デザインで羽ばたくスタートアップ 第3回

スノーボードのシーンから生まれたギアが、今ではビジネスシーンにも浸透。JRやANAの現場でも活用が進む。スタートアップのBONX(ボンクス、東京・渋谷)は、独自開発した音声コミュニケーションシステムで2021年9月に約7億円の資金調達を完了。音声DX(デジタルトランスフォーメーション)でさらなる飛躍を目指す。

スマホの「BONX WORK」アプリ画面とBluetoothイヤホン「BONX BOOST」(左上:2022年発売予定)、「BONX Grip」(左下)、「BONX mini」(右下)
スマホの「BONX WORK」アプリ画面とBluetoothイヤホン「BONX BOOST」(左上:2022年発売予定)、「BONX Grip」(左下)、「BONX mini」(右下)

 BONXは、グループトークソリューションを担うスマートフォンアプリ「BONX WORK」と、専用Bluetoothイヤホンを使って、現場で働く人々に最適なチームコミュニケーションを提供する。専用イヤホンは「BONX Grip」「BONX mini」「BONX BOOST」の3種類がある。

前回(第2回)はこちら

 このBONXのシステムの特長は、スマホがインターネット回線につながる場所であれば通信距離が無制限なこと。ボタンを押さずに話すだけで通話を開始でき、手がふさがっていても会話できること。対面での会話のように複数の人が同時に話すことができること。混線しないこと。1つのトークルームに最大50人が接続できること。複数のトークルームの会話を聞いたり、話しかけたりできること。電話と違って声を発しているときだけ回線に接続しているので、通信量が少なく済むこと。枚挙にいとまがない。

 BONXのシステムはすでに多くの企業が導入している。例えばJR東日本の鉄道メンテナンス現場。全日本空輸(ANA)ではエアバスA380の客室乗務員や、国内主要6空港の空港業務員。ヒルトン沖縄瀬底リゾートの現場スタッフなど。

BONX Gripを装着したANAの空港業務員。発券、搭乗手続き、搭乗ゲートなど複数の業務ルームと話すことで業務を円滑に進めることができる
BONX Gripを装着したANAの空港業務員。発券、搭乗手続き、搭乗ゲートなど複数の業務ルームと話すことで業務を円滑に進めることができる

スノーボードから発想

 BONXは、2014年にチケイの社名で宮坂貴大代表取締役CEO(最高経営責任者)が創業した。起業のきっかけは宮坂氏が仲間とスノーボードを楽しんだときの出来事だった。滑走中に仲間を見失った宮坂氏が、スマートフォンで電話をしたものの、回線はつながっているのに誰も電話に出なかったのだ。

 「電話は着信に気づかないこともある。電話ではなく、遠く離れていても、そばにいるときと同じように、わいわいと話ができるデバイスがあれば問題は解決するとひらめいた」(宮坂氏)

 スノーボード中に思い付いたアイデアだが、宮坂氏は「これはビジネスでも使える」と直感したという。建築、医療、介護、小売り、ホテル、空港など、広い現場でチームとして働く「デスクレスワーカー」は数多く存在する。そういう働き方において、メールやチャットなどは仕事の流れを止めやすく、コミュニケーションツールとしては話しながら仕事ができる音声のほうが強い。

BONX BOOSTを装着したスケートボーダー。仲間と「ナイスジャンプ!」などと会話しながら楽しく滑ることができる
BONX BOOSTを装着したスケートボーダー。仲間と「ナイスジャンプ!」などと会話しながら楽しく滑ることができる

 「そうした現場の多くでトランシーバーが使われていた。しかし、インターネット以前のテクノロジーであるトランシーバーが、これからも主流として残っていくとは思えない。僕らが開発したテクノロジーによって、チームの仕事が効率化され、現場が楽しくなったという声を聞くことが願うところ」(宮坂氏)

 離れていても音声でストレスなくコミュニケーションするという“体験”を、ハードとソフトの両方を手がけて、高いレベルでデザインしようとするBONXは、15年10月にシステムを発表。同時にBONX Gripのクラウドファンディングを開始し、2カ月で総額2500万円超の支援を得た。新デバイスを開発する際、クラウドファンディングを活用するのは同社のスタイルで、BONX miniは総額7900万円超の支援を獲得。最新デバイスのBONX BOOSTも、約5200万円を集めた。

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