※日経エンタテインメント! 2022年8月号の記事を再構成
TBS系火曜枠のドラマ『ユニコーンに乗って』に出演している杉野遥亮。前編では木村拓哉と共演した『教場II』や、初めての舞台となった『夜への長い旅路』などで学んだことについて聞いたが、インタビュー後編では出演作だけでなく、同世代俳優についてや、30代に向けての思いなども聞いた。
――2021年10月から放送されたのが『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』だ。弱視のヒロイン(杉咲花)に恋するピュアなヤンキー・黒川森生(くろかわ・もりお)役を好演し、「かわいいが半端ない」「杉野くんにハマった」などSNSで大盛り上がり。人気を爆発させた。
もともと原作マンガが好きだったので、お話をいただいたときは、めちゃくちゃうれしかったです。舞台(『夜への長い旅路』。前編参照)が終わってすぐの作品だったので、学んだことを絶対にアウトプットしたいっていう気持ちもありました。
森生役については、そんなに自分の内面とかけ離れてるとは思ってなくて。「傷ついてるな」とか「繊細だな」とか思いながら、自分に似た部分を投影して演じていたところがあるかもしれない。
GP帯(※ゴールデン・プライム帯。19時~23時)のドラマにこれだけ登場シーンの多い役で出たことはなかったので、初めて見る景色や感じるものはありました。どうしてもテレビドラマって、視聴率みたいな結果を求められる。これまでは考えたことがなかったんですけど、自分の中でそこと戦ったりしました。もちろん結果は欲しいけど、いいものを作りたいとか、エンタテインメントを届けて何かを感じてもらいたいとか、そういう真ん中の部分を忘れちゃいけないよなって。この経験から、今の自分がさらに確立された感じがあります。
――今年は、1月期『妻、小学生になる。』に、同じ事務所の萩原利久の代役で登板。実はこの期間、仕事を入れてなかったという。
ここまでまとまった休みがなかったので、ちゃんと休みたかったのが1つ。あとは、役や作品でときめくものを見つめるということを、ここで慎重にやっていかないと、自分を見失うなと思ったのもあります。
そんなとき、(萩原)利久君が体調を崩してしまって、登場シーン撮影の2、3日前に急遽、『妻、小学生になる。』のお話をいただいたんです。台本を読むと、お話がとっても好きだったし、偶然スケジュールも空いている。これも素敵なご縁だなと思ってやることにしました。このとき、堤(真一)さんを間近で見られたのも財産です。
デビューしてからの試行錯誤
――8月19日には、橋本環奈と共演した映画『バイオレンスアクション』が公開され、来年は、NHK大河ドラマ『どうする家康』にも出演が決まった。順調にキャリアを重ねているが、停滞期間を感じたことはあるのか。
順調とか停滞っていうのは、あまり分からないです。停滞というとずっと同じ道を進んでいるみたいだけど、いろいろ模索してきたから。
本当に芸能界のことを何も知らない状態で俳優業を始めて、でもありがたいことに、少女マンガ原作や恋愛作品がどんどん決まって。ただ、そこで自分が何を求められていたかというと、どちらかというとルックスの部分だったと思います。それが分かってからは、セリフを覚えて、求められるものを現場で出せばいいんだな、なんて思って。だから演技より、人と現場で話すのが楽しいっていうスタンスだったんです。それはそれで楽しかったけれど、どこか、心がここにない状態ではあったなと思います。
転機になったのは、連ドラで初主演した『スカム』です。この作品で、みんなで同じ方向を向いてもの作りをする楽しさを知って、「もっと真剣に取り組みたい」という気持ちが強くなりました。そんなときに、コロナ禍になって。自分と向き合う時間が増えたことで、リセットされた感覚があります。さらに『教場II』で流れが変わって、『夜への長い旅路』で、演技をすること、追求することが楽しいと感じられた。
だから、どんな作品に入っても、そのときに得た感覚のままでいたいっていうのが、今のこだわりなんです。どんなときも真面目に取り組むのが自分に合っているなと思うし、やるからには100%でやりたい。結果、(現在放送中の)『ユニコーンに乗って』(TBS系)でちゃんと楽しいと思えているから、「良かった。この道、間違ってないな」と思っているところです。
――同じ95年生まれには、志尊淳、小関裕太らがおり、1つ上に中島健人や山崎賢人、1つ下に横浜流星、新田真剣佑らがいる。層が厚い今、意識する存在はいるのか。また、何を大事に30代に向かいたいのだろうか。
同業者というと、有名かどうかとか、「売れている」「売れていない」っていうのが気になった時期はあります。でも今は「この人の演技素敵だな」とか、「負けたくない」っていう方向にシフトしているんです。それで言うと、『バイオレンスアクション』で共演した鈴鹿央士君(22歳)の演技が好きです。あとは、(眞栄田)郷敦君(22歳)。『教場II』で、役への姿勢とか、向き合い方がいいなと思って。郷敦君って、レアキャラな感じがするじゃないですか。自分をちゃんと持っていて、丁寧に作品を選んでいる感じがいいな、なんて思います。あと、磯村勇斗君(29歳)は昔から共演してきたから、ちょっと意識しているところはあるかも。
30代に向けても、根本は変わらないです。自分の気持ちを大事にする、嘘をつかない。難しいこともあるけど、作品や役に愛を持つとか、本質から逸れないようにしたいなとは思っています。あと、ものを作る上でだったり、人としての在り方で、大事なことをちゃんと知っている大人になりたいです。大事なことっていうのは…やっぱり気持ちかな。自分を大切に、正直に生きること。そういうことを、後輩にも伝えていける先輩になっていきたいです。
(写真/藤本和史、スタイリスト/カワサキ タカフミ、ヘアメイク/AZUMA(M-rep by MONDO artist-group))