※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を再構成
男子高生2人の繊細な関係性を描いた連ドラ『美しい彼』で、萩原利久とともに主演を務め、鮮烈な印象を残した八木勇征。この話題作について聞いた前編に続き、その後の俳優としての仕事、そして所属するグループFANTASTICS from EXILE TRIBEの活動について話を聞く。
――2022年8月には、連ドラ出演2作目となる『ばかやろうのキス』が放送。初恋を忘れられない主人公・湊人(板垣瑞生)の目線の物語が地上波で放送され、ヒロイン・李里奈(出口夏希)の目線になる恋愛リアリティーショー『やり直したいファーストキス』も同時に制作・配信したユニークな試みの作品だった。八木は、恋愛リアリティーショーの出演者で、李里奈を含む6人の女性からアピールを受ける完璧男子の大学生・園宮蓮を演じた。
八木勇征氏(以下、八木) 面白いですよね、2つのコンテンツがクロスオーバーする構成っていうのが新鮮でした。最初、プロデューサーの鈴木努さんと、後藤庸介監督と3人で、蓮をどういうキャラクターにするかのディスカッションをさせていただいたんです。僕としては、恋敵役なので、ミステリアスな感じにしたくて。表向きは華やかでありながら、自分の素を出せない背景があるというような提案をしたら、「それいいね」と言ってもらえて、“演者ファースト”で考えてくれるスタッフさんたちでよかったなと思いました。
湊人たち男3人組と李里奈は18歳の高校生で、蓮は21歳で少し年が上なんですね。大人の階段を1つ上ってしまったから、がむしゃらになって何かに身を投じるようなことができない。だから、何も考えずに行動できる湊人たち3人に対して羨ましさがあって、そういった気持ちが伝わるような演技をしてほしいとは、後藤監督に言われていました。タイトルの「ばかやろう」は、最終話に出てきますが、「ばか“を”やろう」というダブルミーニングになっていて、メッセージ性が高いのも印象的でした。
恋愛リアリティーショーの『やり直したいファーストキス』も、こだわって作っていたんです。スタジオパートに、さらば青春の光の森田(哲矢)さんがいてくださったりして、いかにも本当にありそうじゃないですか(笑)。こちらでは蓮は主演で、持ち上げられる場面が多いんですが、そこを森田さんがいじってくださって。あのツッコミに僕のメンタルは助けられました(笑)。
演出の佐藤祐希さんと二人三脚で
――22年8月26日から上演された『脳内ポイズンベリー』で、舞台にも立った。主人公のいちこ(本仮屋ユイカ)の脳内にいる、脳内会議メンバーの議長・吉田役を演じた。
八木 楽曲がなくてお芝居だけで2時間、しかも出ずっぱりで大変でした。生のお芝居なので、自分が完成形だと思っていたものが、毎公演できるというわけではなくて。キャスト1人ひとりのコンディションなど、その日の状況で全然違ってくるんです。
初日はもう、僕はいっぱいいっぱいでした。でも3日目ぐらいから音がよく聞こえるようになってきて、物語がどんなふうに進んでいるか、立体的につかめるようになりました。セリフがちょっと詰まった人がいたとしても、キャストのみなさんがお互いにカバーし合うというのを当たり前にやっていて、それを肌で感じて、自分の経験値も積み上がっていったと思います。
映像と舞台とでは、表現も全く別物でした。舞台では大きく動いて、何をやっているのかが遠くの人にも伝わらないといけない。それは稽古の初日から、演出家の佐藤祐市さんにずっと言われていました。
演じた吉田は議長なので、判断力があって、冷静で…とイメージしていましたが、全然違ったんです。議長だけど頼りなくて、いろんなものに右往左往させられるけど、いちこのことを幸せにしたいと願っている、誰よりも一生懸命なキャラクターだということには、演じながら気付きました。「二人三脚で」と言いたくなるぐらい、佐藤さんにはビシビシ指導していただいて、終盤の大阪公演のときには「もう何1つ言うことがない」と言ってもらえました。
共演者で、稽古中に所作などのアドバイスをたくさんくださったのは、(石黒)賢さん。例えば、2回「うん、うん」って頷くのではなくて、ゆっくりでもいいから1回「うん」って言ったほうが説得力が出るよ、とか。あとは、難しい漢字の読み方も教えていただきました(笑)。
――所属事務所のLDHを代表するプロジェクト『HiGH&LOW』(以下、ハイロー)シリーズの最新作『HiGH&LOW THE WORST X』(22年9月9日公開)にも出演。事務所内オーディションを経て、「鈴蘭男子高校」の山口孫六を配役された。
八木 『ハイロー』シリーズは、ずっと出演したかったです。それこそ、FANTASTICS(以下、ファンタ)リーダーの(佐藤)大樹(たいき)君のチハル役を見てきましたし。今回、マンガ『クローズ』の「鈴蘭男子高校」の世界観に、キャラクターを通して入れたことが特にうれしくて。地元の男友達にマウントを取れるポイントというか。「“鈴蘭”で出ました」、みたいな(笑)。いつか実現したらいいなと思うのは、鈴蘭のスピンオフ。(川村)壱馬(かずま)さん演じる鬼邪(おや)高校の楓士雄(ふじお)の物語が中心にあるなかで、鈴蘭の登場も絵になってたと思うんですよね。スピンオフ、あったらなー。言うだけだったらタダだからいいですよね?(笑)。
ファンタのメンバーでは、(木村)慧人となっちゃん(堀夏喜)も初参加でした。孫六を演じるに当たっては、声が枯れるかと思うくらいドスを効かせて。映画を見た方から、「『美しい彼』の清居と同じ人だとは思わなかった」という感想をいただけたときは、最高にうれしかったです。
アクションの難しさを初めて実感
八木 アクションシーンはとにかく難しかったですね。普通にパンチしたんじゃ、どんなにスピードがあっても、すごいパンチに見えないんです。それが、カメラに向かって弧を描くようなストロークでやると、軌道も見えるし、振り抜いた向きで見え方が変わってくる。でもそれがちゃんと絵になるって、並大抵のことじゃなくて。最初に殺陣の流れをアクション部の方たちのデモンストレーションで見たとき、「コレ絶対できないわ」って思っちゃいました。
それでも必死に取り組んだら、楽しかったです。壱馬さんに上段蹴りするシーンでは、蹴りを1回止めてから押して、インパクトが伝わるようにしているんです。蹴った姿勢でキープしていたから、次の日信じられないくらいの筋肉痛になりました(笑)。
――グループ活動も充実。22年11月からツアーが始まり、最新シングルでは、ZOOからEXILEに受け継がれてきた『Choo Choo TRAIN』をカバーした。
八木 EXILEさんのライブでも、かかった瞬間に改めて会場が明るく一気に彩られるっていうのを見てきているので、僕らの名義でカバーさせてもらえたことは光栄でした。EXILEさんが「ファンタが『Choo Choo TRAIN』カバーするの、めっちゃいいね」みたいに反応してくださったというのを、世界さんと大樹君から教えてもらったときは、うれしかったです。「今のファンタがやるならこうだ」という音や色は、サウンドプロデュースの亀田誠治さんが構築してくれました。ポップであり、爽やかさもありながら、1歩大人になった雰囲気も感じてもらえると思います。
今ツアーで各都市を回っていますが(※取材は22年11月)、ツアーごとに違う表情を提示できるようになってきていると感じています。23年は5周年なので、1人ひとりがもっと力をつけて、集まったときに1番強い、あらゆるコンテンツに携われるグループになりたいです。
――23年は、現時点で『イチケイのカラス』『美しい彼』と、映画2作品の公開がすでに決まっている。この先の俳優活動に関しては、どのような意気込みでいるのか。
八木 最初に回った19年のホールツアーが、お芝居とライブをミックスしたスタイルで、そこで初めて演技に触れてから、俳優活動はずっとやってみたかったんです。22年は、いろんなキャラクターを生きることができました。この経験は、グループのライブでの表現にもプラスになってくると思います。
今後は、もっと役の幅を広げたいですね。黒い部分のある人物とか、クズ役とか。僕、そういう歪んだところに人間味を感じてしまうので、挑戦してみたいです。あとは、大河ドラマとか時代をさかのぼった作品にも出合えたら。チャンスをつかめるように、経験を積んで準備したいです。
(写真/橋本勝美 ヘアメイク/富樫明日香[CONTINUE])