※日経エンタテインメント! 2023年1月号の記事を再構成
透明感のある映像と世界観で、見る人を虜にした連ドラ『美しい彼』。本格的な俳優活動は初めてながら、萩原利久とダブル主演で、男子高生2人の繊細な関係性を描く本作で鮮烈な印象を残した八木勇征。FANTASTICSのボーカルとして存在感を示してきたが、2022年は『美しい彼』が改めて評価されると共に、俳優活動本格化の年に。念願だったという演技の仕事と、グループの今後について聞いた。
近年、若手男性俳優の層が厚く、ニューフェースも続々と登場するなか、彗星のごとく現れた八木勇征。FANTASTICS from EXILE TRIBEのボーカリストとして活躍する八木への注目度が急激に高まったのが、2021年の11月から放送されたMBS制作の連続ドラマ『美しい彼』だ。グループで出演した『マネキン・ナイト・フィーバー』(20年)などで、演技経験がないわけではなかったが、初めて個人でのドラマ出演となった同作品で、いきなり主人公の清居奏(きよい・そう)役に抜てき。清居にひそかに思いを寄せる平良一成(ひら・かずなり)役の萩原利久と共にダブル主演を務め、鮮烈な印象を残した。『美しい彼』は22年に入ってから改めて評価され、ギャラクシー賞の「マイベストTV賞」グランプリを獲得。八木は「ソウルドラマアワード2022」のアジアスター賞も受賞した。
8月には日本テレビで放送された連ドラ『ばかやろうのキス』と、連動して配信された『やり直したいファーストキス』に出演。8月から上演した『脳内ポイズンベリー』で舞台を経験し、9月公開の『HiGH&LOW THE WORST X』で映画初出演を果たすなど、22年は俳優として本格始動した年になった。23年は、出演映画『イチケイのカラス』が1月23日に封切られたほか、4月7日に劇場版『美しい彼~eternal~』の公開も決まっており、さらなる飛躍が期待される。
アーティスト活動だけでなく、俳優業にも打ち込んだこの1年は、どんな歩みになったのか。ドラマ『美しい彼』から振り返ってもらおう。
清居は“ヒロイン”だと気付いて
八木勇征氏(以下、八木) 『美しい彼』は、自分にとっては何もかもが新しい挑戦でした。本当によかったなと感じるのは、ダブル主演で(萩原)利久がいてくれたこと。小さい頃から演技に取り組んでいて、いろんな引き出しを持っている利久が相手役の平良を演じてくれたことで、彼のお芝居から自然と学べた部分がたくさんありました。
原作は凪良(なぎら)ゆう先生の今も続編でシリーズが続いている小説で、多くのファンの方々に愛されている作品なんですよね。このお話をマネジャーさんから聞いたときに、すぐに電子版を買って読みました。普段、僕はあまり小説を読むタイプではなくて、ボーイズラブのジャンルに触れるのも初めてだったんですが、すごく情景が浮かんできて、不思議な感覚になって。ストーリーに引き込まれて、凪良先生が作り上げる世界観を尊いと感じました。
清居は高校のスクールカーストのトップにいるクールなカリスマ。そういう設定なので、平良と親しくなっていく前は、どこか怖い印象のあるキャラクターだと思っていたんです。でも、酒井麻衣監督から、彼は“ヒロイン”だと指摘されて。自分に忠誠の目を向けてくる平良に対して、はっきり「キモイ」とか言う割には、たぶん「他の人に渡したくない」みたいな独占欲がある。違う言い方をすると、好きな人に対しては本当に一途だし、乙女というか。かわいらしくて人間味のあるキャラクターだということに途中で気付きました。
――映像としても、詩的で美しい描写が多かった。特に印象に残っているシーンは。
八木 1番は、最終話(第6話)の化学室ですね。ラストシーンということもあって、鮮明に覚えています。すれ違っていた思いをぶつけようと努力する清居がいて、それに対して受ける平良がいて。ようやく自分の本音を言った瞬間、僕としては「清居、頑張ったな」という感覚になりました。
居心地がよかったのは、平良と自転車で2人乗りしているシーンです。比較的長いセリフがあって、撮影の車と並走して撮ったんですが、お芝居をしてる感覚があまりなくて。自分が自分であることを忘れていたくらいに、ナチュラルに作中の2人になっていたと思います。
難しかったのは、言っていることと内心で思っていることの違いをどう表現するか。1話から3話は平良のモノローグで進む、平良サイドの視点なんです。4話から清居のモノローグ進行に変わるのですが、「平良から見るとこう映っていたけど、実は清居はこう思っていた」という点を、同じ場面でありながら、違いを出さないといけなくて、そこは難しかったです。
酒井監督には、感情を1番大事にしてお芝居をしてほしいと言われていました。ドラマって、ストーリーの時系列で順番に撮っていけるわけではないんですよね。だから、シーンの前後に何があって、その時間経過で清居の心情がどうなっているかを考えておく必要がある。気持ちの流れを自分のなかで想定しておけば演じやすいというのを、酒井監督に教えていただきました。
ギャップも人の心をつかんでいる
――取材時は、劇場版『美しい彼~eternal~』の撮影中だった。ドラマのときよりもコミュニケーションを取る時間が圧倒的に増えて、手応えも感じているという。
八木 酒井監督と利久と3人で過ごす時間が多くて、よく話し合えています。この撮影で利久と再会しましたが、なんかずっと一緒にいたような感覚。年は僕が25歳で、利久が23歳なんですが、年齢のことは全然意識せずにしゃべれるし、いい距離感なんですよね。アニメとかマンガ、サッカーもそうですが、お互いに共通の趣味もあったりして。「一緒にいて楽しい」みたいな気持ちは、作品にプラスに働いているかもしれません。
たくさんの反響をいただけているのは、僕自身にも届いていますし、素直にうれしいです。先日、韓国で「ソウルドラマアワード」の授賞式に登壇させていただいたときも、たくさんの方々が迎え入れてくれて、ものすごい熱量を感じました。
この作品って、パッと見ではたぶん、清居が主導権を握っていて、平良が受け身じゃないですか。でも実はそれが逆っていうギャップが、人の心をつかんでいるのだと思います。あとは、美しさのなかに淡くあるポップな色合いだとか、ちょっとコミカルに映るときがある感情の描写も魅力。今度の映画もより『美しい彼』の世界観に浸れるものになると思います。
インタビュー後編では連ドラ出演2作目の『ばかやろうのキス』、初舞台となった『脳内ポイズンベリー』、念願の出演がかなった映画『HiGH&LOW THE WORST X』、そして所属するグループFANTASTICS from EXILE TRIBEの活動について話を聞く。
(写真/橋本勝美 ヘアメイク/富樫明日香[CONTINUE])