
建築物を実際に建てる際には、建材、家具、照明器具など数百から数千のものを選定しなければならない。製品の情報はメーカーごとのカタログで調べる必要があり、探し物だけのために多大な時間がかかっていた。tecture(東京・渋谷)はこうした情報をデジタル化し、設計者が探しやすいプラットフォームで、効率的な働き方を実現する。
建築業界向けの建材・家具検索プラットフォーム「TECTURE(テクチャー)」を運営するtectureは2021年8月、総額約1億2000万円の資金調達を実施した。これにより19年創業からの累計調達額は約1億9000万円となった。
TECTUREは建築物などの作品画像に家具・建材の商品情報を埋め込むことで、その建築事例に使われている家具や建材などのメーカー名、商品名、型番、価格などの情報をワンストップで検索できるプラットフォームだ。代表取締役の山根脩平氏は08年に隈研吾建築都市設計事務所(東京・港)に入社し、15年にLINEに転職、そして19年にtectureを創業した。「IT分野の働き方や事業スピード、意思決定の速さなどを目の当たりにすると、建築領域がいかに遅れているかを思い知らされ、カルチャーショックを受けた」と山根氏は言う。そこで建築事務所でのアーキテクト(建築家)としての経験とIT企業での経験を生かし、DX(デジタルトランスフォーメーション)によって建築分野が抱える問題解決に取り組んでいる。その最初の取り組みがTECTUREだ。
検索に膨大な時間が使われている
「空間デザインに携わる人の50%以上は月200時間以上働いていて、年収実態は75%が400万~600万円。国家資格が必要な仕事にしては長時間労働・低賃金だ」と山根氏は言う。山根氏自身、建築事務所時代は月450時間働き、会社のテーブルの上で寝ることもよくあることだったと言う。こうした長時間労働を引き起こす要因の1つが検索だ。「建築家というとクリエイティブなイメージを持たれやすいが、実際には探し物に多くの時間を費やしている」(山根氏)
例えば、1つの建物を実際に建てるとなると、壁紙からカーペット、照明器具などまで、数百から数千のものを選んでどんどん決めていかなくてはならない。
「『以前見たあの建物で使っているカーペットが、今回の自分のイメージに合うけれども、メーカーはどこだろう』と思っても、そんな情報はどこにもない。だから頑張って何千冊という紙のカタログをひたすらめくって探すしかない。そして、メーカーが分かり、サンプル請求をしてもすぐに送ってもらえるとは限らない。『一度お会いしてお話ししたい』と言われることも多く、数百、数千のものを選ぶのに全部人に会っていたのでは到底終わらない。こうした探すプロセスは全く意味のないものだと思うので、まずはこの部分を効率化するサービスとしてTECTUREを始めた」(山根氏)
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