2022年6月26日、Sound ART Project「FLUcTUS」(フラクタス)の体感イベント「Sound ART Project FLUcTUS -SYMBOL-」が行われた。音楽プロデューサーの小室哲哉にインタビューした前編「NFTに新形態『サウンド・アート』小室哲哉×寺田てらたちがタッグ」に続き、後編ではイラストレーターの寺田てらに、このプロジェクトの狙いやNFTの展望などを聞いた。

(右)小室哲哉 1958年生まれ、東京都出身。音楽家。最先端の音楽テクノロジーから膨大なヒット曲を生み出す。84年に音楽ユニットTM NETWORKでデビュー。93年にtrfを手掛け、安室奈美恵、globeなど音楽プロデューサーとして時代を席巻。2021年、TM NETWORKを6年ぶりに再起動した。(左)寺田てら ナナヲアカリの『チューリングラブ feat.sou』やAdoの『阿修羅ちゃん』などアーティストのミュージックビデオや、アパレル、3Dアバターまで様々なイラストを手掛ける。https://twitter.com/trcoot(写真/中村嘉昭)
(右)小室哲哉 1958年生まれ、東京都出身。音楽家。最先端の音楽テクノロジーから膨大なヒット曲を生み出す。84年に音楽ユニットTM NETWORKでデビュー。93年にtrfを手掛け、安室奈美恵、globeなど音楽プロデューサーとして時代を席巻。2021年、TM NETWORKを6年ぶりに再起動した。(左)寺田てら ナナヲアカリの『チューリングラブ feat.sou』やAdoの『阿修羅ちゃん』などアーティストのミュージックビデオや、アパレル、3Dアバターまで様々なイラストを手掛ける。https://twitter.com/trcoot(写真/中村嘉昭)

 寺田てらは、Ado「阿修羅ちゃん」のミュージックビデオなど音楽アーティストのアートワークを手掛けるほか、多くの企業とコラボグッズやアパレルを手掛ける人気イラストレーターだ。小室とのプロジェクトについて、「自分の中にあった、小室さんの曲のデジタル的なイメージを全面的に出したいと思って制作した」と語る。

6月26日、イベントが行われた東京タワーRED° TOKYO TOWER5階には、事前応募から抽選で100名が参加。入場待ちしているファンは、男:女=5:5ぐらいで世代の幅が広く、小室、寺田と両方のファンが来たことがうかがえる
6月26日、イベントが行われた東京タワーRED° TOKYO TOWER5階には、事前応募から抽選で100名が参加。入場待ちしているファンは、男:女=5:5ぐらいで世代の幅が広く、小室、寺田と両方のファンが来たことがうかがえる

――プロジェクトに参加して、どのように作品作りを進めたのでしょう。

寺田てら(以下、寺田) 小室哲哉さんとのプロジェクトに参加しないかという話がきたとき、海外にいたんです。自分が小室さんの音楽を聴いて育ったこともあり、期限は短かったのですが、絶対に参加したくて帰国して数日で描きました。新しく描いたというよりも、これまでのイラストの中からマッチしそうなものをいくつか見てもらい、最も合いそうなものを、NFTやデジタル技術といった価値観に合うような形でアレンジしました。

 最初に話を聞いたときはびっくりしました。ミュージックビデオの仕事をするなど、もともと音楽業界に近いところで活動していましたが、まさか小室哲哉さんのようなパイオニアといっしょに取り組める機会がやってくるとは思ってもみなくて。びっくりしたと同時に、自分の絵柄で大丈夫なのかなと心配にもなりました。

 いい意味での違和感がありました。小室さんの作品は両親が聴いていて、自分も幼少期からずっと聴いていた、“私の音楽”という認識でしたから、その音楽と関われるとは思っていませんでした。自分の日常に浸透していた音楽にクリエーティブを付けることが難しかったのと同時に、自分の人生の中で思い出深いものでもあり、絶対にやりたいという気持ちでした。

――寺田さんはミュージックビデオのアートワークを手掛けていらっしゃいますが、コンテンツに合わせてイラストを作製するという作業は、どういったイメージで進めていくのでしょう。

寺田 まず曲を通しで聴いた後で、自分の中で「こういう映像があったらうれしいな」というものを思い浮かべて、それをイメージラフや下書きに起こします。そして何度も曲を聴きながら、ここの音ならこういうカットがいいだろうな、こういう世界観ならこういうキャラクターが動いてほしいなと、ラフを積み重ねていく形です。

 曲を作っている人の思いが一番大事なので、その人の思いや曲のコンセプトを取り入れて、そこに肉付けをして、自分の絵柄でどう表現するのかという作り方をしています。

――今回のプロジェクトで、曲に対してどんなイメージを込めたんでしょう。

寺田 小室さんの曲のイメージはEDM、ダンスミュージックで、またシンセサイザーの使い方が天才的というイメージが自分の中にあったので、そのデジタル的なイメージを全面的に出したいと思って制作しました。元になったイラストは女の子だけで周りには何もなかったんですが、それを発光させてネオンぽくしたり、絵を描くときのウインドウやツールなど、デジタルっぽい要素を記号化してちりばめたり、総合的に電子的なものを醸し出すようなイメージを心がけました。

プレミアムライブのあと、小室、寺田、popman3580、撃鉄との座談会も行われた
プレミアムライブのあと、小室、寺田、popman3580、撃鉄との座談会も行われた

NFTと環境問題

――今回のNFTコンテンツに限らず、一般のミュージックビデオでもイラストやアニメーションを使ったものが増えていると思いますが、この傾向をどう捉えてますか。

寺田 まず思うのは、若者に見てもらいやすくなることです。イラストレーターとしても、活躍できる場所が増えることがうれしいですね。

 ミュージックビデオといえば実写が定番で、アニメっぽい絵柄が出てくると、オタクのもの、オタクの音楽、オタクのコンテンツだと認識されがちだったと思うんです。それが今では、最前線で活躍しているミュージシャンの方たちがイラストレーターやアニメーターを起用してビデオを制作することが増えました。それが浸透してイラスト業界が盛り上がってくれることが、イラストを描く立場としてうれしい。自分はイラストを描いて、それを他の方に動かしてもらう形ですが、ミュージックビデオを通じて自分のことを知ってもらうことが多いんです。

――寺田さんは、Adoさんのミュージックビデオでの仕事が有名ですが、ご自身がブレイクしたポイント、ファンが増えたきっかけはどこにあったと考えていますか。

寺田 まず、ボーカロイド関連のミュージックビデオや、ボーカロイドのキャラクターのグッズを手掛けたりしたことで、若い方たちに注目されるようになったのかなと思います。それからAdoさん、まふまふさん、ナナヲアカリさんのミュージックビデオに参加するようになってから認知が広がりました。

 やはりミュージックビデオが一番大きいですね。YouTubeなどで気軽に見られることがよかったんでしょうか。1枚絵というのは見たら終わりですが、音楽と合わさってキャラクターも動くことで一定時間楽しめるエンタメになり、見てもらいやすくなるのかなと。

――今回はNFTコンテンツになるわけですが、NFTについてどんな印象や展望を持っていらっしゃいますか。

寺田 日本ではあまり浸透していないのですが、実は海外では、NFTのブロックチェーンを維持するための電力消費が、環境に負荷をかけているという声があるんです。以前、NFTのビジュアルアートを出している所からの依頼で、作品をいくつか提供させていただいたことがあるんですが、そのときに海外からSNS(交流サイト)などでバッシングを受けたことがありました。

 今回のOVOさんは環境負荷を低減する取り組みをしているそうで、そうした部分が改善されていけば、本当に可能性のあるものだと思います。

 イラストレーターとしても、デジタルコンテンツが資産になるのは革命的です。小室さんのような影響力のある方が大々的に取り組むことで、皆さんの認知が広がり、価値観が変わって浸透していく機会になればいいなと思います。

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