企業が商品やサービスを絶えず市場に送り出すときに欠かせないのが、「今、何がはやっているか」をつかむ力だ。特に若い女の子向け商品の市場はトレンドの変化が非常に激しい。この若年女性の流行をつかむ力がつけば、他のユーザーたちの流行をつかむのも簡単になるはずだ。一体、流行とは何なのか。どう始まり、どう終わるのか。プリントシール機で大ヒットを連発してきた、フリュー「ガールズトレンド研究所」所長の稲垣涼子氏が3回にわたって解説する。

※本連載は新刊『カワイイエコノミー』より、「流行」についての項目を一部抜粋、編集したものです
タピオカブーム終焉(しゅうえん)のときには、みんなタピオカを飲んでいた?(写真:aslysun/shutterstock.com)
タピオカブーム終焉(しゅうえん)のときには、みんなタピオカを飲んでいた?(写真:aslysun/shutterstock.com)

 2010年代前半までは流行をつかむ作業は、今に比べると難しくありませんでした。

 それは、女の子たちの好みが今ほど多様ではなかったからです。ギャルがはやればギャルの要素をみんなが取り入れましたし、読者モデル(読モ)ブームが到来すれば、みんな読モをまねしました。そして、清楚(せいそ)系がはやればみんな清楚系に流れました。

 しかし、今は以前ほど、ずば抜けて支持される人気のものはありません。

 一昔前は「好きなモデルさんは誰ですか」と女の子に聞くと、答えは一極集中していました。くみっきーこと舟山久美子さん、益若つばささんと、分かりやすい結果が出ていました。もちろん、今も女の子に人気のモデルさんはいます。ですが最近は、私たちも好きな「モデル」だけを聞く調査はしなくなりました。憧れたり応援したりする対象が広くなってきたからです。

「好きな有名人」の10年の変化。『カワイイエコノミー』154ページより
「好きな有名人」の10年の変化。『カワイイエコノミー』154ページより

 これは、もちろん今の芸能人が昔より魅力が劣っているということではありません。SNSが若者のインフラになったことで、人を引きつける魅力的な人があちこちでコミュニティーをつくることができるようになり、ファンが1カ所に集中せず、分散している結果です。SNSが登場したことで、かつてはマイナーとされた趣味も女の子たちは心から楽しめるようになりました。

 特にインスタグラムが普及したことで、「自分の好き」の画像を軸にコミュニティーが形成されて、流行の一極集中が消滅しました。アイドルが好きな人もいれば、俳優が好きな人もいる。ユーチューバーが好きな人も、モデルやタレントが好きな人もいて、さらにはその中での「推し」も人それぞれです。それは、ここ5年くらいの新しい大きな変化です。

 1つに集中していたピラミッド型のヒエラルキーがフラットに変わってきています。何かが一番すごいのではなく、「全部いいね」の時代になっています。お互い好きなものが違っていても、多様化を認め合うのがスタンダードになりつつあります。

 世の中ではダイバーシティー(多様性)が話題ですが、女の子かいわいではSNSを通じて一足先にその考え方が当たり前になっている印象です。今は「韓国っぽ(韓国風)」や「量産型」もいれば、清楚系もアイドル系もオタク系もいます。本当に女の子の世界は多様化しています。

 ちなみに、量産型とは「大量生産型」から来ており、周囲から浮かないように、流行の格好をする人のことで、淡い色の服を多く着ています。グループインタビューでは「私は量産型で」という言葉をよく聞きます。

新刊『カワイイエコノミー』(日経BP)
新刊『カワイイエコノミー』(日経BP)

 多様性を象徴しているのがテレビCMです。出演者の多人数化が進んでいます。それも著名な俳優や芸人などを組み合わせて、幅広い層にアピールできるようなメンバーをそろえています。特に若者を入り口で取り込みたい携帯キャリアはどこもこの形で、それも長年にわたって継続しています。また、アイドルも、1人ではなく多人数が人気です。多くメンバーがいることで、その中から「推し」と呼ばれる好きなメンバーを探し、応援することが当たり前の文化になっています。

 ですから、「今、大きな流行って何ですか」という質問が最も困ります。「大きな流行」が見当たらないからです。強いて挙げるとするならSNS、とりわけInstagramだといえます。

なぜタピオカがはやったのか

 例えば、2019年に大流行したタピオカにしても、その前にはやったホットクにしても「何で流行したのか」を突き詰めていくと、「インスタ映え」に行き着きます。タピオカが大ブームになりましたが、女の子たちはタピオカを飲みたいだけではありませんでした。「タピオカ飲んでる写真はめちゃ盛れる、タピオカ最高」がはやった理由です。

 Instagramの日本語アカウントが開設されたのは2014年2月です。ユーザー数は16年3月に1000万人、17年10月に2000万人を超えます。女の子に浸透してきたのはこの頃ですね。ですから、ここ5、6年のブームは、突き詰めていくとすべてInstagramにたどり着きます。今、女の子の流行はInstagramにすべて詰まっているといっても言い過ぎではありません。

 しかし流行は、少しずつ、絶えず変わります。ですので、大半の流行は気がついたときには古くなっています。流行すれば、「支持されるのは一時的だけ」です。今現在の自社のヒット商品やサービスはいずれ市場で古くなってしまいます。ここに気づけることが、企画や販売の力に必ずなります。

 では、どうすれば「自社商品が古くなった」と気づけるのでしょうか。

 ユーザーの女の子たちの時間軸では、だいたい1年前を「古い」とみなしています。私たちが1年前を「古い」とみなしているわけではなく、女の子の意見を聞いていると、1年たつと好みが確実に変わっていることが多いのです。ちなみに、もっと細かく見ていけば、春夏秋冬で女の子の気分は変わります。ただ、トレンドや好みの移り変わりは、女の子によって幅があります。

 どのくらいの期間で古く見えるかは商材によって大きく変わるので一概にはいえませんが、短期間に浸透し切ってしまった商品は、古く見えるのも早くなるといえます。逆に、ゆっくり浸透した商品は意外に息が長くなります。

 「最初がすごくいいもの」はもちろんですが、「最初がまあまあいいもの」もヒットする、ということに心当たりの方も多いでしょう。自分が仕掛けようとしている流行が大ブームになるかどうかは、初期の段階で予想できるともいえます。

 流行がいつ終わるのかの見極めには一つの大きなチェックポイントがあります。それは、女の子が楽しんでいる商品やサービスに「おじさん」が参加し始めたときが終わりの始まりです。大人がタピオカを飲み始めたら、急速にブームがしぼんだのを覚えている人もいるでしょう。

 かつては若者が多かったFacebookは現在、中高年の男性がメインのSNSになっています。21年に総務省が公表した「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」によると、10代は、LINEの利用率が93.7%なのに比べて、Facebookは19.0%です。一方、30代、40代のFacebook利用率は48.0%、39.0%です。

 実際、私たちが女の子たちに毎日使うSNSを聞いても、LINE、Instagram、Twitter、TikTokが大勢を占め、Facebookと答える人はほとんどおらず、「大人の方とやりとりするときには使います」というコメントも出ます。このように、流行は絶えず変わり続けます。「流行は変わる」ことを念頭に置いておき、ヒットに安住することなく、ユーザーの動向を常にチェックし続ける姿勢が大切です。

※詳細は『カワイイエコノミー』に書きましたので、興味のある方はそちらをお読みください。

『カワイイエコノミー』
ヒット商品には、必ず「カワイイ」がある!
『カワイイエコノミー』(日経BP)
『カワイイエコノミー』 ヒット商品には、必ず「カワイイ」がある!
ヒット商品には、必ず「カワイイ」がある!

 洋服、キャラクターグッズ、雑貨、動画……あらゆる商品・サービスで「カワイイ」は一大マーケットです。また、若年女性向けの商品であってもなくても、ヒット商品のほとんどに「カワイイ」要素や、女性の心をとらえる仕掛けが含まれていることに気づいていますか?

 現代人にとって「カワイイ」はマーケットとしても、現象としてもビジネスをする上で知っておくべき要素です。
「カワイイ」には、以下のような要素が含まれるからです。

●ユーザーは「自分がターゲットじゃない」に敏感
●ヒット商品は、軒並み「自己肯定感」を感じさせるもの
●流行は、急に起こらない。必ず下地がある

 「そういえば……」と心当たりがある人もいるのではないでしょうか。一体、「カワイイ」とは何なんでしょうか。どうすればつかめるのでしょうか。

この本では、
 第1章で、ユーザーである「女の子」を心にインストールする方法
 第2章で、「流行」を把握する力を持つ方法
 第3章で、具体的な商品のつくり方
をご紹介し、うつろいがちに見える「カワイイ」と、それを売るにはどうしたらいいかがしっかり分かるようにお伝えします。

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