公開中の映画『イチケイのカラス』で主演を務める竹野内豊のロングインタビュー後編。『イチケイのカラス』がもたらしたものと、この作品が皮切りとなる2023年の自身の活動、そして「ずっと続けていく」と言う“役者への思い”を語った。(全2回の後編です/前編はコチラ)
――『イチケイのカラス』で竹野内が演じたのは、型破りな裁判官・入間みちお。不敵な笑みで伝家の宝刀“職権発動”を駆使し、正しい判決を下す新しいキャラクターが人気を呼び、2022年7月号の『日経エンタテインメント!』タレントパワーランキング男優部門のTOP10にも名を連ねた。
竹野内 豊氏(以下、竹野内) 読者の方からの票なんですね、ありがとうございます。そうやってみなさんに支えていただいたおかげで実現した、まさかの映画での続編ですから。1人でも多くの方に楽しんでいただけたらいいなと思いますね。
主演は「本当に感謝すべきこと」
竹野内 役者をしていくなかで弁護士役が回ってくるチャンスはあっても、裁判官役というのはなかなかないと思うんですよ。もしかするとこれが最初で最後の可能性も十分考えられますから、たとえあまりリアリティーのない裁判官であったとしても、こうして演じたことのない役柄を演じる機会を与えてもらえたことは、いち表現者として、とても光栄なことだと思っています。
多くのスタッフや共演者の皆様にサポートしていただきながらも、主演としてこの作品に携わらせていただけることは感謝しかありません。自分はあまり器用な人間ではないので、現場では自分のやるべきことだけに集中してしまいがちなのですが、微力ながら、作品の骨格の一部になれるように一作一作丁寧な気持ちで取り組んでいけるよう尽力しました。
あとはこの映画をご覧になってくださった方々が法曹界に興味を持っていただき、「実は『イチケイのカラス』を見てこの世界に入りました」と言ってくれるような…そういう人といつの日か出会えたら、それは何よりもうれしいですよね。
「ずっと死ぬまで役者を続けていく」
――23年は他に映画『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』『唄う六人の女』といった、『イチケイのカラス』とはまた全くタイプの異なる作品の公開が控える。今後の活動は、どのように考えているのか。
竹野内 これからずっと死ぬまで役者を続けていくであろうとは思っていますけど、人生は何があるか分からないですからね。今のところは考えてはいないですが、もしかしたら急に何かに目覚めて監督業を始めるかもしれないですし(笑)。
若い頃のように全力疾走というよりは、自分なりのペースを維持して、様々なことにも挑戦しつつ、続けていけたらという気持ちはありますけどね。こういうことを言うと若い人たちから「もうおっさんはいいよ」って言われてしまうかもしれないですが(笑)、なんて言うんでしょうか…そういう若いエネルギーを持つ子たちの中にこそ、自分も加わっていけたらいいなと。
30代や40代の頃は、そういった若者たちからの“あおり風”に対してプレッシャーを感じていた部分もあったんです。でも最近はそれはどうかな? と思うようにもなりまして。逆にあおり風に学ばせてもらいながらも、今までのようなストイックさというよりは、もう少しそれこそを「楽しむ」ということをしていきたいなと思います。とはいえ…やはりなかなか楽しむだけというのは、どんな職業においても難しいものではありますけどね。
「おそらく満足することはない」
竹野内 昨日とある撮影現場で、大先輩の役者にたまたまバッタリお会いしまして。「いくつになった?」と聞かれたので答えたら「50代か。今が1番いい時だから。何でもやっていったほうがいいよ」とお言葉をいただいたんです。
50代になると多少は人生のスパンというものが何となく見えてきたなと感じますし、それなりにこの世を卒業して逝く方々の場にも直面してきたわけで。そうしたなかで思ったのは、「人間はおそらく満足してこの世を卒業して逝くってことはないだろうな」ということ。きっと誰しもが少なからず「もっとあんなこともやっておきたかった」という思いを抱えるんだろうなと。
『イチケイのカラス』の坂間千鶴みたいに、人はきっとうまくいっているときよりも、もがいて苦しむ瞬間を生きているほうが多い。自分だってこれまでを振り返ってみると、やっぱりいい瞬間よりも「良くなかった」「自分が思っていたよりもできなかった」そんな風に、理想の自分には到達できなかったと感じる瞬間のほうが多いですから。
しかし多分、人生はそうじゃないとつまらない。そういうことを繰り返すことで心の成長をしていくのだろうし、目に映らなくても自分の財産になっていくとも思います。だから私も反省をすることはあっても悔いは残さず、大先輩に言っていただいた通り、ずっと何に対しても挑戦していく気持ちで、常に願望を持ち続けていこうと思っています。
22年で言うと、『イチケイのカラス』とは別に、また少しこれまでとは違う役どころにもチャレンジしてみました。台本を読んだだけではとてもじゃないけど想像できないような世界観が、全て監督の頭の中にだけあったので、まだ出来上がった映像を見られていないので分からないですけど、完成形を見るのが今から楽しみです。
それと、最近は少しコメディー調の役柄のオファーばかりが続いておりまして(笑)。もちろんとても光栄なことではありますけど、やはり役者としては自分でもまだ出したことのないような役柄にもチャレンジしていきたいなっていう気持ちがありますね。この先もやりたいと思ったこと、やったことのないものに、どんどん挑戦していきたいです。
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写真/興梠真穂 スタイリスト/下田梨来 ヘアメイク/CHIE(HMC Inc.)