アフターコロナ時代に選ばれる企業とは。地元密着店が愛される理由から、これからのビジネスのヒントを探る特集の第5回は、茨城県を中心に北関東で和食ファミリーレストラン「ばんどう太郎」などを展開する坂東太郎(茨城県古河市)だ。3世代、老若男女が訪れる秘密は、非効率さえいとわない独自戦略にあった。あえて非効率を貫く理由とは。

栃木県を中心に北関東で多様な飲食店を展開する坂東太郎。コロナ禍で苦しい中でも、地域の発展を目指し新業態「坂東離宮」をオープン。写真は創業者で会長の青谷洋治氏
栃木県を中心に北関東で多様な飲食店を展開する坂東太郎。コロナ禍で苦しい中でも、地域の発展を目指し新業態「坂東離宮」をオープン。写真は創業者で会長の青谷洋治氏

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 一升餅を背負った1歳の子供を見守る家族、尾頭付きの鯛の焼き物を囲む親子、赤いちゃんちゃんこを着たおばあちゃんを祝う孫たち……。親子3世代にわたって愛されるファミリーレストランがある。茨城県を中心に北関東で80店舗以上の飲食店を展開する坂東太郎(茨城県古河市)の和食ファミリーレストラン「ばんどう太郎」だ。日常的な食事から、家族の慶事、さらには弔事まで丸ごとカバー。まさに地域の集いの場として受け入れられている。

 1975年に和食レストランの1号店を開業してスタートした坂東太郎は、経営理念として“親孝行”を掲げ、地元密着レストランとして少しずつ拡大。2010年にはばんどう太郎の進化版ともいえる「家族レストラン 坂東太郎」ブランドの店舗展開を開始した。家族レストラン 坂東太郎は、メニューはばんどう太郎とほぼ同じだが、広い庭があり、個室や座敷が充実しているのが特徴で、より家族でのだんらんを意識したものになっている。店内に入るまでに小道を抜ける演出もまた面白い。さらに、20年3月には、地域で宴会用の施設が減っていて困っているという声を受け、会席料理の他、カニやしゃぶしゃぶ、ステーキなどを提供する新業態「坂東離宮」を開業した。

 地域に愛されていることを示す一つの数字がある。コロナ禍前の日曜日では、家族レストラン坂東太郎1店舗で、慶事の利用が10組に上ることもあった。ばんどう太郎・家族レストラン坂東太郎の店舗を合わせると、1日で300人ほどがお祝い事をするというから、家族ぐるみで愛されていることが分かる。

 地域に根ざしていることは、このコロナ禍の出来事でも垣間見えた。外食産業は全国的に大打撃を受けており、坂東太郎もそれは同じだ。いまだその影響からは脱し切れておらず、予断も許さない。特に、全国的に緊急事態宣言が発令された20年春、この危機がどこまで続くか見通しが利かない中、坂東太郎を助けたのは地域の住民だった。

 店舗に集まってもらうことが困難な中、坂東太郎は「地域応援弁当」を発売。そうすると、地域住民がこぞって購入。さらに、同社の創業者である青谷洋治氏の知人や地域の経営者たちも我先にと弁当の購入や周囲の人への“売り込み”を始めたのだ。それに応えるように、同社はこの苦境の中でもあえて積極出店を行う。「地域を盛り上げたい」(青谷氏)という思いからだ。

「人を集める」ではなく「人が集まる」場所へ

 坂東太郎が地元で愛される理由、それは「人が集まりたくなる場をいかにつくるか」を愚直に追い求めてきたからだ。

 「大きな箱をつくってから、いかに人を呼ぶのかを考えるのは本末転倒。安くすれば人が集まるかもしれないが、それは一過性のものにすぎない。味がいいことはもちろん、座っていたら居心地がいい、環境がいいといった、金銭的ではない充足感を得てもらうことを考え続けてきた」(青谷氏)というのだ。ファミリーレストラン業態の平均的な客単価は1000円程度といわれる中、ばんどう太郎では1500円を超えるという。決して安さで人を呼んでいるわけではない。

ばんどう太郎は北関東を中心に49店舗、家族レストラン坂東太郎は6店舗を展開
ばんどう太郎は北関東を中心に49店舗、家族レストラン坂東太郎は6店舗を展開
ばんどう太郎は和風の落ち着いた内装。個室を備える店舗も多い。さらに家族レストラン坂東太郎は、個室が充実するのが特徴
ばんどう太郎は和風の落ち着いた内装。個室を備える店舗も多い。さらに家族レストラン坂東太郎は、個室が充実するのが特徴

 集まりたくなる場をつくるためなら、“非効率”もいとわないのが坂東太郎流だ。

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