つの作品を作ってるんだなって思ったらすごく興味が湧いてきたんです。そして大学に進学しないと決めたときが、この世界で仕事をしていこうと覚悟が決まった瞬間でした。

 ヤンキーっぽい役だったり、花火みたいに引っ込み思案だったり、いろんな人間になれる役者という仕事は、すごく面白いです。私はもともと声のお仕事に興味があってこの世界に入ったのですが、声のお仕事は、性別や年齢の壁を乗り越えられるところがすごくすてきだと思うんです。だけど最近映画『さかなのこ』(22年)での、のんさんのお芝居を見て、「生身でやってのけちゃう人はやってのけちゃうんだ」と、衝撃を受けました。私も、性別や年齢に関係なく演じられる人になりたい。私が演じたからこそ「良かった」と言ってもらえるような、見ている人に唯一無二だと思ってもらえる表現ができる役者になりたいと思っています。

/

(写真/KOBA)

この記事をいいね!する