商品を企画、販売するときに大事なのは、ユーザーの自己肯定感を上げること、つまり「承認欲求を満たすこと」だと、長年、若年女性向けの商品開発に携わってきたフリュー「ガールズトレンド研究所」所長の稲垣涼子氏は言う。若年女性から高い支持を集めるプリントシール機に学ぶ、今どき女子の「二大行動原理」とは?

※本連載は新刊『カワイイエコノミー』より、「流行」についての項目を一部抜粋、編集したものです
すべてのヒット商品には「自己肯定感を高める」仕掛けがある(写真:Elena Rudakova/shutterstock.com)
すべてのヒット商品には「自己肯定感を高める」仕掛けがある(写真:Elena Rudakova/shutterstock.com)

 みなさんに知っておいてほしいことがあります。女の子の行動原理です。私たち(フリュー「ガールズトレンド研究所」)が商品の開発を通し、長年女の子を観察して、調査して、会話を掘り下げ続けた結果、女の子の行動理由は大きく2つに集約されていることが分かりました。

(1)自分が1人ではないという安心感
(2)他者から評価されることも含めた自己肯定感

 この2つは、まとめると「承認欲求」ということです。今の時代、何をするにしても、女の子はこの2つの欲求を根底に持ち合わせていると考えて間違いありません。1つずつ見ていきましょう。

 「自分が1人ではないという安心感」とはどういうことでしょうか。

 例えば、私たちフリューが開発しているプリントシール機(以下プリ機)は、基本的に2人以上で撮影します。当社が実施した、プリ機で撮ろうと思った目的を調べたアンケート(複数回答可)でも、「その日の思い出を残すため(記念)」が74%と圧倒的に多く、「友達と一緒に撮影・落書きなどを楽しむため(遊び)」が36%と続いています。「ブログやSNSに載せるため(盛れる)」の22%を上回っています。

新刊『カワイイエコノミー』(日経BP)
新刊『カワイイエコノミー』(日経BP)

 つまり、機能よりも場としての価値を見いだしている人が多いことが分かります。プリ機で撮るときは、撮影空間へ一緒に入ります。わいわい落書きしたり、コミュニケーションを取ったりしながら、1つのものを完成させます。それを分け合って持ち帰る。この一連の流れで人とのつながりを非常に強く感じられるのです。

 プリントシールを一緒に撮ることは「仲間」の証明にもなります。女の子はおそろいのものを使ったり、コーディネートを合わせたりするのが好きです。自分と遊び仲間のグループにチーム名をつける人もいます。プリントシールはそれを記録できるわけですから、格好の遊び道具です。落書きでチーム名を書いたりする行為も、また仲間の絆を強めます。

なぜ女の子はTikTokに動画を載せるのか

 これらはプリ機だけではなく、女の子にヒットしたサービスや商品に見られます。また、「自己肯定感」を上げる商品が人気なのは、性別や年齢を問わず、広いターゲットにも言えることでしょう。

 SNSも「1人じゃない」を確認するためのツールとしては最適です。人々がなぜTikTokに動画を載せるかというと、他のユーザーの反応を得たいからです。反応があれば「1人じゃない」と安心できますし、自己肯定感にもつながります。LINEも同じですね。

 もちろん、LINEは実務的な連絡に便利である面もあると思いますが、どうでもいいことすらやりとりすることで、仲間とつながっていられる安心感が生まれます。SNSは自分で発信するだけでなく、ただ見るだけでも「1人じゃない」を実感できるのです。

 例えば、あなたがクラスではまったく人気がないアイドルが好きだとしましょう。「自分の趣味っておかしいのかな」と思いながらも、SNSでそのアイドル名を検索すると、他にも好きな子が想像以上にたくさんいます。「自分の趣味っておかしくなかったんだ」と孤独感から解き放たれるわけです。

 これが一昔前でしたら、状況はまったく違います。1990年代、安室奈美恵さんを代表とするギャルブームがありました。この頃、あなたがもしそのギャルブームから外れたファッションで渋谷を歩いていたら「ちょっとダサい人」とささやかれたかもしれません。

 ところが、今の時代はSNSの存在が趣味やファッションの多様化を後押ししています。自分の周りを見ても、多様化が進んだと思いませんか? アニメが好き、清楚(せいそ)系が好き、アイドルが好き、モード系が好きなど、自分の好きなものを好きといい、服装も思うがままにしやすい世の中になりました。私は2005年からプリ機開発をしていますが、その変化には驚くばかりです。

 これは、女の子たちが1人じゃない安心感を醸成した結果とも言えますし、社会が多様性を肯定するようになったからとも言えます。どちらが先かは鶏と卵の関係ですが、いずれにせよ「寂しさを感じさせない」特性がSNSの人気につながっているのは間違いありません。

 自己肯定感を高めるには、他者から評価されることも大切です。これを女の子の目線で分かりやすく言うと、自分がかわいく、また他の人からもかわいいと言われることです。「自己肯定感」が上がることが大切なので、他の称賛でもいいのですが、かわいいは重要な部分を占めます。

 すでにお気づきの人もいるかもしれませんが、ここまで説明をした「自分が1人ではないという安心感」と「他者から評価されることも含めた自己肯定感」は密接な関係にあります。例えばプリントシールでは、仲のいい友達と写真を撮ったら、昔はシールを手帳に貼って友達と見せ合いました。また、かわいく撮れた様子を振り返り、自己肯定感をそのたびに実感できたはずです。

 今ではプリントシールの画像はSNSに載せます。かつては手帳にシールをいっぱい貼ってある子が仲間内では称賛されましたが、今、それはSNSの「いいね」に代わっています。記録として残り、かつ、それを周りの人にいいと言ってもらえるので、自己肯定感も得られるというわけです。

 プリントシールが20年以上にわたって女の子に支持され商品として生き残っているのも、女の子の二大行動原理である「自分が1人ではないという安心感」と「他者から評価されることも含めた自己肯定感」を兼ね備えているからといっても言い過ぎではありません。プリ機の例は、女の子向けマーケットでもそれ以外でも1つの参考になるはずです。

 新商品や新サービスを考える際は、「遊びながら、ユーザーがつながっていることを意識できるか。みんながそれを見て、称賛してくれるものか。SNSにもアップしやすくて、自己肯定感につながるか」ということをチェックしてみてください。ユーザーに受け入れられるかを判断する1つの基準になるでしょう。

※詳細は『カワイイエコノミー』に書きましたので、興味のある方はそちらをお読みください。

『カワイイエコノミー』
ヒット商品には、必ず「カワイイ」がある!
『カワイイエコノミー』(日経BP)
『カワイイエコノミー』(日経BP)
ヒット商品には、必ず「カワイイ」がある!

 洋服、キャラクターグッズ、雑貨、動画……あらゆる商品・サービスで「カワイイ」は一大マーケットです。また、若年女性向けの商品であってもなくても、ヒット商品のほとんどに「カワイイ」要素や、女性の心をとらえる仕掛けが含まれていることに気づいていますか?

 現代人にとって「カワイイ」はマーケットとしても、現象としてもビジネスをする上で知っておくべき要素です。
「カワイイ」には、以下のような要素が含まれるからです。

●ユーザーは「自分がターゲットじゃない」に敏感
●ヒット商品は、軒並み「自己肯定感」を感じさせるもの
●流行は、急に起こらない。必ず下地がある

 「そういえば……」と心当たりがある人もいるのではないでしょうか。一体、「カワイイ」とは何なんでしょうか。どうすればつかめるのでしょうか。

この本では、
 第1章で、ユーザーである「女の子」を心にインストールする方法
 第2章で、「流行」を把握する力を持つ方法
 第3章で、具体的な商品のつくり方
をご紹介し、うつろいがちに見える「カワイイ」と、それを売るにはどうしたらいいかがしっかり分かるようにお伝えします。

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