木村拓哉が織田信長を、綾瀬はるかが信長の正室・濃姫(のうひめ)を演じる映画『レジェンド&バタフライ』(1月27日公開)。東映創立70周年記念作品で、脚本はNHK大河『どうする家康』の古沢良太。そして監督は、『るろうに剣心』シリーズを大ヒットに導いた大友啓史。大友は、木村とどのような話をし、この大作を撮っていったのか。

 16歳の“尾張の大うつけ”織田信長と、ひそかにその暗殺を狙う15歳・濃姫が政略結婚をする。“水と油”のような2人だったが、やがて強い絆で結ばれた“夫婦”に。そして念願の天下統一が近づいたとき、悲劇が迫る…。

 木村拓哉が織田信長を、綾瀬はるかが濃姫を演じる『レジェンド&バタフライ』(1月27日公開)。NHK大河ドラマ『どうする家康』や『コンフィデンスマンJP』シリーズで知られる古沢良太が手掛けた、東映創立70周年記念作品だ。

 監督を託されたのは、大河ドラマ『龍馬伝』や『るろうに剣心』シリーズを大ヒットに導いてきた鬼才・大友啓史。映像化のこだわりや木村とのコラボレーションの感想などを聞いた特別インタビューをお届けする。

大友啓史氏(おおとも・けいし)
1966年生まれ、岩手県出身。90年にNHK入局。97年より2年間米ロサンゼルスに留学し、脚本や演出を学ぶ。帰国後、『ハゲタカ』『白洲次郎』『龍馬伝』などを演出。2011年にNHKを退局し、12年より『るろうに剣心』シリーズの監督を務めた。その他の映画に『プラチナデータ』(13年)、『3月のライオン 前編/後編』(17年)、『億男』(18年)、『影裏』(20年)など 写真/興梠真穂

濃姫の視点を意識した信長の物語に

――『レジェンド&バタフライ』のオファーを受けたときの感想は?

大友啓史監督(以下、大友) 木村さんと綾瀬さん、脚本は古沢さんだと聞いて、間違いなく面白い作品が作れると思いました。何よりも東映プロデュースチームの情熱がすごかった。久しく大型時代劇映画を作っていない東映京都撮影所で撮ってほしい。『龍馬伝』で大河ドラマを変え、『るろうに剣心』で邦画のアクションを刷新したように、70周年の未来を見据えた、令和の新しい時代劇を作ってくださいと口説かれ、ぜひやりたいと思いましたね。

――脚本開発では、古沢氏やプロデュース陣とどのような話をされましたか。

大友 信長の物語は多くの作品で描かれているので、濃姫をどう膨らませるかがポイント。今の時代を反映させた女性像、濃姫からの視点を意識した信長の物語を作りたいですね、と話しました。そうしたら1カ月後には脚本が届いて。もちろん肉付けは必要ですが、「すぐ撮れる」と思えた脚本は、30年のキャリアで初めてでした。

――今回、大友監督が“肉付け”した部分とは?

大友 これは長屋の夫婦の話ではなく、一国の主となる信長と濃姫の物語ですから、2人が背負っているものを、より分厚くしましたね。感情的なドラマはもちろんですが、例えば「城」の変遷とか。平地に裸木で打ち立てた那古野城、石垣を積んで建てた清洲城、中国の影響を受けていたという説のある岐阜城、そして信長が冷酷な魔王になって“氷の城”になっていく安土城。時代考証を重ねながら、それぞれの個性をオープンセットなどで再現しています。またそれに伴い、付き従う家臣の数や衣装の豪華さなどもグレードアップしています。

奇跡的タイミングで撮れた南蛮船

 クランクインは、2021年9月。京都を中心に、山形、三重、滋賀など全国30カ所以上を巡り、邦画では異例の約4カ月にわたる長期撮影を行った。

――今回の撮影で、最もチャレンジだったことは?

大友 チャレンジというよりも、僕がこれまでのキャリアで得てきたものを、全て注ぎ込んだという感じですね。特に意識したのは、大画面で見てもらう、映画ならではの快楽を追求すること。例えば、新型コロナウイルス禍に伴い最近はグリーンバックやLEDパネルを背景にスタジオ撮影する作品が増えていますが、こういうご時世だからこそロケ地に行って、スタッフみんなで何かを感じながら撮ることの大切さをますます痛感しています。今は何千という軍勢や壮大な風景もCGで作れる時代ですが、エキストラ含め、多数の人間がうごめく中でのリアルな撮影は、作品の熱量に反映します。きちんとその場に行って役者を撮るという、オーソドックスな撮影手法に今回は特にこだわりましたね。

――編集段階でのこだわりは?

大友 例えば、「グレーティング」という映像のトーンを整えていく作業に、いつもの4~5倍くらいの時間をかけています。音響や音楽も、細部までこだわり抜いていますね。それらもやはり、劇場で見てもらう、映画の快楽を追求してのことです。

――今回、そこまで“映画的”に力を注ぐことになったきっかけは?

大友 21年の『るろうに剣心 最終章 The Final』の公開直後に緊急事態宣言が発令されて、大都市で映画館が閉鎖、悔しい思いをしました。その一方で台頭してきたのが、動画配信サービスです。このままでは映画が配信にやられてしまうんじゃないかと思っていたときに頂いたのがこの映画のオファー。「みんなが配信に向かうから、僕は映画の原点、京都に向かいます」という思いを自分の中のキャッチコピーにして現場に入ったんです。

――京都を中心に撮影して良かったと思う点は?

大友 軽はずみに良かったと言うことはできませんが、撮影の時期はコロナ禍で観光客が少なく、だからこそ普段は絶対に許可が下りない国宝級の古寺名刹で許可が下りたと、制作担当のスタッフから聞きました。いずれにしても、そういう素晴らしいロケーションが撮影所から30分圏内にあるっていうことは、京都での撮影の大きなメリットですよね。

――後半に出てくる南蛮船はセットですか。

大友 南蛮船は現存しないので、セットで作るしかない。大変だなと思っていたときに、慶長遣欧使節を乗せた「サン・ファン・バウティスタ号」の復元船が宮城県にあることを知って。見に行くと、東日本大震災の津波被害に遭って、もうすぐ解体してしまうということだったんです。それで「ちょっと待って!」と(笑)。解体をひと月待ってもらって撮ることができました。だから撮影は、クランクイン間もない頃。木村さんも綾瀬さんも、まだほとんど何も演じていないタイミングだったので、大変だったと思います。

木村拓哉と創り上げた信長像と「眼福」

 これまで福山雅治(『龍馬伝』)、佐藤健(『るろうに剣心』)、小栗旬(『ミュージアム』)らトップ俳優たちを主演に迎えてきた大友監督。長年トップ・オブ・トップであり続ける木村拓哉とのタッグについて、どのように感じたのか。また、総製作費20億円を投じて完成させた本作の見どころとは。

――今回、木村さんと向き合って感じた魅力や力は?

大友 木村さんは、現場に入って、よりイメージが湧いてくる人ですね。例えば「(信長が好きだった)金平糖が、あのシーンにつながると面白いですよね」というように、どんどんアイデアが出てきますから。彼の信長を見て、新しい信長像ができそうだと感じた瞬間も多々ありました。

 撮影前に織田家の菩提寺を訪ね、『雪月花』と書かれた信長直筆と伝わる書を見たんですね。信長には冷酷なイメージがありますが、その書を見て、「最初から鋭利だったわけではなく、刃を磨くことを意識的にコントロールして、時間をかけて自分を鍛え上げた人」という印象を持ちました。それは僕にとって、俳優・木村拓哉のイメージや分厚さと重なります。本能寺のシーンも、様々なアイデア交換をしながら創り上げています。新しい信長像を共につくれたのではないかと自負していますね。

――木村さんは1998年のスペシャルドラマ『織田信長 天下を取ったバカ』(TBS系)に主演して、また信長を演じたいと思っていたとのこと。ほかにも信長を描いた映画やドラマは多いですが、『レジェンド&バタフライ』の見どころは?

大友 今回、構造として面白いのは、男の夢を女が支えるという前時代的な話ではなく、女の夢を男が代わりに実現する物語になっていること。気が強くて賢く、父親(戦国大名・斉藤道三)との夢でもあったので、もし濃(姫)が男だったら、天下を取っていたかもしれない。その夢を信長に託して、同じ時間を過ごし、同じ景色を見ていくなかで、濃は女性になり、今まで抱いたことのない感情を発見していく。信長も同様です。そして2人は真のパートナーとなり、最後にその愛が本物であったと知るわけです。つまり、戦国という動乱の時代を背景にしたラブストーリーであり、と同時に古典的なメロドラマとも言えるかと。他にもいろいろな要素が絡まり合い、とても見やすい歴史ドラマになっていると思います。

――大友監督ならではの映像美やアクションシーンも見どころです。完成した映画の手応えは、どのように感じていますか。

大友 関係者は「想像をはるかに超えてきた」と言ってくれていて、木村さんも、いつも以上に(プロモーションに対して)スイッチが入っていると聞きます。木村さん、綾瀬さんをはじめ、俳優たち、スタッフともに最高のパフォーマンスを見せてくれていますので、ぜひ劇場の大スクリーンで映画の快楽、“眼福”を味わっていただければと思います。

■作品紹介■レジェンド&バタフライ
織田信長の濃姫との結婚から2人の激動の33年間を描く、2時間48分の大作。木村拓哉が “大うつけ”から“天下人”となっていく信長を熱演。綾瀬はるかが、信長を支える正室に成長する濃姫にふんする。そのほか濃姫の侍女・各務野を中谷美紀、侍従・福富平太郎貞家を伊藤英明、明智光秀を宮沢氷魚、森蘭丸を市川染五郎、徳川家康を斎藤工が演じる。総製作費20億円という巨費を投じた東映は、「『男たちの大和/YAMATO』(05年)の興収50億円を超えたい」と意気込む。(1月27日公開/東映配給)
(C)2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会
6
この記事をいいね!する