※日経エンタテインメント! 2022年8月号の記事を再構成

現在、青春&恋愛系に定評のあるTBS系火曜枠のドラマ『ユニコーンに乗って』に出演している杉野遥亮。勢いに乗る26歳に、出演中のドラマ、そして転機となった作品や演技への姿勢について聞く。

――2014年~19年頃まで少女マンガ原作が隆盛を極め、18年頃からは深夜ドラマや配信作品が急増。そんな時流に乗って駆け上がった26歳が、杉野遥亮だ。

 デビューのきっかけは、15年の「第12回FINEBOYS専属モデルオーディション」でのグランプリ獲得。16年の連続ドラマ『地味にスゴイ! 校閲ガール・河野悦子』でドラマデビューし、映画『キセキ ‐あの日のソビト‐』(17年)にメインキャストで出演すると、185センチの高身長と“塩顔”のルックスで注目を浴び、配信ドラマ『花にけだもの』(17年、19年)や映画『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』(19年)などでヒロインの相手役に起用された。そして、19年の深夜ドラマ『スカム』で連ドラ初主演。21年には、『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』でGP帯(※ゴールデン・プライム帯。19時~23時)連ドラの相手役を託された。

 新作は、7月5日スタートのTBS系火曜ドラマ『ユニコーンに乗って』。主人公の成川佐奈(永野芽郁)が立ち上げたスタートアップ企業に、おじさんサラリーマン・小鳥智志(西島秀俊)が転職して始まる大人の青春物語だ。杉野は、佐奈に思いを寄せてきた共同創設者・須崎功を演じる。

ユニコーンに乗って
教育系アプリを手掛ける「ドリームポニー」のCEO・成川佐奈(永野芽郁)は、会社を成長させるための新機軸を打ち出せず苦しんでいた。そんな佐奈を心配した共同創設者の須崎功(杉野遥亮)は、即戦力の人材採用を提案。そこに、地方銀行に約26年勤務していた小鳥智志(西島秀俊)が応募してくる。『ナイト・ドクター』の大北はるかのオリジナル脚本。坂東龍汰、前原滉、石川恋、青山テルマ、広末涼子らが共演。7月5日スタート/火曜22時/TBS系

現場では1人でいる時間をなるべく作ろうと

 脚本を読むと、スタートアップ企業のことが生き生きと具体的に書かれていて、そこで巻き起こる人間関係にもしっかりフォーカスしている。面白い作品になりそうで、参加できることがとても楽しみでした。

 須崎については、端的に言うと、優しい人だなと。その優しさは、どこから生まれてきているのか。バックボーンを掘っていくことで、リアルなものにしていきたいと思っています。

 役作りは、具体的なことはあまりしてないんですけど、一度、スタートアップ企業の方にみんなで取材して、話を聞きました。それによって、例えばセットに入ったときに、「ここでこういうことがあったんじゃないか」とか想像する材料になっています。

 撮影開始から1カ月くらいたちましたが、それぞれがハマリ役な感じがして、なかなかここまでしっくりくることってないんじゃないかなと思うくらい。ただ、あまり現場の雰囲気がどうとか、感じる余裕はないです。今は、役をつかむというか、自分の演技をするのに必死なところがあって。現場でプライベートな話とかすると、プチッとスイッチが切れちゃうので、1人でいる時間をなるべく作るようにしています。

 どんな作品にしたいか、ですか? 自分はそんなこと考えないです。それは、監督やプロデューサーが考えること。ただ、世の中に届けるにあたって、「ちゃんと見ていただけるものにしなきゃ」「良い作品を届けなきゃ」っていう使命感はあります。でも結局それって、自分がどう演技をするかっていうこと。100%の力をどれだけ出せるかなので、今何がやりにくくて、どうしたら演技を楽しめるのか。その都度、1つひとつ掘り下げていくようにしています。

 これまで1話を撮ってきて、作品自体、純粋に面白いです。人間としての在り方を提示している場面もありますし、働くということや、ぶち当たる壁だったり、もちろん恋の部分も描かれていきます。世代とか関係なく楽しめますし、いろんな大事なことが詰まっている作品になりそうです。

気付きになった『教場II』と初舞台

――早口で率直に話す姿は、舞台挨拶などで見せる天然キャラとは異なる。「駆け出しの頃は、現場で人と話すことが楽しみだった」と話す杉野。「演じること」と求道的に向き合うようになったのは、コロナ禍以降で、特に21年の作品が大きいという。

 21年は、正月に放送された木村拓哉主演のフジテレビSPドラマ『教場II』に出演。警察学校の生徒役で、眞栄田郷敦、目黒蓮、戸塚純貴らと共演した。直後に、テレビ東京の深夜ドラマ『直ちゃんは小学三年生』と『東京怪奇酒』に連続主演。『直ちゃん~』では渡邊圭祐、前原滉、竹原ピストルと共に小学生にふんし、『東京怪奇酒』では心霊スポットで酒を飲む本人役を演じた。

 『教場II』で、木村拓哉さんの背中を見られたことは大きかったです。訓練のときに初めていらっしゃったんですけど、「うわ、この人、こんなに輝いてるんだ」って、びっくりしたんです。すごいと思ったのは、現場での居方やたたずまい、人に対して伝えることと伝え方と…あと、ちゃんと人の本質を見てるんだなって。それって、いろんな経験をして自分を持っていないと、なかなかできることではない。「光り続けている人って、こうなんだ」と学びました。

 『直ちゃん~』は、みんなが同じ方向を向いて、楽しんで作れた感覚がある作品。設定上、ランドセルに半ズボンなので、笑いを我慢するのが大変でした。『直ちゃん~』の話をいただいた後に、「一緒にやってください」と言われたのが『東京怪奇酒』で。僕、めっちゃやりたくなかった(笑)。だってホラー苦手だし、しかも心霊スポットでお酒を飲むと聞いて、「そんなのありかよ!」って。セリフがあるのに本人役っていうのもネックでした。やりたい作品とやりたくない作品、こんなに両極端なものが一緒に来たので、大人にだまされた気分でした。このときに得たのは、我慢と忍耐力(笑)。あと、1日に台本30ページ分撮影したっていうのは、自信になりました。

――そして6月に挑んだのが、初舞台『夜への長い旅路』だ。劇作家ユージン・オニールの自伝劇を、イギリス人のフィリップ・ブリーンが演出。大竹しのぶ、大倉忠義、池田成志と、鬱屈を抱える家族を演じた。

 直前まで、配信ドラマの『僕の姉ちゃん』(21年9月に配信。22年7月28日からはテレビ東京で地上波放送)と、映画『やがて海へと届く』(22年4月公開)の撮影をやっていたので、台本もほとんど読み込めていない状態で稽古に入ったんです。だからそこからはもう、必至に食らいついていく毎日。初舞台なうえ、海外からリモートで演出を受けるという難しい状況でしたし、幕が開いてからも、拍手を受けてうれしかったとか、そんな感覚は全然ない。家族みんな悩みを抱えている状態が3時間半続く演劇だから、毎日暗い気分で劇場に入って、今となってはどうやってセリフ言っていたんだろうって不思議なくらい。

 ただ、しんどい一方で、3時間半、自分に戻らず、ずっと他人として生きていられるのは心地良くもあったんです。長期間役に向き合って追求する先で、見たことのない自分と出会えたりするのも楽しかった。大竹しのぶさんとご一緒できたことも大きいです。あれだけの大女優の方でも、こんなに苦労するんだっていう姿を見せてもらえて…。舞台は、商業とはかけ離れた芸術の世界で、作品に向き合う素晴らしさや、この仕事をする上で大切な、純粋なものにたくさん気付けました。この経験で1回、自分がゼロスタートした感覚があります。

後編に続く

杉野遥亮
すぎの・ようすけ 1995年9月18日生まれ、千葉県出身。2015年から雑誌『FINEBOYS』の専属モデルを務め、18年に『福岡恋愛白書13 キミの世界の向こう側』でドラマ初主演、19年に『羊とオオカミの恋と殺人』で映画初主演を飾る。文中以外のドラマに『大恋愛~僕を忘れる君と』(18年)、『新しい王様』(19年)、『ハケンの品格』(20年)、映画に『あのコの、トリコ。』(18年)、『水上のフライト』(20年)、『東京リベンジャーズ』(21年)など

(写真/藤本和史、スタイリスト/カワサキ タカフミ、ヘアメイク/AZUMA(M-rep by MONDO artist-group))

2
この記事をいいね!する