※日経エンタテインメント! 2022年1月号の記事を再構成
『夜に駆ける』で2020年にブレイクして、一気にスターダムをかけ上がったYOASOBI。歩みを止めることなく21年も積極的に楽曲リリースを行い、そのどれもがヒットを記録している。そんな彼らの21年の活動を振り返りながら、音楽への向き合い方や、クリエーティブに対する信念、今後の展望を聞いた。
――小説をもとに楽曲を制作するという独特の手法で数々のヒットを飛ばす音楽ユニット、YOASOBI。2020年に、デビュー曲『夜に駆ける』がSNSから爆発的に広がり、ビルボードジャパン年間チャート1位を獲得。同年末に、初の『NHK紅白歌合戦』へ出場を果たした。
21年もその勢いはとどまることを知らず、1月にアニメ『BEASTARS』第2期オープニング曲として書き下ろした『怪物』。5月には『めざましテレビ』(フジ系)テーマソングの『もう少しだけ』。7月にはNTTドコモ「ahamo」のCMソング『三原色』など、途切れることなく楽曲をリリース。また、『怪物』や『三原色』などの既発曲を英語でセルフカバーし、『Monster』や『RBG』としても発表。21年にリリースした新曲は16曲にも及ぶ。
また、21年3月からはラジオのレギュラー番組『YOASOBIのオールナイトニッポンX(クロス)』もスタート。今年も八面六臂の活躍となったYOASOBIの2人は、この1年をどう見ているのか。21年について話を聞いた。
ikura (20年の)『紅白』は今思い返しても、歌っていた最中のことは何も覚えてなくて。直前まで緊張しすぎて「歌えないかもしれない」とあっぷあっぷしていたのに、始まる20秒前にすっとゾーンに入るような感覚に陥り、その後の記憶がないんですよね(笑)。
Ayase 『紅白』は、僕らのことをたくさんの人に知ってもらえる貴重な機会になりました。とんでもないプレッシャーのかかる局面を乗り越えたことで、大きな自信につながりましたしね。21年は多くのタイアップ曲を世に送り出しましたが、ヒット作を求められる重圧みたいなものは、びっくりするくらい感じないタイプなんです(笑)。自分がいいと思う曲を作り続けていった、結果、皆さんにお届けすることができたのかなと。
ラジオにありのままで臨む理由
ikura この1年だと、ラジオを始めたことも大きかったですね。これまで私たちの素の部分を知ってもらう機会ってほぼなかったので。こういう人たちが作ってる曲なら聴いてみようと思ってもらえる、新たなきっかけになっていたらうれしいです。
Ayase 確かに、パーソナルな部分が見えるだけで、音楽も立体的かつ現実的になり、より好きの度合いが増したり、掘ってみようという気持ちにつながるはずなんです。なので、ラジオはできるだけ素で臨むようにしています。
1年の締めくくりとして昨年の12月1日には2nd EP『THE BOOK 2』をリリース。21年に発表した『怪物』『三原色』『ラブレター』など7曲に、舞台『もしも命が描けたら』の同名テーマソングを加えた8曲入りで、すべてがタイアップ曲となっている。このEPの収録曲をなぞることは、すなわちYOASOBIの21年を振り返ることにもなる。しかも、YOASOBIは「小説をもとに楽曲を制作する」ユニットのため、どの曲もその都度誰かが小説化し、そこから楽曲を生み出すという時間も手間もかかる制作スタイルを完遂してみせた。
この先もずっと守るべきもの
ikura Ayaseさんの曲を聴いていつも思うのは、「原作の小説から、楽曲を作るならこれだ」という感動。なので、その世界観を私も身につけたいし、同じイメージを共有して歌いたいという気持ちが強いですね。そのために、どの曲もレコーディング前はかなり練習して臨みます。ちゃんと自分のものにしてから歌いたいですから。
Ayase 小説を音楽にするのがYOASOBIで、その根底を崩してはいけないと思っているし、そのアイデンティティは今後も守っていきたい。僕らはずっと、小説という自分たち以外のところから出てきた種と結びついて、新しいものを生み出す作業を行ってきました。なので、タイアップもコラボレーションするような感覚で、自然に取り組めるのは強みだと思います。中心に物語があることで、楽曲やCMがいい感じにパイプでつながる。物語を知れば、どの世界観にもスッと入っていきやすいんです。それに、ある種の制限があるなかでの制作は、どこかゲーム性を帯びていて、ワクワクしながらいつも取り組んでいます。
『三原色』は、出逢いと別れを通して人と人のつながりを歌っているんですが、このご時世におけるつながりと、「ahamo」のテーマでもあるつながりを重ねました。また、自分の中で三原色の赤、緑、青が交じり合って白になっていく、そのにぎやかしい感じを音にしたかったので、ラテンや民族的な楽器のエッセンスを入れ、情熱的なビートに仕上げています。
後編に続く
(文/橘川有子、中桐基善、写真/中村嘉昭、スタイリスト/藤本大輔(tas)、ヘアメイク/YOUCA)