仮想空間「メタバース」のプラットフォームを運営するクラスター(東京・品川)が、利用者の拡大に注力する。専門知識がなくても個人が仮想空間を手軽に作成できるサービスを始めたほか、2022年春にもメタバース上で使えるアイテムの販売機能を本格的に採り入れる。メタバース経済圏の確立を目指す同社にとって一歩前進することになる。
クラスターの仮想空間には、喫茶店を模した空間や近未来のビル街など様々ある。利用者には自分のアバター(分身)を作成し、テーマごとにある仮想空間を選んでもらう。そしてその中でコミュニケーションなどを楽しんでもらう。
2015年設立の同社は、主に2つの事業を手掛ける。「プラットフォーム事業」では個人らが仮想空間を作り、その空間に利用者を呼び込めるという仕組み。ただ、無料で利用してもらっていることから、20年からは収益拡大を目的に「エンタープライズ事業」を始めた。
仮想空間上でイベントを開いてPRなどをしたい企業から仮想空間作成などを受注する。受注額は1件当たり100万円から数千万円と幅がある。
これまでにウォルト・ディズニー・ジャパンやポケモンなどから受注。ディズニーではハロウィーン目的のイベントが開かれたほか、ポケモンの場合はバーチャル遊園地を提供した。3次元(3D)のキャラクターに接することができるため、高い満足度を感じるファンもいる。
クラスターは就職活動関連の仮想空間の作成も手掛けており、これまでに三菱UFJ信託銀行などから受注した。「メタバース上で開かれるセミナーに多くの参加者が同時に接続できる利点もある」(クラスター)。22年春は約10の企業が就活関連のメタバースを開設する予定で、仮想空間の利用シーンが広がりをみせている。
マインクラフトのようにメタバース制作可能に
クラスターのビジネスモデルは、こうしたプラットフォームの運営と、企業から仮想空間の作成を受注できるノウハウを持っていることにある。5000以上ある仮想空間の利用人数は非公表だが、クラスターの成田暁彦最高執行責任者(COO)は「22年末時点での利用者数は現在よりも大幅に増やしていきたい」と意気込む。
まず2月から新しいサービス「ワールドクラフト」を始めた。仮想空間を作るためにはこれまでプログラミングなどの専門知識が必要で、メタバースの利用者を増やす上で障壁の1つとなっていた。同サービスが始まったことにより、利用者の裾野が広がることが期待されている。
2月からはこうした専門ツールを使わず、クラスターがあらかじめ用意した104のアイテムを自由に使って仮想空間を作れるようになった。アイテムには「床」などがある。そして人気ゲーム「マインクラフト」のように、自分好みの仮想空間を作成できる。
クラスターは22年春にも、メタバース上での流通の仕組みを本格的に採り入れる。仮想空間で使えるアイテムをクリエーターらが販売できる仕組みを整える。作成したクリエーターに収益を還元できるようにする。メタバース上で今後お金を介在させるビジネスを展開させたい同社にとっては一歩前に進んだことになる。
収益モデルは、すでに類似の取り組みを期間限定で実施した。21年夏にはクリエーター作成のアバターが買える「アバターマーケット」を開催。手応えをつかんだ。
今後は企業自身がメタバース上でPRできる機会を増やしていく考え。成田COOは「企業の商品をメタバース上で置物のように配置して宣伝してもらう方法もある」と話す。テーマが決まった仮想空間では利用者の目的も明確であることから、企業にとっては宣伝効果が見込める可能性がある。
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