
特集3回目は60歳以上の男女を対象にしたシニア消費について取材した。この世代がコロナ禍で最も変わったのはスマートフォンの活用度合いだ。ワクチン接種でネット予約を迫られるなど、シニアのデジタル化が急激に進んだ。ネットショッピングはもうZ世代だけの市場ではない。シニアの不安な気持ちに寄り添い、背中を後押しすればデジタルシニア市場は開ける。
三菱総合研究所は2021年12月、「コロナ禍におけるライフスタイル変化と行動変容~新常態の行動変容の牽引役は?~」と題するセミナーを行った。同社が11年から毎年実施している「生活者市場予測システム」の結果を踏まえた内容で、20~69歳の男女3万人への調査をもとにしている。これによると、感染や医療、経済などの点でコロナ禍に対する不安の感じ方が異なる、楽観派と悲観派がいることが分かった。楽観派の代表は若年層の男性で、60代の女性が最も少なく悲観派の中心といえそうだ。
三菱総研によると、悲観派は後ろ向きな人たちではなく、不安を感じるからこそ行動しなければいけないといった、高い意識を持っているという。新しい生活様式になじもうとしている層といえるそうだ。マーケティング用語である「イノベーター」「アーリーアダプター」と呼ばれる積極的な人は、むしろ悲観派が多いという。
すべてのシニア女性がコロナ禍の行動変容に積極的ではないだろう。だが、無視できない層であることは確かだ。「不安が高い層がコロナ禍での行動変容も大きい。新しいことに挑戦しようとするため、新しい生活様式での行動変容の担い手になるのではないか」と三菱総合研究所未来共創本部主席研究員の高橋寿夫氏は分析する。同調査は60代までしか聞いていないが、60代以降のシニアと呼ばれる女性たちが新しい生活様式の消費行動をけん引する存在になるかもしれない。
そこで、特集3回目はシニア消費に注目した。Z世代ばかりが消費行動の中心ではない。経済的なゆとりがあるシニア世代こそ、ニューノーマル消費の主役になるかもしれないからだ。
シニア女性向け月刊誌「ハルメク」の出版などを行うハルメクホールディングス(東京・新宿)の生きかた上手研究所は21年12月、「2021シニアトレンド&2022シニアトレンド予測」を発表した。21年のシニアトレンドは8つ。次世代アスリートやリーダーシップのある若い知事を応援する「“親目線”推し活」や、手軽に個性を演出でき、顔を華やかに見せたいシニア女性にとって重要なアイテムとなった「華やかマスク」などがあった。
これらの中で同研究所が特に注目したのが「スマートシニア元年」だ。同研究所が55~74歳の女性527人を対象に「デジタルとネットの活用についてのアンケート」(調査期間は21年6月15日~8月3日)を実施したところ、スマートフォン保有率が92.2%になり初めて9割を超えた。総務省の「令和3年版 情報通信白書」を見ても、60歳以上のスマホ利用率は81%となった。35%にすぎなかった16年からわずか5年で2.3倍に跳ね上がっている。
デジタルの怖さを乗り越え、利用しようと決断
コロナ禍以前におけるシニア女性のスマホの使い方は、ほぼ「電話」「LINE」「写真」の3つに限られていた、と同研究所所長の梅津順江氏は言う。「デジタルは怖い」「個人情報を入力するなどもっての外」といった考えが支配的で、通販などは電話かファクスの利用にとどめ、ネットショッピングなど消費での利用はほぼ見られなかったという。
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