ロケット発射の拠点となる「宇宙港」で地域の活性化につなげようとする動きが全国各地で相次いでいる。世界で市場が拡大する宇宙産業は観光や企業集積など様々な経済効果が期待されるとして、地元の自治体や企業の取り組みも熱を帯びる。観光促進キャンペーンや特産品作りなどに奮闘する現場から、宇宙と地域をつなぐ街おこしの未来を探る。
「ワタシハ宇宙人デス」
大分県の日田温泉にある「みくまホテル」(大分県日田市)。チェックインの際に自分は宇宙人であると申告した宿泊客に、地元の炭酸水を配っている。2021年12月から実施し、これまでに宿泊客の7割が“宇宙人”と申告しているという。女将の諫山節子さんは「楽しんで旅行してもらえれば」と語る。
温泉の源泉数で日本一を誇る大分県。21年12月に始まったのが、「宇宙ノオンセン県オオイタ」と題した観光促進キャンペーンだ。宇宙人のキャラクターを使ったPR活動や、約50の旅館やホテルで館内に宇宙人のイラストを描いた案内板などを掲示している。別府温泉のホテル「ガレリア御堂原」(大分県別府市)では2月まで宇宙人の格好でチェックインすると、宿泊料金が1万円割引となる。
宇宙人と温泉という不釣り合いな組み合わせが生まれたきっかけが、地元で準備が進む「宇宙港」だ。大分県は20年4月、米国の宇宙開発企業「ヴァージン・オービット」と提携した。国東半島の海沿いにある大分空港を飛び立った航空機が空中で人工衛星搭載のロケットを水平方向に発射する。今後5年間で18回のロケット発射が予定され、初回の打ち上げでは2000人規模の観客を見込んでいる。
ロケット発射では、整備関連のスタッフや投資家など関係者が現地を訪れることも予想される。ガレリア御堂原を運営する関屋リゾート(同)の林太一郎・最高経営責任者(CEO)は宇宙関連で「富裕層による消費も期待している」と話す。
宇宙港を契機に、観光客誘致に向けた環境整備も進んでいる。県は廃止していた大分空港と大分市内を海上で結ぶ空気浮揚艇(ホーバークラフト)を早ければ23年度に再開することを決定した。空港と大分市内を約25分で行き来できるようにすることで、空港の利便性も高めていく。
県は打ち上げから5年で102億円の経済波及効果を試算し、観光関連で約56億円と推定。“宇宙熱”は地元の食品メーカーにも広がっている。
後藤製菓(大分県臼杵市)は看板商品の煎餅を使った宇宙食づくりに取り組む。後藤亮馬社長は「臼杵市発の宇宙食を作って地元を盛り上げたい」と語り、22年内の開発を目指している。国東物産(大分県国東市)も地元のたこで宇宙食を開発中だ。
大分には石油コンビナートや自動車、精密機械など幅広い産業が集積している。県の先端技術挑戦課の佐藤元彦課長は「燃料や部品などを県内で調達できるのは強み。将来的には衛星の工場を地元に呼ぶこともできるはず」と期待する。
人工衛星の打ち上げなどは従来、国が中心となって担うことが多かった。だが最近は人工衛星の打ち上げなどに挑む民間企業が世界で増加し、ロケットを発射する宇宙港に注目が集まっている。日本でも自治体や民間企業が連携して宇宙港を作る動きが相次いでいる。
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