閲覧するデバイスの違いで広告や口コミなどに対する消費者の印象や評価は変わるのか。そうした疑問について「解釈レベル理論」を基に検証した論文がある。4つある研究テーマのうち、これまで3つについて解説してきた。今回は最後の研究4、漫画アプリの広告を使った実験データから、スマホとパソコンで消費者の購買行動にどのような差が生じたのかについて見ていく。
バナー広告掲載あたりの購入数などを検証
早稲田大学商学学術院の須田孝徳氏が、青山学院大学経営学部准教授の石井裕明氏、上智大学経済学部准教授の外川拓氏、名城大学経営学部教授の山岡隆志氏らと執筆した論文「デバイスの違いが消費者反応に及ぼす影響 ―解釈レベル理論による効果の検討―」では、次の4つの研究結果が実験で確認できた。
[研究1]スマホ(スマートフォン)のほうがPC(パソコン)よりも物理的・心理的な距離が近いので、そのデバイスを使って知った対象に対してより親しみを覚えた。
[研究2]スマホで読んだほうがPCで読むよりも「口コミ」を身近に感じ、その内容は具体的で副次的なものとして捉えられた。
[研究3]スマホで見る人には具体的かつ副次的に訴える広告、PCで見る人には抽象的で本質的な広告のほうが、広告自体と広告された製品の評価が高かった。
[研究4]実際に漫画アプリのバナー広告で検証すると、PCよりスマホのほうが心理的距離が近い広告に対する購入数が多くなった。
今回検証する研究4について須田氏は、「実験ではなく、実際の企業のデータを分析したとき、デジタルマーケティングでよく使われるクリックあたりの購入数などでも、研究1、2、3の分析結果と同じような広告効果が確認できるのか、検証してみようと考えました」と話す。
「スマホやPCで買い物したり、ゲームなどを楽しんだりしていると、漫画のバナー広告がよく出てきます。あの広告に関するデータを漫画アプリの企業から提供してもらい、バナー広告掲載あたりの購入数やクリックあたりの購入数などを分析しました」(須田氏)
実際の消費者の商品(漫画)購入データを使って、どのような分析を行ったのか。
「解釈レベル理論は、対象と自分との心理的距離(時間的距離、空間的距離、社会的距離などに分類できる)の違いによって、対象への解釈が変わるという理論ですが、研究4では漫画の主人公と自分との社会的距離に着目しました。そこで、解釈レベル理論に基づいて『スマホで見たときは社会的距離が近い主人公の漫画、PCなら社会的距離が遠い主人公の漫画がより好まれる』という予想を立て、それを調べました。主人公が普通の学生や主婦、ビジネスパーソンであれば、消費者は社会的距離を近く感じる。一方、主人公が特殊な人間や動物、悪魔、宇宙人などであれば、消費者は社会的距離を遠く感じる。結果、スマホでは一般的な主人公の漫画、PCなら一般的でない主人公の漫画が好まれるはずだという予想を、二元配置の分散分析で確かめました」(須田氏)
須田氏らは解釈レベル理論に基づいて、次のような予想を立てた。
・主人公が一般的な(普通の学生や主婦、ビジネスパーソンなど)漫画 → 消費者にとって社会的距離が近い → スマホで見たときにより購入されやすい
・主人公が一般的ではない(特殊な人間や動物、悪魔、宇宙人など)漫画 → 消費者にとって社会的距離が遠い → PCで見たときにより購入されやすい
では、この予想を検証するために行われた研究4の具体的な手順を説明していこう。
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