2022年1月4日発売の「日経トレンディ2022年2月号」では、「ほったらかし株&投信」を特集。21年は日経平均株価が30年ぶりに3万円台を回復する場面もあった株式相場。22年はどうなるのか。株式・為替の動向からマクロ経済まで幅広い知見を持つ、マネックス証券チーフ・ストラテジストの広木隆氏に、相場の見通しや注目テーマなどを聞いた。

※日経トレンディ2022年2月号の記事を再構成

世界経済や株式相場の展望を聞く
世界経済や株式相場の展望を聞く
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト 広木隆 氏
国内銀行系投資顧問、外資系運用会社、ヘッジファンドなど様々な運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。2010年から現職。経験と知識に基づいた金融市場の分析を行う。マーケットに携わって30年超

前回(第2回)はこちら

――まずは2022年の日本株相場の見立てを教えてください。

 日経平均株価は下値を切り上げる展開が続き、メインシナリオで言えば、年内に3万6000円程度まで上がるだろうと見ています。根拠とするのが、EPS(1株当たり利益)の伸びとPER(株価収益率)の修正です。

 アベノミクスが始まった13年以降の日経平均は、基本的にEPSの増加トレンドに沿って上昇してきました。21年12月初旬時点で、日経平均の22年3月期の予想EPSは約2070円です。

 22年の年明けからは半導体不足がだいぶ解消に向かう見通しで、自動車や機械などの生産は、これまで造れなかった分を一気に取り戻す計画を各社が立てています。為替の円安も考えると、日本の企業業績には上方修正余地があり、EPSは最終的には+5%の2170円程度にはなりそうです。

 23年3月期もペースは鈍化するものの業績改善は続きます。EPSはそこからさらに10%伸びた、2390円ぐらいを見込んでいます。

■日経平均株価とEPSの動き
EPSの増加に伴って上昇してきた日経平均
EPSの増加に伴って上昇してきた日経平均
「日経トレンディ2022年2月号」の購入はこちら(Amazon)

 一方、アベノミクス以降の日経平均の予想PERは平均15.5倍です。足元の水準は13倍台で、日本株は評価を下げています。ただ、新型コロナが海外に先んじて収まってくれば評価は修正され、15倍程度までは戻るでしょう。すると、2390円×15=3万5850円です。日経平均は年初は2万8000~2万9000円程度でスタートするとしても、いずれは3万6000円あたりが基本線になると見ています。

 日経平均のPBR(株価純資産倍率)も21年12月時点で1.2倍程度なので、下値は限定的。現状の株価は底に近く、基本的には緩やかな伸びが続くものと考えます。

22年の日経平均は上値3万6000円、下値2万8000円と予想
22年の日経平均は上値3万6000円、下値2万8000円と予想

――22年の理想的なシナリオはどうなりますか。

 22年のどこかの段階で新型コロナ収束の目途がついたら、経済復活期待で人々の気持ちが上向くし、市場のセンチメントも良くなってPERも上がる。企業業績もさらに上方修正され、年内に日経平均4万円に手が届くところまで行くことも考えられます。

 株式相場が強いときには、30%を超える年間上昇率は過去に何度もあります。基本線の3万6000円から1割上振れれば3万9000円台。1989年の3万8915円を抜き、日経平均がようやく最高値を更新というのがベストシナリオです。

「体験」を重視する消費トレンドに注目

――ダウンサイドはどう見ていますか。注意点があれば教えてください。

 ダウンサイドについては、それほど心配しなくていいでしょう。ただし、米国の利上げは注視すべきです。

 新型コロナが収まらずに人手不足や供給制約が継続して米国のインフレが高止まりすると、それを何とかしようとFRB(連邦準備理事会)が利上げを急いでしまう。景気がピークアウトしているにもかかわらず、利上げで企業業績や景況感が一段と悪くなるスタグフレーションの状況になるという悪いシナリオも、意識の片隅には入れておきたいところです。

 とはいえ、相場の基調としては緩やかなアップサイドの動きが続くので、一時的に下げたとしても、その後の株価の戻りに乗る順張りの投資スタンスでいいと思います。

――注目しておくといい分野やテーマは何でしょう。

 半導体関連など、日本の強みである部材や素材の会社は引き続き投資先として有力でしょう。また、少子高齢化や産業構造の変化に伴って、人的資源は今後さらに求められます。その人材ニーズの高まりをビジネスに変えられる会社は強いと思います。

 注目テーマとしては、リアルの体験にお金を払う消費のトレンドが強まると見ています。特に若い世代は、生まれたときからソーシャルメディアでつながってきたデジタルネーティブ。だからこそ、リアルの価値を追求する。

 例えば、映画『君の名は。』がヒットしたときは、アニメの舞台となった場所を訪ねる人が後を絶たなかった。音楽のCDは売れていないけれどライブやコンサートはすごい熱気だし、美術展をやれば長蛇の列です。

 ものはあまり買わないけれど、リアル体験を重視する彼らが、コロナで行動を制限されてしまった。「行けるときに行けばいい」から「行けるときに行っておかないと」に変わったことで、アフターコロナの消費は爆発すると思います。鉄道や空運、観光、レジャー、エンターテインメント系などの企業の株価は、コロナ収束期待に伴って水準訂正されていくでしょう。

 また、リアルの対極になりますが、バーチャル体験であるインターネット上の仮想空間「メタバース」関連にも注目しています。例えば、任天堂のゲーム「あつまれ どうぶつの森」はメタバースです。仮想空間に自分のアバターがいる世界をいち早く実現して、その中で宴会をやったり披露宴を催したりしている。3次元(3D)や仮想現実(VR)、拡張現実(AR)などの技術を組み合わせることで、より面白い体験ができるはずです。

「コロナの沈静化が日本株見直しのきっかけに」(広木氏)
「コロナの沈静化が日本株見直しのきっかけに」(広木氏)

――22年に気を付けて見ておくべきトピックやイベントは。

 国内では7月に参議院議員選挙があります。その結果次第で、岸田政権がいったん先送りした金融所得課税の強化についての議論が再燃する可能性があります。株式マーケットにとってはネガティブに働きます。

 世界では、2月の北京冬季五輪です。中国の人権問題を理由に、外交使節団を派遣しないと表明する欧米の国が相次いでいます。秋に行われる中国共産党大会で終身の座を手に入れようとしている習近平国家主席にとって面子に関わるだけに、台湾や尖閣諸島などに対する軍事的な動きが活発化する可能性があります。

 また、ロシアのウクライナ侵攻も懸念されます。地政学リスクが米国の政治問題に影響し、バイデン政権が一段と支持率を落として11月の中間選挙を迎えると、トランプ前大統領復活の道すら見えてくる。政治・経済両面で混乱するリスクが高まってきます。

(写真/小西 範和)

9
この記事をいいね!する