日本マクドナルドホールディングス(HD)の業績が好調だ。2021年12月期の営業利益と全店売上高は過去最高を更新。新型コロナウイルス下の巣ごもり需要を取り込んで快進撃を続けるが、次はコロナ後を見据えた成長戦略に注目が集まる。事業子会社社長からHD社長に就任して1年を迎えた日色保氏は、30代以上の大人層の市場開拓が不可欠だと強調する。

※「日経MJ」2022年3月23日付記事「『大人マック』で顧客育てる」を再構成したものです
マクドナルドは大胆な建て替えや移転で店の求心力を高める(東京都内の店舗)
マクドナルドは大胆な建て替えや移転で店の求心力を高める(東京都内の店舗)

 「年齢の高いアダルト層の市場がマクドナルドにとってのニューフロンティアだ」――。

 日色保氏が19年3月に事業子会社、日本マクドナルドの社長に就任してから進めてきたのが大人の消費者層をターゲットにしたブランド再構築だった。

 20年以降、テレビCMに木村拓哉さんや堺雅人さんなど40代後半の人気俳優を起用。木村さんは「いいじゃんマック」をキャッチコピーに手ごろな値段で小腹を満たせる200円バーガー「ちょいマック」や本格的な味わいの「プレミアムローストコーヒー」をアピールした。最近では仕事の合間にマックを利用するコミカルなCMも好評だ。

 堺さんもハンバーガーを手に同僚と仕事に打ち込んだ駆け出しの頃を思い出しながら店を訪れるビジネスマンを演じ、共感を集めた。20年からは炙(あぶ)り醤油(しょうゆ)を使った和の味わいが特徴の肉厚バーガー「サムライマック」を投入して高い年齢層の顧客の関心を集める仕掛け作りも進めている。

炙り醤油で大人の味わいにしたサムライマック
炙り醤油で大人の味わいにしたサムライマック

 日色氏は「日本人の平均年齢は米中などと比べてかなり高い。マクドナルドは若者向けと思われがちだが、特に日本では働き盛りの大人や高齢者も取り込むことができなければ成長は難しい」と強調する。

 21年3月の日本マクドナルドHD社長就任後はこれまでにない高級感のある商品を投入する試みも始めた。22年初めには高級チョコレートのゴディバジャパン(東京・港)と組んだチョコレートドリンクを期間限定で販売した。Sサイズで350円と他のドリンクよりも高めに設定。大人の女性の支持が高い鈴木京香さんのCMも展開した。

 大人の顧客開拓はマックの課題だった夜間帯の販売拡大にも寄与する。バーガーのパティを希望に応じて増やすことができる「夜マック」のサービスも仕事終わりにしっかり食事を取りたいビジネスマンのニーズに合致する。

ゴディバとコラボしたチョコレートドリンクも販売した
ゴディバとコラボしたチョコレートドリンクも販売した

「愛される店」へ改装の手緩めず

 日色氏はブランド再構築に当たり、大人が気軽に来店したくなるようなイメージ作りだけでなく、店舗戦略の見直しにも着手している。そこで打ち出しているのが「リビルド(建て替え)とリロケーション(移転改築)」だ。

 HD前社長のサラ・カサノバ氏(現会長)は、在任中の14年に中国の取引先工場で鶏肉の品質問題が発覚し、深刻な客離れに直面した。そこで既存店を一斉に改装して清潔なイメージを確保。混雑を解消するため注文と受け渡し口を分けたカウンターを新たに導入するなど利便性も高めて顧客の信頼を回復し、その後の業績のV時回復につなげた。ただ1990年代から急速に増加した店舗の整理は道半ばだった。

 かつてのマックの戦略は旗艦店の周囲に衛星のように小型のサテライト店を配置し、繁華街や住宅の需要を面で取り込むものだった。93年に約1000店だった店舗数は2002年のピーク時には約3900店まで膨らんだ。サテライト店は店内が狭く内装も画一的で、ゆっくり食事を楽しむ空間になりにくかった。採算の悪い店も目立っていた。

日本マクドナルドHDの日色保社長は働く大人が通いたくなる店を目指す
日本マクドナルドHDの日色保社長は働く大人が通いたくなる店を目指す

 日色氏は「愛されるマクドナルドになる」と強調する。サテライト店を減らす一方、広い店内空間や駐車場を確保できるように店舗の建て替えや近隣地への移転を進めるなど、一段と踏み込んだ店舗改革に挑むのは客離れを再び招かないための決意でもある。

 日色体制下の船出はいまのところ順調だ。21年12月期の連結売上高は前の期比10%増の3176億円。営業利益は同10%増の345億円で過去最高だった。同社が経営指標として重視する全店売上高も6520億円と約11%増え、過去最高を更新。コロナ下での巣ごもり需要を受けてテークアウトなどの販売が伸びたことなどが追い風となった。日色氏が進めるブランドや店舗戦略の真価が問われるのはこれからだろう。

宅配など、ホスピタリティー向上の余地も

 同社は24年12月期までに全店売上高を1000億円上積みする計画だ。「コロナ特需」が剝落するであろう時期の目標達成について日色氏は「簡単ではない」と率直に話す。ただ「奇をてらうことはしない。大人の夜間帯需要や高齢者向け宅配など今まで届かなかった需要にリーチすることに尽きる」と、自身の戦略に対する確信を深めている。

 ただホスピタリティーを重視する上で見落とせない部分は少なくない。例えば今後の成長を期待する宅配事業では、自社デリバリーを展開するのは宅配可能な1979店中、909店舗のみ。ウーバーイーツなどの代行サービスに依存しているのが実情だ。

 「自社で1店舗7台以上の専用バイクを用意すると投資過剰になる。運転手をフル活用できなければ収益が出せない」(日色氏)と、店舗の利用状況に応じて自社と代行を使い分ける方針だが、リピートしたいと思えるようなサービスの質を維持するため、改善の余地はありそうだ。


価格戦略、複雑さ増す

 マックは3月中旬、全体の2割のメニューの店頭価格を10~20円引き上げた。定番のハンバーガー(値上げ後は130円)やフィレオフィッシュ(同350円)も含む。小麦や牛肉など原材料価格や人件費・物流費の上昇を反映した。

 「慎重に検討を重ねたがやむを得なかった」(日色氏)というが、消費者の反響は大きく、SNS(交流サイト)で話題となった。

 21年末と22年初めには原材料を載せた船便の到着遅れなどを背景にフライドポテトの一部サイズの販売を休止するなど、いつでも好きな商品が手に入るマックに対する安心感が揺らぐ事態も起きた。

 今後はロシアのウクライナへの軍事侵攻の影響も懸念される。原油や小麦などの価格も一段と上昇しており、原材料の仕入れや価格設定などで苦労する場面が生じる可能性がある。

 ブランド再構築などを通じて働く大人向けに高付加価値の商品を広げているが、若者や子連れの主婦など価格に敏感な消費者の購入によって支えられている面がある。スーパーの食品など生活必需品の値上げが相次ぐ中、消費者の生活防衛意識が強まって外食を控えるようになれば、マックでも「客離れ」につながりかねない。

 一律の値上げだけでなく、値ごろ感を感じることのできるセット商品の開発など、求心力を維持する既存メニューの価格戦略見直しも急務だ。

(日本経済新聞社 安藤健太)

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