NFTバブルは本物か 第3回

NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)に相性が良いコンテンツの一つは“ファン向け”アイテムだろう。吉本興業(大阪市)は20~30代の若い女性に向けた芸人のデジタルトレーディングカードで新たな収益源を探る。ディー・エヌ・エー(DeNA)は、横浜DeNAベイスターズの試合の名シーンをコレクションできるサービスを開始した。アイドルや漫画などのファン向けコミュニティーを提供するGaudiy(ガウディ、東京・渋谷)も事業を拡大する。希少性を持たせられるほか、ファングッズの代わりにもなるNFT。軌道に乗れば新たな市場が開ける。

 芸人ファン向けにデジタルトレーディングカードを2020年から販売しているのが、吉本興業だ。22年3月にはその新版の「FANYよしもとデジタルコレカ」を発売する準備を進めている。音が出るのが特徴で、好きな芸人が動き、ネタもやる。スマホにいつでも好きな芸人のネタを“合法的”に持ち運べる。

前回(第2回)はこちら

 吉本は早くからNFTに取り組んできた。20年11月に「よしもとデジタルコレカ」を発売したのは、「吉本のIP(知的財産)と相性が良さそうなNFTという技術を使った芸人のオリジナルコンテンツをファンに向けていち早く提供したかったから」(吉本興業コンテンツ事業本部コンテンツ事業部専任部長の松野浩之氏)。19年に紙のトレーディングカードを発売して5万パックほど売れた。そのため20年11月に第2弾を発売したが、同時にNFTのデジタルトレーディングカードも発行した。7万5000パック売れた紙のトレーディングカードの裏面にQRコードがあり、これを「よしもとデジタルコレカアプリ」で読むとNFTのデジタルトレーディングカードを入手できる。

紙の「よしもとコレカ」(写真)と連動してデジタルトレカがもらえる仕組み。カード裏面のQRコードを読めば良い(写真のQRコードは読み込み済み)
紙の「よしもとコレカ」(写真)と連動してデジタルトレカがもらえる仕組み。カード裏面のQRコードを読めば良い(写真のQRコードは読み込み済み)
QRコードを読み込むとアプリでデジタルトレカが見られる
QRコードを読み込むとアプリでデジタルトレカが見られる

 画面の長押しをするとカード内の芸人が動くのが特徴。アプリ内のポイントである「よしもトークン」を利用してカードを購入したりカードを交換したりできる。デジタルのみの限定バージョンもこれまでに100種類以上提供している。よしもトークンは円で購入できるが、手持ちのよしもトークンを円に戻すことは現状できないようにしている。ただし、購入したデジタルトレーディングカードはアプリ内で売買できる。つまり、NFTの大きな特徴である2次流通も可能だ。「世界で1つ」「交換できる」といったNFTの特徴は打ち出してきたが、あえてNFTだとは言ってこなかった。松野氏は「NFTだと思っていない人が多いのでは」という。

 よしもとデジタルコレカの会員数は1万5000人ほど。これまでにNFTデジタルカードを19万枚以上発行し、3万4000回トレードされた。「デジタルトレカを購入したユーザーは喜んでくれている。刺さった人は繰り返し利用してくれているようだ」と話す松野氏。2次売買のマーケットでも投機性をなくすため、現状では価格設定の上限を2万よしもトークン(2万円相当)としている。

 松野氏は「売り上げは想定以上だった」と話す。リアルカードは600円という価格設定もあり、劇場でよく売れるアイテム。デジタルカードは、「ファンが、もう少し接点が欲しいと思ったときの“あと1歩”の満足感を満たしてくれるアイテムになっている」(松野氏)。芸人のファンは20~30代の若い女性が多い。完全合法なデジタルカードなので「これを買った」とイベントなどで芸人本人に写真を見せるときにも、ネットから勝手にコピーした写真を見せるような後ろめたさがない。

 吉本興業はNFTのデジタルアプリを所属のアイドルグループにも展開している。21年5月にはボーイズグループのJO1の「JO1デジタルメッセージトレーディングカードアプリ《完全版》」をリリースした。21年12月にはNMB48のNFTデジタルトレカも発売した。芸人やボーイズグループ、アイドルグループなど自社のIPに広く活用する考え。その背景にあるのは吉本が強化してきたデジタル戦略だ。

 吉本では21年4月、従来の「よしもとID」に基づいて提供してきた、チケットや映像配信などのさまざまなデジタルサービスのブランドを「FANY」に統合して強化している。新たに始めた「FANY ID」でチケットサービスやライブ配信、コミュニティーサービスなどを利用できるようになった。デジタルサービスでファンのニーズを満たし、全体の満足度を高める狙いで、無料会員は約330万人。有料のプレミアム会員は4万人いる。デジタルコレカもこうしたサービスの一環として「FANYよしもとデジタルコレカ」に名称を変更して提供することにした。今後はJO1やMB48のデジタルトレカの売買のマーケットやポイントであるトークンを統一する予定だ。

吉本興業はさまざまなデジタルサービスのブランドを「FANY」に統合して強化している(資料提供:吉本興業)
吉本興業はさまざまなデジタルサービスのブランドを「FANY」に統合して強化している(資料提供:吉本興業)
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