竹野内豊の新たな代表作の1つとなったフジテレビ“月9”枠のヒットドラマ『イチケイのカラス』が劇場版に。自身初の連ドラからの映画化で意気込む竹野内に、「日経エンタテインメント!」ウェブが単独取材。映画『イチケイのカラス』から2023年への抱負まで、竹野内が勢力的に動く理由を語った。(全2回の前編です/後編はコチラ)
――竹野内豊の2020年代の新たな代表作となった連続ドラマ『イチケイのカラス』。その完全新作となるのが、映画『イチケイのカラス』(23年1月13日公開)だ。21年4月期、フジテレビ“月9”枠で放送。竹野内ふんする型破りで自由奔放なクセ者裁判官の入間みちおが、正義感の強い新人裁判官の坂間千鶴(黒木華)ら東京地方裁判所第3支部第1刑事部(通称イチケイ)のメンバーとともに事件の真実を追究。平均12.6%と高視聴率を記録した(ビデオリサーチ関東調べ)。1994年にデビューし、数多くの出演作を持つ竹野内だが、意外にも自身の主演ドラマが映画化されるのは初めてだと言う。今作は竹野内にとって、どのような作品になっているのか。
竹野内 豊氏(以下、竹野内) ドラマ中はコロナ禍の真っ最中ということもあって、世の中がこの作品をどのように評価してくれていたのかは全く分からなかったんです。けれど全ての撮影が終了してしばらくたった頃、プライベートで多くの方から「毎週見ていました」と言っていただいたり、「すごく面白かったです。続編はないんですか?」などと聞かれることもありました。そういった反響がいつも以上に多くて、驚いたのと同時に、そこで初めて多くの方々が『イチケイのカラス』を本当に楽しんで見てくださっていたんだなと実感できましたね。
それでも、まさか映画化されるとは考えもしませんでしたので、ドラマを応援してくださった方々には本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
映画はテレビドラマの2年後が舞台
――映画の舞台は、入間みちおがイチケイを去ってから2年後の岡山。くしくも岡山は、かつてのイチケイメンバーで今は弁護士として活動する坂間の勤務地でもあった。裁判官と弁護士という立場で再会した2人は、町を支える地元企業のある疑惑を探る中で防衛大臣も絡む大きな疑惑にぶち当たり…。
竹野内 斎藤工さんや向井理さん、宮藤官九郎さん、吉田羊さんなど、今ここで全ての方の名前を挙げることができないほど豪華な方々が新キャストとして出てくださっています。それぞれのキャストも1人ひとりしっかりと描かれ、交差していく、とても深い内容になっていますので、ぜひ楽しみにしていてください。
みちおと千鶴を世の中が求めている
――最初にプロデューサーから「裁判官目線の作品をつくる」と聞いたときには、「正直、不安な気持ちがあったんです」と明かす。
竹野内 当初はどうして今の混沌とした時代に、あえてこういう題材をドラマ化するのか、少々不安でしたね。けれど、いざ撮影が始まってみると、少しずつ、その理由が見えてきた気がします。
その1点として、誰もが一度は想像する法廷劇のイメージとは離れ、入間みちおと坂間千鶴、この2人のキャラクターを上手に色付けすることによって、本当に幅広い人々にエンタテインメントとして楽しんでいただけるものになったと思います。
なおかつご覧になられている視聴者の方々それぞれが自然と自分の人生にも重ねることで、考えさせられる内容にもなっているというか。真実を追究しようとすれば、必ずリスクが伴う。そこにあえて果敢に立ち向かう入間みちおと坂間千鶴のような存在を、社会がすごく求めている時代でもあったのかもしれません。結果的に、スタッフの方々がこの『イチケイのカラス』を世に送り出したかった理由として腑(ふ)に落ちました。
――“入間みちお”という人物の作り方にも、かなりこだわった。
竹野内 実際に裁判官の方とお会いしたこともなかったので、最初は「裁判官」というと堅実的なイメージしかなかったものですから、自由奔放すぎる入間みちおを現職の法曹界の方々はどう思うのか。フィクションとはいえ、厳粛な法廷劇ですからね。役作りを模索する中、どこかで少しブレーキをかけていたところがあります。ですがある時、法廷シーンを監修してくださっていた元裁判官の先生が「できることなら、みちおみたいなことを僕もやってみたかった」と話してくださって。その正直なお言葉を聞けていなかったら、多分リミッターを外し切れなかった気がします。
撮影中、先生には他にも「裁判中に肘を付いてもいいものなんですか?」など、不意に疑問を感じたことを色々質問していました。その都度、アドバイスをしてくださったのですが、話を伺っているときの先生の瞳の奥には、長年、数々の事件を見てこられたせいか、全てを見透かされているかのような深みを感じるものがあって、そういう部分も演じるうえで少し参考にさせていただききました。
――また入間みちおを作るうえで欠かせなかった人物が、もう1人。
竹野内 みちおを自由奔放に演じながらも、自分自身は少しブレーキをかけていたんですけど、田中亮監督がたびたび私の新たな扉を開こうとしていた印象があって、様々なシーンで随所にユーモアのあるアイデアを提示してくださいました。それがみちお像を構築していくなかで1つのヒントとなり、風変わりなみちおが出来上がったんだと思います。田中監督でなければ、みちおはこうはなっていなかった気がしますよ。
みちおが周りに見せている楽観的でおちゃめな部分と、誰よりも冷静に俯瞰(ふかん)から物事を見ている部分。その二面性をシーンごとにうまく差をつけられたらいいなと思っていました。
みちおと自分が重なるところは、どうだろうな。役者は自分に全く持っていないものはきっと消化できないとは思います。特に、「なぜ? どうして?」というみちおの疑問を持つと曲げられない部分は、共感できるところがありますね。時には誤解を受けやすいけれど、周りに迷惑さえかけなければ、自分が一番納得のいくまでは突き進みたいと思っています。
後編(竹野内豊『イチケイ』で得たものと「役者への思い」)では、『イチケイのカラス』から広がった視野や、役者業への考え、23年の抱負などを聞いていく。
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写真/興梠真穂 スタイリスト/下田梨来 ヘアメイク/CHIE(HMC Inc.)